日本の知見をチュニジアへ——洪水対策・防災に関するセミナーを開催

2014年10月28日

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セミナーでは具体的な洪水対策の施策について活発に議論された

2015年3月に宮城県仙台市で開催される「第3回国連防災世界会議」を前に、JICAはチュニジア農業省と共に、日本の河川管理や洪水対策・防災に関する経験・知見を共有するセミナーを、9月29日にマヌーバ県シディサベット、30日に首都チュニスで開催した。

このセミナーは7月17日にJICAがチュニジア政府との間で借款契約を結んだ「メジェルダ川洪水対策事業」に関連して、チュニジアの行政機関や住民コミュニティーの防災意識を高めて、洪水被害を軽減することを目的に開催。日本の知見を活用するため、国土交通省水管理・国土保全局河川計画課国際室の嶋崎明寛企画専門官を講師に迎えた。

JICAによるメジェルダ川の洪水対策

北アフリカに位置するチュニジアは、北部が地中海性気候、南部が砂漠気候に属している。北部を流れるメジェルダ川はチュニジア最大の河川で、通年で流水のある唯一の川である。この水の恵みを生かして、メジェルダ川流域では農畜産業が盛んで、流域の農業はチュニジアの経済と食料安全保障の重要な一翼を担っている。

メジェルダ川流域は1973年、大規模な洪水被害に見舞われたが、その後1981年のシディ・サレム・ダム建設の効果もあり、30年近くにわたって大きな洪水被害を受けていなかった。しかし、2000年に発生した洪水を皮切りに、2003、2004、2005、2009、2012年と立て続けに大規模な洪水被害に見舞われた。特に2003年は、犠牲者12人、避難者は2万7,000人に上り、水が引くまでに1ヵ月以上もかかるという大きな被害が出た。その原因は明らかではないが、気候変動の影響を指摘する声も多い。

このような状況からチュニジアは、メジェルダ川洪水対策支援を日本に依頼。JICAは流域の洪水対策マスタープランの作成と、対策実施の必要性が最も高い最下流部の河川改修事業のための事業化調査を実施した。その結果を受けて7月17日、「メジェルダ川洪水対策事業」の借款契約が結ばれた。借款額は約104億円、完成は2022年を予定している。この事業ではハード対策である河川改修だけでなく、住民による水防組織、避難体制の構築支援などソフト面の活動も予定している。事業化調査では、東京大学が最先端の手法を用いて、将来の気候変動による影響の評価を行った。日本の気候変動に関する知見を十分に活用したこれらの分析・調査は、今後、気候変動の影響を強く受けると予想されているチュニジアの関係者から高い評価を受けている。

治水投資と住民の防災意識向上を両輪に

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??原大使

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ラシャール農業大臣

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嶋崎企画専門官

チュニスで開催されたセミナーには、メジェルダ川洪水対策事業の実施機関であるチュニジア農業省をはじめ、開発・国際協力省、設備・国土整備・持続的開発省、内務省、地方自治体、民間企業、研究機関などから約60人が参加した。

セミナー冒頭、??原寿一駐チュニジア日本大使があいさつに立ち、仙台で開催される第3回国連防災世界会議について言及した。続いてラサド・ラシャール農業大臣は、メジェルダ川流域で頻発する洪水被害について触れ、日本の円借款による洪水対策事業で住民生活の環境が改善され、域内の経済活動が今まで以上に活性化することを期待していると述べた。また、ハード面だけでなく日本が蓄積してきた洪水対策に関するソフト面での知見も学びたいとの意欲を示した。

メインスピーカーとして登壇した国土交通省の嶋崎企画専門官は、日本における洪水対策の取り組みとして、1)平常時の河川管理体制(特に国、県、市町村の役割分担)、2)平常時の防災情報提供(浸水想定区域の特定やハザードマップ作成など)、3)洪水発生時の情報提供(リアルタイムの水位情報や浸水予測シミュレーションなどの予警報)とその組織間情報伝達経路、4) 住民が主体となって行う水防活動(土のう積みなど)を紹介した。

その後、会場から水防団(注)のチュニジアでの適用可能性について質問が挙がった。嶋崎企画専門官が、チュニジアと日本は環境や洪水の条件が異なるため、必ずしも日本と同じ活動を行う必要はないが、重要なことは、住民一人ひとりが防災意識を持ち、減災(被害軽減)に取り組む「ボトムアップ・アプローチ」であると訴えると、会場から賛同の声が多数挙がった。

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会場から熱心な質問やコメントが多数寄せられた

続けて嶋崎企画専門官は、水防活動や予警報などの非構造物対策のみでは、人命は守れても家屋などの資産は守れず、被害軽減効果に限界があるとし、並行して堤防建設などの構造物対策を進めていく必要があること、そして事業範囲が数十、数百キロメートルにも及ぶ治水事業は数十年単位の時間を要するものであり、チュニジアで今後さらに経済発展が進むことを見据え、継続的な治水投資を行っていくことが重要であると強調した。

日本で用いられている技術としては、現地観測データの一元集中管理、ビデオカメラによる河川状況のリアルタイムモニタリング、レーダー雨量計による雨量の把握とそれを用いた浸水範囲などのリアルタイムシミュレーション技術などが紹介された。

最後に、JICAチュニジア事務所の麻野篤所長があいさつに立ち、チュニジアの経済成長におけるメジェルダ川洪水対策事業の重要性を訴えるとともに、日本の洪水対策、特に住民コミュニティーを巻き込んだ対策に関する知見がチュニジアで生かされることを期待していると述べ、セミナーを締めくくった。

(注)水防法に基づいて市町村などが設置する組織で、洪水や高潮などの被害を最小限にくい止めるための活動のほか、水防訓練などを通じて広く地域住民などに対し水防に関する意識啓発を行う。水防団員は、普段は各自の職業に就きながら平時の予防・防災活動に従事する非常勤の地方公務員で、市町村によっては消防団が水防団の役割を兼ねるケースも多い。