忘れられたマーシャル諸島

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私の故郷は宮崎県高千穂町。山々が押し迫るように住居を囲んでいる。今ではどこを向いても海。そんな大洋州の小さい島にいても、しばしば日本語に出合う。

マーシャル諸島は南洋諸島の一部として1919年から1944年にわたって日本が占領し、1,000人以上の日本人が移住したと言われる。その間、現地人に対して日本語教育が行われた。マーシャル人が靴を脱いで家に上がるのは日本統治時代の名残だ。戦後70年、日本語でコミュニケーションの取れる世代はもうほとんどいない。

カズミやユミコという名前、カネコ、ミズタニ、イシグロという苗字もよく目にする。私の日本語クラスの学生もだが、タクシーの運転手など、日本人を先祖に持つ人は、いつもそれを誇らしげに語る。また、日本人に対しての親近感が強く、日本人というだけで無条件に褒められることもある。

サシミ、スシ、アメダマはマーシャルの代表的食べ物だ。Sの発音のないマーシャル語。サシミは「ジャージミ」と発音される。マーシャルでいうスシは手巻き寿司のことで、中に入れるたくあんを「ダイコン」と呼ぶ。アメダマはココナッツで作られ、大戦中、日本人コミュニティーのあったジャルート環礁の特産品だ。野球も「イヤキュー」と呼ばれる人気のスポーツだ。私の学生は、その祖母が「バカヤロー」と怒鳴るのだが、正確な意味は知らなかったと言う。

「ジャンポ」は散歩のことで、マーシャル語の頻出単語ナンバーワンだ。語学研修中、ホームステイ先のお母さんが「ジャンポ行こう!」と私を連れ出し、車で近所を徘徊した。車に乗ってもジャンポ、環礁内で泳ぐのも散歩、ハワイまで飛ぶのも散歩。「タリナイ」が「戦争」の同義語として使われるのにも驚いた。

日本語はカタカナがあるため、それが外来語だとすぐにわかる。一方で、マーシャル語はローマ字表記。ショウユもデンキも元は日本語だったなんて若者たちは知らない。

初回の授業で「皆はすでに日本語を使っているんですよ。日本語の勉強はマーシャルの歴史を知ることでもあるんです」と話す。学生たちは素直にうなずく。ところが、歴史を忘れているのは私たち日本人なのだ。支配していた過去はそんなに大昔のことではない。ほとんどの日本人はマーシャルのことを知らないよ、なんてこの国の人々に申し訳なくて絶対に言えない。私も協力隊の選考審査に合格するまで、マーシャルについて何も知らなかった。

日本語教師として日本文化を伝えることが使命だと意気込んでいたが、今は日本人にもマーシャルをもっと知ってほしいと思う。



(関連リンク)

各国における取り組み マーシャル

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ココナッツを材料に作られるアメダマ

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授業で寿司作り

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書道体験をする学生たち


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自分たちで浴衣を着ました!

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アミモノと呼ばれる工芸品。ココナッツやパンダナスの繊維を使用

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日本語クラスでのひとコマ


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