予防接種拡大の壁

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私は現在JICAの新人研修で、パキスタン事務所に配属されています。先日、予防接種強化プロジェクトの一環で行われている、女性の保健普及員(レディ・ヘルスワーカー(LHW))に対する研修に参加する機会をいただきました。

私は同研修に参加するまで、「なぜLHWに対して研修を行うのか?」という素朴な疑問を持っていました。

今回の研修に参加して、その疑問への答えが「子どもの命を守っているのが、多くの場合お母さんたちだから」 だということを理解しました。パキスタンでは、地方の慣習で女性はめったに外出できない地域もあり、昼間お父さんは稼ぎに出ています。

LHWは幼い子どもを抱える家庭に対し、最寄りの保健センターに行って子どもに予防接種を受けさせることを促します。それでも保健センターまでの地理的な距離や、文化・慣習による移動制限等の理由で、どうしても保健センターまで行くことができない家庭に対しては、LHWが各家庭に赴き、予防接種を実施しています。

それでもパキスタンで予防接種を広めることは容易ではありません。

仮に、私がパキスタンのある地域の住民であったとして、突然自分の家に普及員が現れ、その注射の中身・必要性の説明もなく、「この注射を打ちなさい」と言われたら、きっと耐えられないだろうと想像しました。実際、予防接種は、まだまだパキスタンでは日本のように周知されていないので、非常に警戒されるようです。

警戒している家族を説得するためには、予防接種への十分な知識に加え、相手を説得するためのコミュニケーションスキルも要求されます。そのため、LHWは高い能力を要求され、日々の業務では多数の困難に立ち向かわなければならないようです。

今回参加させていただいた研修で、強く印象に残ったのは、孫に予防接種を受けさせたがらないおじいちゃんを説得する「ロールプレイング」でした。演習では、いかにも頑固そうなおじいちゃん役が登場し、研修に参加したLHWたちは言い負かされそうになりながらも、何とか学んだ知識を活用し、説得することに成功したようでした。

また、強く感銘を受けたことは、この仕事に携わるモチベーションについて、研修参加者全体に向けて私から質問をさせていただいた時のことでした。LHWたちからは、「自分たちのコミュニティを守りたい」、「なかなか外出できない女性の力になりたい」といった力強い意見が聞かれる中で、「知識と技術を得ることで、自分に自信を持つことができる」という回答もありました。

私は、イスラム教の女性に対し、男性の目の届かないところで、寡黙に日々暮らしているといった、一種のステレオタイプなイメージを持っていました。その認識が誤りであったことに気づかされました。今後は、JICAのプロジェクトを通じて、彼女たちのような熱い思いを抱いている人の力を、うまく引き出せる仕組みづくりに関わっていきたいと思いました。



(関連リンク)

チャレンジングな現場(2017年11月28日掲載 山城 舜太郎(職員、熊本県出身))

(畜産)適正技術の開発を通じて人を育てる(2017年12月15日掲載 山城 舜太郎(職員、熊本県出身))

プロジェクト概要 「定期予防接種強化プロジェクト」

「ワクチン接種」でつくるパキスタンの未来、ゲイツ財団と連携も——「世界予防接種週間」に寄せて(2017年4月21日、トピックス)

各国における取り組み パキスタン

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赤ちゃんの人形を使った注射の実技

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研修で使用した赤ちゃんの人形等の資材

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子どもの家族を説得するロールプレイングの様子


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私から女性の普及員への質問

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