「黄金の三角地帯」がなくなる日を夢見て

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ミャンマーの大都市ヤンゴンに立派な邸宅が見受けられるようになってきた。近年の経済発展の波に乗り、多くの富裕層が誕生している事実を考えればうなずける。一方、中国との国境付近のシャン州東北部にあるラオカイという田舎町にも豪華な邸宅がたくさん建っている。国連の統計上では東南アジア最貧国の一つに属する国とは思えないほど豪華で、ミャンマーの他の地方の質素な家々と比べるとその違いは際立つ。シャン州のこの町に金持ちが多い理由は何か——。それは、麻薬だろう。

シャン州の山間部は麻薬生産で知られる「黄金の三角地帯」(ゴールデントライアングル)の一角を成す。ミャンマー政府の努力に加え、日本の代替作物導入に関する技術協力や国際社会の支援もあり、麻薬の原料となるケシ栽培は撲滅に向けて一定の進展を見せてきた。しかしシャン州北部の一部地域では現在でもケシ栽培が行われている。宝のある畑を農民もなかなか手放せないでいる。麻薬問題はミャンマー国内のみならず、周辺国にも影響を及ぼすため国際的課題でもある。

この難題を解決するためにJICAは、今年5月、「シャン州北部地域における麻薬撲滅に向けた農村開発プロジェクト」を立ち上げた。私は新入職員海外研修の一環として、この現場を体験した。

プロジェクトの専門家の一人、吉田実専門家は「ケシ撲滅のためには、取り締まりや強制刈り取りなどの法的統制だけでなく、代替開発という形で農民の生活を安定させる状況を作り出すことが不可欠である」と言う。しかし、なかなか一筋縄にはいかないことを、さまざまな村を訪れ農民と語り合う中で感じた。これまで、ケシ栽培を頼りに生きてきた農民にとって、代替作物といっても何を作ればよいのか分からず、知識もない。また市場メカニズムが整っていないため、どうやって売ったらよいのかも分からないのである。

ケシ撲滅は、その町に根付いていた産業を根底から変えることを意味する。だからこそ、農民の主体的な関与が求められる。吉田専門家は常々、「ABCを心掛けるよう意識している」と言っている。ABCとは「Attitude and Behavior Change(態度と行動の変化)」の頭文字をとったものである。日本の常識ややり方の押し付けでは、ABCは起こらない。相手国の文化や習慣を尊重し、まずは相手や現場をよく知り、信頼関係を築いていく。そして、現地の人たちとともに試行錯誤しながら、彼らの経験値を高めていく。その中で、改善方法、新しい方法を提案していくのが吉田専門家のやり方だ。
プロジェクトでは村を移動する際に、険しい山道を通ることが多く、一歩間違えれば谷底へまっしぐらという難所も存在する。こうした時、ドライバーに命を預けていることを実感する。そのような道を慎重かつ正確に運転する技術を身に着けたドライバーのウチョースイさんも、このプロジェクトには無くてはならない存在だ。専門家の信頼も厚く、天候や道路の状態が悪い時は、彼の判断で引き返すこともある。大雨が続き移動が困難な時などは、特に道路整備の重要性を感じる。道路などの地方インフラの整備が住民の生命線になっているのである。

プロジェクトは始まったばかりだが、1日も早く成果が出るようにプロジェクトメンバー全員で団結し、一歩一歩、活動を進めている。ミャンマーから麻薬が撲滅され、「黄金の三角地帯」という表現が死語となる日を夢見て——。

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プロジェクトの関係者(前列左から4人目が吉田専門家)

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大雨でぬかるんだ道路

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農民指導の要となる「普及員」育成に力を入れる片山専門家(左)


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