草の根技術協力活動の成果を州政府関係者に紹介 ─宮崎大学の地下水砒素汚染総合的対策

2010年2月15日

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シンポジウムの様子

2月11日、ウッタルプラデシュ(UP)州の州都ラクノウで地下水砒素汚染問題に関するシンポジウムが開催されました。ラクノウから北に100kmほど離れたバライチ県で、宮崎大学が現地NGOエコフレンズをパートナーに共同で行なってきたJICA草の根技術協力「地下水砒素汚染の総合的対策」プロジェクトが今年5月で2年間の協力期間を終了することから、この間の活動成果、教訓と課題を、UP州の政府関係者や砒素問題に関心を持つ研究者、NGO、マスコミ等と情報共有しようということで行われたものです。

開会式典には、宮崎大学菅沼学長をはじめとし、UP州水道公社(UPJN)のスリバスタヴァ総裁、アジア砒素ネットワークの対馬ダッカ事務所長が来賓として出席し、JICAインド事務所からも山田次長と榎木企画調査員がシンポジウム全日程参加しました。

ガンジス・メグナ・ブラマプトラ河流域全体で、1億人以上の住民が砒素汚染地下水の摂取による健康リスクに晒されていると言われています。しかし、こうした流域全体を纏めてとらえ、地域の共通課題であるという認識が政策立案者、マスコミ、学界、市民社会といった全てのレベルで十分ではありません。地域の状況は地域によって異なるため、地域特有の社会経済環境を踏まえた水利用の取組みが必要ですが、地域住民の見方は狭く、新たなアイデアが出てくる余地は大きくありません。流域全体で各個別地域間での知見を共有する場がもっと作られる必要がありますが、今これを行っているのは外部者の立場でこの問題を見てきたアジア砒素ネットワークや宮崎大学のような外国の団体です。

また、インド各地で活動している草の根技術協力実施団体が共通して直面している問題は、住民の意識を変えることです。砒素の場合、汚染された水をコップ1杯今飲んだからといって明日死ぬわけではありません。このような、ゆっくりと死に至るリスクに対して、住民を意識付けすることは極めて難しいといえます。「これは自分自身の問題」だと気付かせるための工夫が必要ですが、これには草の根レベルでの地道な啓蒙普及活動が求められます。

また、砒素は水利用から水質、保健医療、農業、コミュニティ開発といった様々な分野課題にまたがる課題ですので、1つの政府機関がこれら全ての課題を網羅して対策立案・実施を担うことは不可能です。UP州ではUPJNが中心となって砒素問題のタスクフォースがありますが、こうした取組みは他州でも進められる必要があります。また中央政府においても砒素問題に包括的に取り組むための制度枠組みがありません。

砒素問題では、対応を誤るとそれによって最も影響を受けるのは住民です。この問題に取り組むに当たっての目標は、「いかにして住民の健康リスクを軽減するか」に尽きるといえるでしょう。シンポジウムに参加したJICAからの出席者は、住民の視点に立った議論となるよう、積極的に発言を行いました。

水供給の関係者の間では、「技術的に適切な構造物(井戸や砒素除去装置)を作れば問題は解決される」という信念があるようです。しかし、それには資金が必要ですし、構造物はどこに設置するのか、適切な使い方を誰が利用者にどのように教えるのか、そして利用者が適切な維持管理を行なうためのルールをどう作り、そのルールをどのように運用していくのかといった幾つかの課題があります。そのためにはその地域のこと、社会経済環境や村の権力構造、利用できる水の水源とその所有関係などを正しく理解し、住民に密着した働きかけが必要でしょう。それがどれだけ難しいことなのか、それを宮崎大学とエコフレンズがどのように克服してきたのか、それがこの課題に取り組む際に私たちが先行者から最も学んでおかねばならないポイントであるように感じました。

(文:インド事務所・山田)