エジプト農村での小規模農家支援-機会の提供から次の一歩をどう考えるか-

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エジプトは、世界最長の大河川ナイルの恵みにより農業が盛んです。中東の人口大国ならではの国内市場の大きさのみならず、近傍の中東諸国や欧州などへの農産物輸出も農業振興の機会を提供しています。しかし、高収益を得るチャンスが高い農産物輸出市場は、少数の大規模農家やアグリビジネス企業で占められており、開発協力の主たる対象となる零細な農家にはなかなかアクセスできない状況です。

私たちの技術協力プロジェクトは、農業行政を取り仕切る農業土地開拓省と協力し、小規模農家が市場のニーズに基づいて作物を栽培し、より有利に販売して所得向上につなげられるよう、農家が営農改善する上で市場を意識するように仕向けています。その一つの取り組みとして、食品業者と小規模農家のマッチングを行い、輸出用作物の契約栽培などの機会を農家に提供する活動を実施しています。

この活動を通して具体的な契約まで至ったケースはまだ少ないのですが、一つの村で熱心な農協組合長のリーダーシップにより、サツマイモの契約栽培がはじめられることになりました。企業側も、エジプトの農村発展に貢献したいという思いがある経営者で、最初は小規模に試行しようということから5戸の農家との合意で栽培が開始されました。

日本側としては、営農改善のアイデアと機会の提供が目的であり、農家と企業の取引には介入しないことを原則としていました。しかし、農家の不平に対して企業の反応が鈍いという現実があり、プロジェクトから農家の声を企業に伝え、話し合いの機会をお膳立てするといった支援を行ってきました。

企業が栽培してほしい品種のつるが村に搬送され、企業の農業指導者が無農薬栽培で行うことなどを指導して、栽培がはじまりました。ここからお互いの激烈なバトルが繰り広げられることになるのです。

サツマイモのつるに関し、農家が「このつるは無償提供すると言った」と主張するや、「いやそんなことは言ってない、ちゃんと買い取り金額から差し引く」と企業側も応酬。結局、農家がつる代を若干払うことで決着。次は、サツマイモの輸送費。これもどっちが負担するかの駆け引きで、最終的には農家が負担。

そして収穫物の扱いではさらにもめます。農家は「企業側が全量引き取ると言った」と主張しますが、企業側は「いや品質のいいものしか引き取らないと言った」とまたも悶着(もんちゃく)。結局企業側の規格に合うサツマイモは収穫量の2割程度にしかなりませんでした。残りは、地元の市場で販売するしかありません。しかも、企業がサツマイモを引き取った後で、例のつる代価格がまだ折り合わず、農家への支払いが遅延しました。

こんな風に、高所得を狙えるのでは、とはじまった契約栽培でしたが、一筋縄ではいかないことを、今回の事例から学びました。

ところでこれらの問題、契約書を文書化してなかったことがそもそもの発端です。実は、いろんな場面で都度交渉して利益を最大化しようという思惑から、両者が意図的に契約を文書化しなかった節もあります。私は、契約書が作られていないことに途中から気付いたのですが、両者の思惑を嗅ぎ取り、ビジネスにはいろんな戦略があるものと思ってやはり介入は避けました。

農家は思ったようにはもうけられずわれわれに不満もぶつけておりましたが、契約栽培への意欲は堅持。企業買い取り価格は地元市場価格の3倍近くにもなることがあるので、農家も交渉に苦労はしたものの、その可能性は認識したようです。ただ今度は契約書を作る、と農家の方々はしみじみと語っていました。

この小規模農家の契約栽培の促進支援は、農業土地開拓省としても新しい取り組みです。ご紹介したさまざまな問題は、妥結がなければ最終的には裁判所に行くことになりますが(上の事例では幸いそこまで至りませんでした)、その前にプロジェクト実施機関である農業土地開拓省がすべきことは何かをしっかり議論しなければと反省するところです。また日本側としても、新たな取り組みの過程で持ち上がる問題にどこまで直接介入すべきか再検討が必要と、思いを新たにしています。

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契約栽培に参加した農家。企業の指導により無農薬でサツマイモを栽培

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企業が要求する規格は、表面に傷がなく大きさが900グラム未満のもの

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企業が引き取らないサツマイモは、地元市場で販売。売値は低くなる


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