デリー地下鉄が全線開通 —インドにさらなる発展を—

2011年9月7日

インドの首都デリーを支える地下鉄ネットワークの完成

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デリー準州首相による開通セレモニー

約1,700万人の人口を抱えるインドの首都デリー。経済成長により都市化が進み、自家用車が急速に普及したため、道路の慢性的な渋滞と、車の排気ガスによる大気汚染が問題となっていました。そこでインド政府が打ち出したのが、「デリー地下鉄建設計画」です。デリーの都市交通政策・都市環境問題対策の柱として計画されたこのプロジェクトを、JICAは計画段階の1995年から16年間にわたり支援してきました。そして2006年11月に全線開通したフェーズ1に続き、2011年8月27日、ついにフェーズ2全線開通の日を迎えました。

全線開通により、デリー地下鉄の総延長距離は190kmとなり、東京メトロ(195km)と同規模の地下鉄ネットワークとなりました。一部区間が開通した2002年12月からの延べ乗車人数はインドの全人口12億人を上回り、今日では一日あたり乗車人数が約180万人に達するなど、デリー地下鉄は市民の足として定着しています。デリー中心部とインディラ・ガンディー国際空港や郊外の新興地域グルガオンも結ばれ、デリー市内の移動手段としてのみならず、海外への出入り口としての役割も担うこととなり、今後さらに利用者が増加することが見込まれています。

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初乗りは8ルピー(約15円)

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利用客で溢れる車内

日本の技術をいかした官民一体の協力

この巨大プロジェクトは、デリー中心部をカバーするフェーズ1と、デリーから周辺部への延伸路線のフェーズ2に分けて実施され、総事業費約6,667億円のうち、JICAは約3,748億円の円借款を供与しました。

JICAの協力は資金面だけではありません。安全運行や車両維持管理に関する能力を向上させるため、東京メトロを運行する東京地下鉄(株)、メトロ車両(株)の協力のもと、デリー地下鉄を運行するデリー地下鉄公社への技術支援を行いました。また現地NGOと協力して現場作業員に対するHIV/エイズ予防の啓発活動を実施し、労働環境や社会的認識の改善も図っています。

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デリー地下鉄の車両

デリー地下鉄の車両には日本の省エネ技術が埋め込まれています。三菱電機(株)が導入した「電力回生ブレーキシステム」です。電力回生ブレーキシステムとは、地下鉄車両のモーターをブレーキ作動時に発電機として利用することにより、列車の運動エネルギーを電力に変換する技術です。ここで発電された電力は架線に送られ、地下鉄の走行に必要な電力として再利用されます。これにより通常の車両を用いた場合に比べ約3割も電力を節約することができます。この技術により、デリー地下鉄は鉄道分野では世界初のCDM(Clean Development Mechanism:クリーン開発メカニズム)事業として国連に登録されました。

また、工事現場での安全対策を強化するため、日本の新技術も導入されました。神戸大学が開発した「On Site Visualization(OSV)」システムです。OSVは「現場の安全管理の見える化」技術とも呼ばれ、地盤や構造物に変位が生じた場合、光センサーの色が変化して崩落の危険を示す、いわば工事現場の危険度を知らせる「信号機」のような役割を果たすものです。デリー地下鉄公社の現場監督は、「これまでデリー交通公社が行ってきた安全対策とは異なり、日本の新しい技術を活用しているため、現場の作業員が高い関心をもってくれている。新たな試みが作業員の安全に対する意識に刺激を与えた」と話しています。

日本の文化を輸出

デリー地下鉄の建設には、日本のコンサルタント会社や建設会社が参加し、日本の経験が大いにいかされています。

これまでのインドの工事現場には、一般道と工事現場の仕切りもなく、ヘルメットや安全靴を着用する習慣もありませんでしたが、プロジェクトを通じて、工事区域をフェンスで囲み、ヘルメットや安全靴の着用を義務付け、工事現場内の資機材を常に整理整頓するなど、日本の工事現場では当たり前の「安全」の意識が定着しました。現在デリーにおける工事現場のほとんどがフェンスで囲まれているのも、このプロジェクトがもたらした成果の一つであるといえます。

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工事現場での安全集会

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ヘルメットを着用しての作業

また、プロジェクト開始直後は業務開始時間になっても集まらなかった作業員に、毎朝決められた時間に集合することを徹底し、定められた工期を守るという「納期」の重要性を浸透させました。

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清潔な駅構内

工事現場以外でもインドの文化への影響がみられます。これまでのインドでは、所得や階層の高い市民は公共交通機関を敬遠する傾向にありました。そのためデリー地下鉄開通前のデリー市では市民の交通手段が所得水準や階層により分断されていたのです。そこでデリー地下鉄公社は地下鉄内でのごみ廃棄禁止ルールを徹底し、「クリーン」なイメージを確立することで、所得や階層にかかわらず地下鉄を市民が利用するようになりました。また駅には整列乗車を促すためのラインが引かれ、駅員が乗客の整理を行うなど、「並ぶ」という習慣のなかったインドに大きな変化をもたらしています。

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Central Secretariat駅のプレート

日印協力の輝ける成功例と称されるこのプロジェクトは、日本の協力がインドに文化的な革新を起こしたとして非常に高く評価されています。デリーの中心に位置するCentral Secretariat駅には、日本の援助により建設されたことを示す大きなプレートが設置されており、デリー市民や旅行客の目に「日本」の文字が日々触れています。

計画中のフェーズ3(さらなるネットワーク化のために環状線を建設するもの)についても、インド政府より円借款支援の要望を受けております。