ムハンマド・ショアイブ・サドル博士「パキスタン:テロリズムとの闘い、そしてアフガニスタンとの関係改善に向けた努力」セミナー

2016年4月13日

概要

セミナー名:「パキスタン:テロリズムとの闘い、そしてアフガニスタンとの関係改善に向けた努力」
開催日:2016年4月13日(水)
主催:国際協力機構(JICA)
場所:フォーリンプレスセンター会見室

主な参加者

【登壇者】
ムハンマド・ショアイブ・サドル博士(国際警察協会パキスタン代表、NPO法人「Safer Communities Foundation(SCF)」代表)
山根聡教授(大阪大学大学院言語文化研究科言語社会専攻教授) 嶋田晴行准教授(帝京大学外国語学部准教授)

【モデレーター】
中原正孝氏(JICA国際協力専門員)

背景・目的

パキスタンは、国内にテロ組織やイスラム教宗派間及び民族・部族間等の対立を抱えている。2014 年12月のペシャワールの学校襲撃テロ事件(132人の児童を含む148人が死亡)、本年3月27日のラホールでキリスト教徒を標的としたテロ事件(少なくとも72人が死亡)が発生するなど、同国の治安・テロ情勢は依然として不安定な状況である。また、パキスタン政府は、自国及び地域の安定には隣国アフガニスタンの安定が自国の安定に不可欠との考えのもと、近年両国関係の強化に努めており、その一環として、アフガニスタン政府とタリバンとの和解交渉を仲介するなど、地域の安定と平和に向けた努力を行っている。

このような状況の中、パキスタン国家警察庁長官、情報局長官、連邦税制行政監察官等を歴任し、2013年には暫定政府の総理候補にもなったムハンマド・ショアイブ・サドル博士を招聘し、パキスタンにおける治安情勢及びテロ対策に関する現状と課題について講演いただくこととなった。また、サドル博士は、市民レベルのアフガニスタン・パキスタン対話「Beyond Boundaries:Track 1.5 & II Dialogue」のパキスタン代表を務めていることから、両国関係及びタリバンとの和解交渉再開に向けた今後の展望等について講義いただいた。

内容

【冒頭挨拶】
荒井JICA南アジア部部長は、サドル博士の来日に感謝の意を表明。パキスタンが安定的な経済状態を確保し持続的な社会を構築することがアフガニスタンを含む地域の平和と繁栄につながることを強調しつつ、本講演が、パキスタンとアフガニスタン情勢を考察するとともに、両国及び地域の平和と発展に向けた国際支援のあり方等、積極的な意見交換の場となることを期待する旨述べた。

【セミナー】
サドル博士は、パキスタンは独立以降少数派を巡る問題を抱えていたものの概ね平和な国であったとしつつ、1979年ソ連のアフガン侵攻等を契機に状況が一変したと説明した。米国等連合軍が侵攻を糾弾し、アフガン国内で対ソ連勢力としてムジャヒディンを結成させ、サウジアラビアを含む諸外国が彼らを支援し「ジハード」として正当化した後、1989年にソ連が撤退すると、米国はムジャヒディンの社会復帰等を支援せずそのまま放置したとし、現在のタリバンはパキスタンのみではなく、世界中の多くの国により作り上げられたものと指摘した。また、2003年以降パキスタンの治安は悪化したとし、政府はFATA地域において対テロ掃討作戦を実行したが、軍事作戦よりも交渉による解決を望む政治家の意向等を受け戦闘が中断されたことを受けタリバンが戦力を回復するという事態となったと説明。しかしその後、2014年12月のペシャワール軍関係学校襲撃事件で政府の対タリバン戦略が一変し、その後テロ事件は減少傾向にあると説明した。現在のテロ組織が生まれた過程にはパキスタンのみならず多くの国が関与しており、またテロは今や国際問題であることからも、パキスタンのみでなく国際社会が一体となってこの解決に取り組むことが重要であると強調した。テロを無くすためには、その背景にある過激思想を生む環境を解決すべきであるとし、過激思想を助長する貧困、職不足、低い教育水準、脆弱な法の支配・警察、電力不足等の問題改善に向け、日本が引き続きパキスタンを支援してくれることを願うと述べた。

アフガニスタンの歴史の中で同国に強力な中央政府が存在したことはなく、現在も状況はそれ程変わっていないとした上で、現在、アフパク間の最大の問題として国境問題を指摘した。毎日3万人以上がIDなしに両国間の国境を越えていると見られており、その中にはテロリストも混ざっているとし、日本を含めた諸外国には、このような現状にアフガニスタンも真剣に向き合うよう促してほしいと述べた。また、アフパク両国でテロを無くすためには、インド、イラン、サウジアラビア等の周辺国、そして日本、米国、イギリス、中国、ロシア等の主要国がプロセスに関与することが重要であるとし、アフパクが自力でテロを根絶することは不可能であること、またテロは地域全体に影響を与えていることを各国が認識し、若者をテロに傾倒させないよう「希望」が見える社会を作り上げる必要があると述べた。

【ディスカッション】
中原氏がモデレーターを務める中、サドル博士、山根教授、嶋田准教授がパキスタン及びアフガニスタンの情勢及び今後の展望について議論した。山根教授は、パキスタンはここ30年の中でも大きな転換期を迎えているとした上で、2014年6月のカラチ空港、12月のペシャワール学校襲撃を機に、2015年1月に憲法が改正され宗教とテロリストが区別されたと説明。最近もテロは起きているが、標的はソフトターゲットとなっており、テロ組織がそうした標的を選ばざるを得ない状況に追い込まれている状況の現れと指摘した。このような時期に日本含めた国際社会は関心を失うべきではないとし、世界の関心は欧米のテロに向きがちで、テロ=イスラムというイメージが強いが、パキスタン等のイスラム諸国がそのイメージを破ろうとしていると述べた。

嶋田准教授からは、アフガンの視点から、アフパク米中4か国協議が行われているが、交渉がまとまったところでテロがなくなるのか、また、アフパク国境は緩くした方が良いのではないかという問題提起があった。これに対し、サドル博士よりは、4か国協議の枠組みはHeart of Asia Conferenceにて合意されたもので、現在手古摺っている状態ではあるが、和平の実現に向けては顔を合わせて話し合う以外の方法はなく、時間がかかっても続ける必要があるとの認識が示された。また、国境に関し、移動を緩和するのはグローバライゼーションの流れであり、国境を緩くすべきという意見には同意する一方で、対テロという視点から見ると緩和のタイミングは今ではなく、まずは法に則った運用を行う必要性が指摘された。

【質疑応答】
セミナー参加者よりは、タリバンとの対話にかかる日本の関与や、パキスタンにおけるISIL勢力の脅威、パキスタンへの日本支援等の質問が挙げられた。山根教授より、タリバンは非常に緩やかな連合体であり、対話を行うにあたっては誰と対話を持つかが非常に重要でありその判断が困難であるとの指摘があった。また、サドル博士よりは、パキスタン国内のISIL勢力は組織化しておらず、現時点においては、それほどの脅威になっていないとの見方が示されたほか、日本はこれまでパキスタンに対してあらゆる支援をしてくれてきたとし、貧困、教育、保健等に加え、対テロへの支援の重要性が指摘された。

関連リンク

セミナー及びディスカッションの全文は後日掲載予定。

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サドル博士

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山根教授

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嶋田准教授

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中原専門員

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荒井部長

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ディスカッションの様子