離任する柔道協力隊員にインタビュー

2009年9月7日

9月下旬、2年間の任期を終え、松原知美隊員が帰国します。松原隊員はインド柔道連盟からの要請を受けてパンジャブ州パティアラに派遣され、その後2009年1月よりデリーに任地を移し、デリー市内の道場にて柔道の普及に尽力してきました。また、派遣期間中にはウッタラーカンド州、ウッタルプラデシュ州、チャッティスガル州等で開催された柔道合宿にも参加し、地元の若手柔道家に対する指導を行ってきました。任期終了にあたり、松原隊員の道場を訪ね、離任前の今の心境を語ってもらいました。

Q1.インド柔道と日本柔道との大きな違いについて気付いたことを教えて下さい。

(松原)インドと日本の柔道の大きな違いをあげるとすればやはり柔道スタイルだと思います。日本は柔道が発祥の地と言われているように昔ながらの本来のきちんと持った柔道スタイルが良いとされており、それを日本の指導者達も根底に教えているんだなとインドに来て感じる機会が多くありました。インドも近年よく耳にする「柔道」というより「JUDO」というように柔道のスタイルも変形の選手が多く、私自身も指導していく上で、インド選手から時々とても難しい質問やユニークな質問を受けることがあり、日本にいて日本人に指導するだけでは経験できないとても良い指導経験を積むことができたと思っています。

Q2.インドでは、指導者は選手を引退したら柔道着を着ないで口で指導するのみ、ということが一般的であるということですが、そのような状況でのインド人選手に対する効果的な指導法についてお聞かせ下さい。

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地元練習生に技を仕掛ける松原隊員

(松原)インドで柔道のコーチや監督になろうとした時に、いくら優秀な成績を残した選手であっても必ずコーチ学を1年学ばなければいけないシステムになっており、そこが日本と異なると思います。逆に言えば、別に柔道をやったことがない人であっても1年間そこで学び試験にパスすれば柔道のコーチにはなれるということです。今のインドの現状としていくら優秀な選手であってもコーチになるよりも他の給料や待遇の良い仕事につくということが多く、実際に本人達に聞いてみてもコーチという職に興味はないということでした。

しかし、これからのインドの柔道が発展していくためには、いま現在国際大会等で活躍している優秀な選手達が自分自身も競技経験者であるゆえの強みを武器にこれから未来の柔道選手を育てていくのが良いのではないかと思っています。まずは損得にこだわらずに選手達の為に一緒に泣き、怒り、共に汗を流して信頼関係を築き、上を目指していくコーチを作ることで、インドの柔道は更に良くなっていくのではいかと思います。

Q3.インド人柔道家の将来性、向いている技などについてお考えをお聞かせ下さい。

(松原)インド人柔道は全国的に強い地方とそうでない地方の差が激しく、強い選手を輩出している場所では毎日練習をしているけれど、そうではない地方では試合前に少しだけ練習して試合に出場、もしくは全くの初心者で試合に出場している場合もあり、最初の頃はまずはそのインドの柔道というものを理解することにとても戸惑いました。しかし、インドの柔道選手達の中には身体能力や体格に恵まれている選手がとても多く、これからの可能性をとても感じられるのも事実であると思います。

しかし、どのスポーツでも共通しているとは思うのですが、やはり継続して何かを続けることの重要性、特に柔道においてもこの考え方はとても重要であると思います。この考え方を伝えようと頑張りましたが、どれだけインド柔道家の選手達に伝わったかはわかりません。しかし、少しずつでもまいた種が後輩の柔道隊員によっていつか芽が出て、後々には花が咲いてくれるといいなと感じています。

Q4.ご自身が女性柔道家としてインドに来られて、世間一般のインド人たちの女性柔道家に対する見方について特に何か感じられたことはありますか?また、インドで特に女性柔道家を増やすためには、どうすればよいと思われますか?

(松原)インドにおいて女性の柔道家を増やすことはインドの柔道界でもとても難しい問題のようです。1つは女性の柔道コーチが少ないという点。日本でも男性の監督の方が圧倒的に多いのが事実ですが、インドは女の子が柔道をしかも男性の指導者の下でやらせるということに心配な親御さんが多いと実際に選手達に聞いたことがあります。そのような背景で本人はやりたくても柔道ができないということもあるようです。私自身、キャンプ等でよく数少ないインド女性柔道コーチの方と交流を持ったことがありましたが、皆さんとても優しく、インドの女性は本当にたくましくて母性愛に満ち溢れているなと感じられました。そのような素敵な女性インド人コーチが更に増えていってくれることをこれからも期待したいと思っています。

Q5.インドでの柔道の昇段審査はどのように行われているのでしょうか。国内で正式に段位を認定できるのでしょうか。

(松原)インドの昇段審査は私が2年間いる間に定期的に行われていたようで、日本では白帯から黒帯というのは講道館の規定がなされているのですが、白帯以前の黄色帯や茶色帯の昇段については都道府県によってまちまちであると思います。しかし、インドはきちんとそこらへんの茶色帯、黄色帯等の細かい昇段についてもきちんと行っており、小さな子供達にとっては柔道に対するモチベーションの維持や興味が更に上がると思い、とても良いことだなと感じています。

Q6.最後に、2年間指導されてきて嬉しかったこと、よかったと思ったことは何ですか?

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道場のコーチ、練習生と一緒に

(松原)2年間インドで柔道の指導にあたり、活動の後半ではインド各地に出向き色々な選手達に出会うことができました。インドには多くの監督の方々がおり、協力隊としての強みの若さを生かして、自分が競技経験者ということも生かし、インドの監督の方々からは少し違った目線で選手達と接してきました。いつもインドの柔道の選手達が何を求めて、何を必要としているのかということを明確に理解し、選手が試合に負ければ一緒に悔しがり、勝てばともに喜び、良い時も悪いときも共に同じ目線で頑張ったことはとても良い経験になりました。インドの選手達は大抵自分の先生の事を「サー」か「マァム」と呼ぶのですが私は最初の任地のパティアラで「コーチ」と呼ばれて以来、それからどこに行ってもそのパティアラ繋がりでいつもみんなが「コーチ」と尊敬と親しみを持ってどこの地方の選手も出身関係なく呼んでくれることがとても嬉しいなと感じています。

2年間色々なことがありましたが、今ではインドの選手達に本当に感謝し、これからインドの柔道選手が世界で活躍し、いつかオリンピックでメダル争いに食い込んでくるような選手が現れることを日本から願っている次第です。ありがとうございました。

(聞き手:インド事務所 羽根岡・山田)