パリ協定後のインドネシアの気候変動政策−東京で気候変動セミナーを開催−

2017年2月7日

JICAは、2月7日、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)との共催で、「インドネシア気候変動セミナー:パリ協定後の気候変動政策と二国間クレジット制度(JCM)の展望」を東京都新宿区で開催した。セミナーには、気候変動対策を主導するインドネシア政府各省庁の幹部、在京インドネシア大使館、日本政府、大学・研究機関、民間企業等、100名超が参加した。

昨年11月に発効したパリ協定は、先進国・途上国とも、温室効果ガス(GHG)の排出削減に係る各国の約束(NDC)を策定し、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局への提出を求めている。経済成長に伴いGHGの排出量が急増しているインドネシア政府は、提出済のNDCの中で、2030年までに、何も対策を講じなかった場合に比べてGHGを29%削減、国際支援を受けた場合には41%削減するという目標を掲げている。

JICAはこれまで、緩和策・適応策双方に係るインドネシア政府の取組を技術協力や円借款等を通じて支援してきた。現在は、技術協力「低炭素型開発のためのキャパシティ・ディベロップメント支援プロジェクト」(2014〜2017年)を通じて、日本政府が提唱する「二国間クレジット制度」(JCM)(注)の円滑な実施に必要な能力強化に取り組んでいる。今回のセミナーは、同プロジェクトの活動の一環として企画されたものであり、来日した経済担当調整大臣府、環境林業省、エネルギー鉱物資源省、財務省の幹部10名は、本セミナーへの出席のほか、日本政府(外務省、経済産業省、環境省、林野庁)や東京都、JICA地球環境部との協議、JCM関連技術の視察(品川清掃工場、芝浦水再生センター)、JCMに関する第6回日・インドネシア合同委員会などのプログラムを精力的にこなしていた。

(注)途上国への優れた低炭素技術・製品・システム・サービス・インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現したGHG排出削減・吸収への我が国の貢献を定量的に評価し、我が国の削減目標の達成に活用する制度。

パリ協定を境に、新たな時代を迎えたインドネシアの気候変動政策

【画像】

開会挨拶を行うJICA鴫谷室長

セミナー冒頭、JICA地球環境部の鴫谷哲気候変動対策室長が挨拶に立ち、インドネシアに対するJICAの協力事例を紹介するとともに、本会合が低炭素開発に向けた官民協力のきっかけとなることへの期待を述べた。

インドネシア側を代表して挨拶に立った経済担当調整大臣府のリザル・アファンディ・ルクマン次官(国際経済協力担当)は、2013年にJCMの覚書を日・インドネシア両国が締結して以来、実現可能性調査を80件、28件の事業を進行しており、2件のクレジット発行を実現するなど、これまでの実績を説明した。また、パリ協定発効後、インドネシアと日本のさらなる協力について期待を示した。

続いて、基調講演者として登壇した環境林業省気候変動総局のヌール・マスリパティン総局長は、「インドネシアにおけるパリ協定の実施」と題して、最近の世界的な動きであるパリ協定と持続可能な開発目標(SDGs)に触れ、インドネシアの取組について解説した。特にNDCがGHGの削減対策だけでなく気候変動の影響への適応も取り上げていることを強調し、インドネシアではNDCの3原則として、1. 経済成長、2. 貧困撲滅、3. 排出量削減を実現する施策の強化、を掲げていることを紹介した。さらに、排出量削減を促進するため、最近導入したナショナル・レジストリ・システム(SRN)や「途上国における森林減少・劣化からの排出の削減」(REDD+)、そして様々な国際協力への期待を述べた。

経済担当調整大臣府のリザル・エドウィン・マナンサン次官補(多国間経済協力・ファイナンス担当)からは、「インドネシアにおけるJCMと市場メカニズム」について報告があった。エドウィン次官補は、気候変動対策は市場型メカニズムおよび非市場型メカニズムの双方を通じて行うことを紹介。市場型メカニズムについては、JCMのほか、世銀が進める市場メカニズム準備基金(PRM)、アジア太平洋炭素市場円卓会議(APCMR)、G7を中心としたCarbon Market Platformに参加している。このように、インドネシアは17のJCM署名国の中でも最も進んだ国であり、これまで積極的にJCM Registry System等のツールを利用してきており、今後はナショナル・レジストリであるSRNに統合していく予定であると報告した。

財務省国家財政リスク管理局のブラハマンティオ・イスディヨソ局長からは「インドネシアにおける持続可能なインフラ開発のためのリスク管理」について説明があった。インドネシアの経済発展にはまずインフラ整備が優先課題とされる中、政府予算を補うためには民間投資の1つである官民パートナーシップ(PPP)に大いに期待していると言及。インドネシアではPPPを一層促進するため、政府保証(Management of Government Guarantee)を活用しており、事例として再生可能エネルギー事業、地熱発電事業を進めていることの紹介があった。

気候変動対策推進のための展望と課題、今後の二国間協力の方向性

後半のセッションでは、インドネシアで実施した技術協力プロジェクト「気候変動対策能力強化プロジェクト」(2010〜2015年)のチーフアドバイザーを務めていたJICAの川西正人国際協力専門員がモデレータとなり、環境林業省のヌール総局長、経済担当調整大臣府のエドウィン次官補、財務省のブラハマンティオ局長に加え、財務省気候変動ファイナンス・多国間政策センターのキンディ・リナルディ・サッハリル副センター長、エネルギー鉱物資源省省エネルギー局事業開発課のハリス課長、IGESのスダルマント・ブディ・ヌゴロホ研究員が登壇し、気候変動対策推進のための展望と課題、日本とインドネシアの今後の協力について意見を交わした。

【画像】

パネルディスカッションの様子(写真右から、JICAの川西専門員、経済担当調整大臣府のエドウィン次官補、財務省のブラハマンティオ局長、環境林業省のヌール総局長、財務省のキンディ副センター長、エネルギー鉱物資源省のハリス課長、IGESのスダルマント研究員)

財務省のキンディ副センター長は、NDCを実現するためには、680億米ドル(2018年〜2020年)必要と見積もられており、現在インドネシアが取り組む気候変動対策関連のファイナンス・スキームを紹介した。

エネルギー鉱物資源省のハリス課長からは、エネルギーの需要は年々上昇しており、気候変動対策の2030年目標を再生可能エネルギーと省エネで実現したいと考えていること、その際、日本の省エネの経験を是非学びたいとの期待が表明された。

IGESのスダルマント研究員は、IGESがChange Agent(変化を起こしていく主体)として、インドネシアにおいて中央政府や地方自治体の気候変動対策の策定支援、ツール開発や人材育成支援、そして持続可能な開発のための2030アジェンダの実現に向けて様々な支援を進めていた経験や今後の展開について紹介した。

【画像】

閉会挨拶を行うIGES浜中理事長

パネルディスカッションでは、これまでのプレゼンテーションを踏まえた上で、NDC達成に向けた方策と課題、インフラや技術、日・インドネシアの今後の協力等について、さらに議論が交わされた。パネリストからは、泥炭地の回復や森林火災への対処、長期開発目標におけるNDCの主流化、NDC実施に向けた民間資金の動員等の具体的な課題が挙げられつつ、超超臨界の石炭発電、公共交通へのモーダル・シフト、緑の気候基金(GCF)の活用等、すでに始まっている取組の紹介や今後の促進への期待が表明された。今後の日本の協力の方向性を考える上でも示唆に富む内容であり、聴衆は最後まで熱心に耳を傾けていた。

最後に、IGESの浜中裕徳理事長が閉会の挨拶に立った。セミナーで紹介されたインドネシア政府の取組とそれに続く議論が日本側参加者にとって大変有意義であったこと、IGESとしてもインドネシアの気候変動対策に引き続き貢献していくこと、最後にインドネシア政府関係者への謝辞を述べて閉会した。

(原稿作成協力:IGES)

【セミナーのプログラム及び発表資料】