日本発の「授業研究」を支援国と共に世界に向けて発信(インドネシア)

2015年1月15日

世界授業研究学会(WALS)(注1)の「第8回国際学会」が、11月25〜28日、インドネシアのバンドンにあるインドネシア教育大学で開催された。JICAはこれまでも学会に参加してきたが、今回、初めて公式セッションを主催し、長年にわたって開発途上国で行ってきた「授業研究」に関する取り組みを、支援国のカウンターパート(注2)と共に発表した。

世界が注目する日本発の授業研究

授業研究は日本独自の教員研修システムだ。明治初期に作られ、現在も多くの学校で実践されている。教育目標に沿った授業を実践し、子どもの能力育成を推進するため、教師が協力して授業を計画・実践し、互いに助言・批評し、学び合う場となっている。

1999年に「日本の授業の質の高さの秘訣(ひけつ)は授業研究にある」と米国で紹介された(注3)ことから注目を集め、世界各国で取り組みが始まった。2007年には、授業研究に関する研究と実践を促進するため、WALSが設立され、現在では世界50ヵ国以上で授業研究が実践されている。

WALSは設立以来、毎年、国際学会を開催。各国の授業研究に関する研究や実践が報告されている。今回は世界29ヵ国の大学、学校、研究所、民間企業などから約900人が参加した。

JICAと共に授業研究の実施を推進してきたインドネシア

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インドネシアの中学校での授業研究。奥が教員

1990年代からJICAは、基礎教育分野における技術協力プロジェクトを実施してきたが、1999年に初めてフィリピンのプロジェクトで授業研究を校内研修の一手法として導入し、これまで24ヵ国で授業研究を導入してきた。

今回、学会の開催国となったインドネシアでは、JICAは1998年から教育省と共に初中等教育の質の改善に取り組んできた。初中等教員を養成するインドネシア教育大学、ジョグジャカルタ大学、マラン大学の3大学の教室増設や実験機材の整備を支援するとともに、教材開発や学部運営など教員養成課程の改善に取り組んだ後、2003年から、3大学と共に、中学校で授業研究を開始した。当初は3大学周辺の数校を対象に実施していたが、現在では42大学を拠点に、全国に広がっている。そして2008年にはインドネシア教育大学が学内に授業研究センターを設立し、授業研究の普及、実施を支援している。

2013年3月、JICAによる授業研究の実施支援は終了したが、現在はインドネシアの大学や地方教育局が中心となって、授業研究を実施している。2014年には、JICAの研修「アジア地域授業研究による教育の質的向上」の一環としてカンボジア、ネパール、バングラデシュ、ミャンマー、モンゴル、ラオスの6ヵ国から研修員を受け入れ、互いの知見や経験を共有した。インドネシアにおける授業研究の発展は、周辺国のモデルとなっている。

JICAは、現在、今回の国際学会で発表したザンビア、ニカラグア、バングラデシュに加え、ウガンダ、ガーナ、セネガル、ルワンダの7ヵ国で、授業研究に関するプロジェクトを実施中だ。一例を挙げると、ザンビアでは教員の教授力不足が原因で、生徒の学習到達度が伸び悩んでいることから、「授業実践能力強化プロジェクト」を通して教育の質の改善を目指している。ザンビアでは教員は、一つの解法プロセスや模範解答をなぞって学習させることが多い。こうした授業では生徒の学習力を伸ばすことはできない。JICAは校内研修として授業研究を導入し、教員が生徒の意見を引き出す問題解決型・探求型の授業を行う能力を身に付けるための支援を行っている。

本会合で公式セッションを主催

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基調講演を行う又地JICA専門員

今回の国際学会の本会合では、まず25日に、JICAの又地淳国際協力専門員が基調講演を行った。又地専門員は「授業研究は継続することが重要」とした上で、「校長が授業研究の効果や必要性を理解することが鍵となり、その上で実際に授業研究を運営する人材の育成が不可欠だ」と授業研究を実践するための体制についても言及した。

26日には、公式セッションの一つとして「授業研究への期待、課題とその解決策」と題したパネルディスカッションを主催した。これまでJICAと共に積極的に授業研究の実施を推進してきた、インドネシア、ザンビア、ニカラグア、バングラデシュのカウンターパートがパネリストとして登壇。JICAの授業研究に関するプロジェクトをはじめとする教育支援事業のアドバイザーである鳴門教育大学の小野由美子教授が司会を務め、広島大学の馬場卓也教授がコメンテーターとして参加した。

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ザンビアの取り組みを発表するアラン・リンガンベ北西部県教育局長(左)。会場には150人以上が集まった

4ヵ国は、導入当初はどの国も「授業の質の向上」「教員の教授能力の向上」「同僚性(注4)の向上」などを目的としていた。現在の課題として「参加する教員の興味を継続させることや役に立つことを提供し続けること」「授業の後の話し合いを、より学びの多いものにすること」「日々の授業を改善し続けること」などが挙がった。

会場から「教員が授業研究を行う目的に気づいていない」「継続していくためには、どのような動機付けが必要か」「自国では授業研究を実施すると手当が出る。金銭的なインセンティブは機能するか」などの質問が挙がり、パネリストと意見を交換した。

パネルディスカッション終了後、登壇したバングラデシュのマジュハルル・イスラム・カーン国立初等教育学会専門官は「どの国も似たような課題に直面していることがわかった。教育行政と大学の役割について述べたインドネシアの発表が、授業研究の継続性という面から大変参考になった」と語った。ニカラグアのヘラルド・ガルシーア教育省初等教育局教育技官は「各国の事例から、普及のためのプロセスや教材、モデル校の教員を主体とした実施方法を学んだ。また、会場から提案された教員が自発的に参加するための方策も参考にして、自国で実践していきたい」と述べた。

授業研究の実践には、実施段階に応じてさまざまな壁がある。JICAは授業研究の取り組みを引き続き支援しながら経験や知見を共有し、グローバルに学び合う関係を構築することで、各国の教育の発展に貢献していく。

(注1)World Association of Lesson Studies。
(注2)技術移転や政策アドバイスの対象となる相手国行政官や技術者。
(注3)"The Teaching Gap"(James W. Stigler, James Hiebert 著、Free Press 発行、1999年)の中に「教師の職能成長のために授業研究を用いれば、教授学習過程は改善するだろうというのが私たちの仮説である」とある。
(注4)互いに支え合い、高め合って成長を目指す協働的な関係。