ウズベキスタンラグビーはザシータ、タックル!

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JICAボランティアには、「自分の技術や経験を途上国の人々のために役立てたい」という人が多いだろう。ウズベキスタンでは2015年11月の時点で40人以上のボランティアが活動しており、医療分野や青少年活動等において自身のスキル・経験を活かしている。そんな中、少し違った意図も持ってJICAボランティア制度を活用する人もいる。

「ザシータ(ロシア語でディフェンス)はプレスで!」「アタッカー、イメージ、パス、ゲットボールね!」ここは首都タシケントのあるグラウンド。練習中のラグビー選手にロシア語と英語に日本語の助詞が混ざった独特の指示を出しているのは、今年3月に短期ボランティア(青年海外協力隊)として着任した女子ラグビーウズベキスタン代表チームの日本人コーチ、白馬悠隊員。ラグビーはウズベキスタンではマイナーなスポーツで、女子ラグビーのレベルはアジアの中でも高くない。女子代表を強くするため、またナショナルチーム強化のコーチ経験を積むため、日々指導に当たっている。

白馬コーチは、中学・高校と茨城県のラグビー強豪校でプレーし、アメリカの大学へ留学した。日本のクラブチームでプレーしたのち、指導者の道を歩むべくニュージーランドでコーチングを学ぶため再び留学。帰国後、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)が主催する「アジアン・スクラム・プロジェクト(注1)」の一環で青年海外協力隊としてスリランカに派遣され、ラグビー普及のため、未経験者への指導を行った実績を持つ。日本国内の女子ラグビーチームのコーチ経験を経て、再び「JICA-JRFUスクラム・プロジェクト(注2)」で、今年3月、ウズベキスタンに着任した。

「現実的な目標はオリンピック予選ベスト4。究極の目標はオリンピック出場」練習直前にそう語る白馬コーチ。タシケント市内のグラウンドで行われたある日の練習に同行すると、コーチは練習開始に当たり、まず選手を集合させた。チームには、ロシア語もウズベク語も話せる選手も、ウズベク語しかわからない選手もいる。3ヵ国語を交えた独特の白馬コーチ語に具体的な説明を助ける道具なども加え、丁寧に練習内容を指示。指導のとき特に意識しているのは「理論づけて説明すること」で、なぜこの動きをするのかということを説明し、選手にも納得してもらっているという。さらに「ガバリーチェ、ガバリーチェ!(ロシア語で、積極的にコミュニケーションを取れ!)」と練習中に叫び、選手同士の対話を重視している。

旧ソ連の体質が今も残るウズベキスタンでは、トップダウン方式で物事が決まることも多く、選手間のコミュニケーションを重視する指導方法は、選手たちにとって非常に新鮮で楽しそうに見える。

今年3月にインドで行われた途上国だけのリーグ戦では優勝という結果を残し、オリンピック予選への出場権を獲得。確実にチームは強くなってきており、選手たちのモチベーションは高まってきている。同時に白馬コーチ自身の指導力も向上し、チーム全体が良い方向に向かっている。

JICAボランティアの応募理由はさまざま。白馬コーチのように、代表チームの指導経験を積み、自身のコーチング能力を向上させたいという気持ちが、途上国支援に大きくつながっているケースもある。

(注1)JRFUが、アジアラグビーへの貢献活動として2012年1月から開始したプロジェクト。アジアでのラグビーの普及発展のため、指導者派遣や練習用具の寄付などを実施している。
(注2)アジア初となる日本での「ラグビーワールドカップ大会2019」の成功に向け、JRFUとJICAが協力して各国チームの強化に協力しているプロジェクト。アジア諸国にラグビーを職種とする青年海外協力隊員やシニア海外ボランティアを派遣し、ラグビー競技の発展や普及活動などを行っている。

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選手たちを集め、守備のときの動き方を説明する白馬コーチ

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ラインアウトからのリスタートの練習場面

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白馬コーチ(右)と筆者(左)


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