南の島の農業先生、奮闘中!!

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この村の学校には時計が見当たらない。あっても止まっていたり、ずれていたり......。授業の始まりと終わりは、当番の生徒がチャイム代わりにガスボンベを打ち鳴らす音で知らされる。

私は青年海外協力隊員として、南太平洋に浮かぶ島国ソロモンの学校(注)で農業の授業を行うほか、付属農場で学校給食用の野菜を作る手伝いをしている。

学校敷地内に私のために用意された教員用宿舎は教室まで歩いて1分の好立地。朝から洗濯に励む隣りの奥さんとあいさつを交わし、頻繁に降る雨のせいでめったに乾かない道を行く。教室で待っているのは、日本の中学1年生に当たる40人の生徒たちだ。まだおしゃべりを続けたそうな生徒たちを落ち着かせ、「Good morning everyone(みなさん、おはようございます)」と最初のあいさつ。すると、「Good morning Sensei(おはようございます、先生)」と返ってくる。以前、別の隊員が訪れた際に教えた日本語が定着してしまった。今日も元気いっぱいである。

ソロモンでは英語が変形したピジン語という現地語が話されている。そして私もピジン語で授業を行っているものの、上手に話せるように必死で練習する毎日。しかし大きな言葉の壁を感じてもいた。新しい視点で授業を見直すことを期待されていたはずなのに、カリキュラムどおりに教えるのが精いっぱいなのである。むしろ言葉がつたない分、生徒には分かりづらいだろう。現地の先生に相談してみても、今一つひらめくものがなかった。何か自分ならではの特色を出したいと感じていた。

契機になったのは、他隊員を招いて開催した特別授業だった。普段、私が教えていない日本の高校3年生に当たる生徒を対象に、農産物を作るだけでなく上手に販売することを知ってもらおうと企画した。先輩隊員が生徒をグループに分け、売買の駆け引きを体験させるゲームを行ったところ、生徒には大変好評で、夢中になって取り組む姿が印象的だった。「楽しみながら学ぶ」ということが、生徒たちが求めていることだとあらためて知った。

中学1年の生徒、特に男子はなかなか集中力が続かない。実習中も少し目を離すと抜け出して川で遊んでいたりする。単調になりがちな作業の中に楽しみを見いだせたらと思い、「ガーデニングコンテストをやろう」と持ちかけてみた。生徒は大いに乗ってくれて、畑を柵で囲ってみたり、花で飾ってみたりと楽しそう。相変わらず実習に参加しない生徒はいるものの、「この作業はなんのため?」などと質問してくる生徒が増えたような気がする。少しずつだが、自分なりの授業の形が見えてきている。

ある日の実習中、何となく思いついて生徒に聞いてみた。「将来の夢は?」。医者、パイロット、エンジニア......。いろいろな答えが返ってきたが、一人の生徒が「農業の先生になりたい!」と答えた。なかなか泣かせてくれる。私は日本で農業普及指導員という農家を支援する仕事をしてきたので、教育について学んだことはなかった。教壇に立つことは大きな挑戦だったが、この一言に救われたのだった。

(注)ソロモンの中等教育は中高一貫で6年制が一般的。

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始業ベルの代わりにガスボンベを打ち鳴らす生徒

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特別授業でグループワークに取り組む生徒

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教壇に立つ筆者


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実習農場で生徒たちと一緒に(右下が筆者)

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