アハメド・ラシッド氏「アフガニスタン及びパキスタンにおけるイスラム過激派の台頭と、南・中央アジア地域におけるその影響」セミナー

2016年6月1日

概要

セミナー名:「アフガニスタン及びパキスタンにおけるイスラム過激派の台頭と、南・中央アジア地域におけるその影響」
開催日:2016年6月1日(水)
主催:国際協力機構(JICA)
場所:JICA市ヶ谷(国際会議場)

主な参加者

【登壇者】
アハメド・ラシッド氏(パキスタン人ジャーナリスト・著者)
田中浩一郎氏(日本エネルギー経済研究所 常務理事兼中東研究センター長)
山根聡教授(大阪大学大学院言語文化研究科言語社会専攻教授)

【モデレーター】
中原正孝氏(JICA国際協力専門員)

背景・目的

複雑化するアフガニスタン情勢は、隣国パキスタン及び中央アジア諸国にも影響を与えている。パキスタンは、9.11米国同時多発テロ発生後、米国が主導する「テロとの闘い」に参加し、タリバンやアル・カイダの残党に対する掃討作戦を開始したが、国内での政府に対する反発が強まり、2007年には「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が発足するなどテロが国内問題となった。また、中央アジア諸国は、アフガニスタンとの国境を介した麻薬と密輸の拡がりやイスラム過激主義勢力の越境等により、域内の不安定化が懸念されるようになったほか、イスラム過激主義の拡散やテロ活動といった問題が顕在化している。

国際協力機構(JICA)は、パキスタン人ジャーナリストで、「タリバン:イスラム原理主義の戦士たち」(2000年・講談社)の著者であるアハメド・ラシッド氏を招へいし、「アフガニスタン及びパキスタンにおけるイスラム過激派の台頭と、南・中央アジア地域におけるその影響」を開催した。ラシッド氏は、1980年以降、現地特派員としてアフガニスタン、パキスタン、中央アジア情勢をカバーし、現在は欧米紙やテレビ等で同地域分析等のコメンテーターとしても活躍している。

内容

【冒頭挨拶】
荒井透JICA南アジア部部長は、ラシッド氏の来日に感謝の意を表明。アフガニスタン情勢を巡り、南・中央アジア地域情勢は不安定なものになっており、また、アフガニスタンの和解交渉を巡る見通しは不透明感を増していると言わざるを得ない状況であると指摘。ラシッド氏のセミナーを通じて、アフガニスタンを巡る情勢を考察し、そしてパキスタンと中央アジア諸国を含む同地域の安定に向けた国際支援のあり方などに関して、積極的な意見交換の場となることを期待すると述べた。

【セミナー】
ラシッド氏は、アフガニスタンは、共産主義の台頭、ソビエト侵攻、内戦といった混乱の歴史を辿ったが、同国が現在抱える全ての問題は内戦時代に起因すると指摘。また、アフガニスタン内戦の影響は、双方向的に中央・南アジア・中東地域にも広がっていったとし、その例として、ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)や東トルキスタンイスラム運動(ETIM)といった、中央アジア及び中国新疆ウイグル地区において誕生したイスラム過激派勢力がアフガニスタン・タリバンやアル・カイダ等に参加しその勢力を増していったことを挙げた。

アフガニスタンにとって大きな悲劇となったのは、9.11以降、ブッシュ政権やNATOはアフガニスタンの国家再建に尽力することはなく、イラクへと関心を移行させたことであると指摘。現在、アフガニスタンは、治安悪化、政治混乱、失業といった経済問題、1990年代の内戦時にみられた周辺国の介入という4つの危機に直面しており、また、国際社会のアフガニスタン支援の最大の失敗は、同国の経済を再興しなかったことにあるとの見方を示した。

パキスタンについては、政府・軍はテロとの戦いを宣言し掃討作戦等を実施しているが、アフガニスタン・タリバンやアル・カイダ指導者達がパキスタンにて殺害されていることは、アフガニスタン・タリバンの活動の基盤が、今もパキスタンにあることを示していると指摘。また、パキスタンは、タリバン説得のカギを握っているが、タリバンとの和解交渉再開に向けた4か国(パキスタン、アフガニスタン、米国、中国)協議にタリバンを出席されることが出来ていないとし、米国によるタリバン最高指導者マンスール師の殺害は、タリバンが同協議への参加を拒否したことに対する結果であったと述べた。

アフガニスタンの和平に向けては、イスラム諸国が自らイスラム過激派への対応にかかる回答を出すべきとしながら、同時に、安保理や国連機関といった第三者が、パキスタンやインドに対して、アフガニスタンを互いの影響力維持の足掛かりとしないよう働きかけることの必要性を論じた。

【ディスカッション】
中原氏がモデレーターを務める中、ラシッド氏、田中氏、山根教授がイスラム過激派台頭の影響及び地域の安定に向けた国際社会の役割について議論した。イスラム過激派台頭の影響について、田中氏は、近年国家が過激な思想を訴えるイスラム勢力を支援することにより、武力闘争に訴えるという傾向が強まっていると指摘。また、過激主義は様々で、そもそも多様性を認めず、少数グループの政治参加を認めないことが問題であったと述べた。山根教授は、パキスタンでは、ジア・ウル・ハク政権下で、イスラム化政策の推進によりイスラム冒涜法が制定される等、イスラムを掲げるグループを否定できない空気が作られたとしつつも、現在、パキスタン政府は、宗教を掲げるテロリストを掃討するとの憲法改正を実施しており、世界はこうしたパキスタンの努力をもっと認識すべきであるとの見方を示した。

地域の安定に向けた国際社会の役割について、田中氏は、国際社会は現況を楽観視せず、関係国がその対立関係を和平協議の場に持ち込むことを阻止すべきであると述べた。また、山根氏及びラシッド氏は、中国のパキスタンに対する影響力について触れつつ、中国がパキスタンのアフガニスタン和平に関する姿勢を変えることが出来なければ4か国協議も平行線となると指摘した。

【質疑応答】
セミナー参加者よりは、アフガニスタンに対する国際社会の支援等にかかる質問が挙げられた。山根教授より、JICAが取り組んでいるような教育セクターへの支援等、次世代への支援を通じて、新しいメカニズムを作っていく人材を育成することが国際社会の役目と考えるとの見方が示された。田中氏も、教育・人材育成といった息の長い支援が必要であり、国際社会の継続的な関わりなしに、アフガニスタンの平和と安定は難しいと指摘した。また、ラシッド氏は、イランがタリバンを支援していることについて説明し、イランをタリバンとの和解交渉から外すべきではないとの見方を示した。

関連リンク

セミナー及びディスカッションの全文は後日掲載予定。

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アハメド・ラシッド氏

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田中浩一郎氏

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山根聡氏

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中原正孝氏

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荒井透氏

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ディスカッションの様子