アジア諸国の持続可能な開発−SDGs達成のための財政リスク管理と財政余地の拡大−JICAとIMFが国際会議を開催

2017年3月31日

JICAと国際通貨基金(IMF)は、2月2日、JICA市ヶ谷ビル(東京都新宿区)にて、アジア12ヶ国からの閣僚・局長級の参加者を招き、「地域の発展:財政リスク、財政余地及び持続可能な開発目標(SDGs)」と題した国際会議を開催した。

【画像】JICAとIMFは、2011年から隔年にて、アジア低所得国を中心とした財務大臣・中央銀行総裁等の金融財政政策の当局者を招き、両機関の実証的研究を基に地域の課題を議論する会議を開催している。4回目となる今回は、アジア諸国が財政余地(注1)を拡大して持続可能な成長、すなわちSDGsの達成を目指すため、アジア12カ国の参加を得て議論を行った。

主催者側からは、IMFの古澤満宏副専務理事、李昌鏞(イ・チャンヨン)アジア太平洋局長、貝塚正彰日本理事、鷲見周久アジア太平洋地域事務所長、JICAの北岡伸一理事長、神崎康史理事、広田幸紀チーフエコノミストらが参加、財務省の浅川雅嗣財務官も登壇した。

SDGs達成に向けた安定した財政の重要性を強調

【画像】基調講演において、財務省の浅川財務官は、途上国はSDGs達成を目指すとともに資源価格変動や金融・災害ショック等のリスクに備える必要があること、また途上国先進国を問わず公的債務の対GDP比が増加傾向にあることを指摘し、持続的成長に必要な投資を行うための財政余地拡大の重要性を強調するとともに、途上国自身による国内資金動員の必要性を訴えた。

IMFの古澤副専務理事は、SDGsは経済開発、社会的包摂、ガバナンスの3主要分野をカバーする包括的なものであると指摘し、この達成には成長を支援する財政政策が不可欠であると強調するとともに、財政余地創出のためにもリスクに対する洞察が深まることを期待する旨述べた。

JICAの北岡理事長は、2015年の2つの国際的合意(SDGsとパリ協定)と2016年のポピュリズムの台頭はグローバル化の機会と課題を象徴的に表し、現在は今後の世界のあり方を考える分岐点にあると述べた上で、SDGsは各国のオーナーシップ主導で達成されるべきであり、そのためにも政治的リーダーシップを支える財政・金融関係者の役割が重要であること、さらに強靭な経済がアジアの平和と安定に必要であることを強調した。

財政リスクの分析と対応、公共財政管理

【画像】「財政リスクとリスク管理」のセッションにおいて、IMFからは、過去の財政リスクの発現時には、マクロ経済、PPPの管理、国営企業保証、自然災害など、複数のリスクの要素が連鎖して影響が拡大したと述べ、財政リスクの開示・分析(透明性向上やストレステスト)と緩和策の活用が対応として挙げられるが、これらは国のキャパシティに応じて適用すべき旨発表した。アジア・太平洋地域は自然災害に脆弱であり発災時の経済的損失も膨大になる、したがって建築基準の導入のほか、優遇税制等財政ツールを活用したハイリスク地域の活用回避等が重要、また事前投資・予防への政治家の支持を得るためにも経済損失の規模でリスクを示す必要がある、などの議論が交わされた。

続く「天然資源国における公共財政管理」のセッションでは、JICAから、モンゴル等を事例とした調査研究の成果に基づき、財源の多くを天然資源開発収入に依存する国においては、財政規律導入等の枠組みは既に提示されているが、昨今の天然資源価格の大きな変動、旺盛な財政支出ニーズなどに加え、政治介入や透明性の問題から規律の順守が難しい国も多いと説明。適切な天然資源収入管理のためには、同収入の全捕捉や効率的な資源配分・運用が必要だが、非資源分野の税務行政強化、現実的で質の高い公共投資計画の策定、監査機能強化等透明性の向上など、技術協力による公共財政管理能力や制度のギャップを埋める方策も有効である旨発表した。参加者からは、資源収入を基金方式で管理している、外資を含めた大企業の合法的な節税に留意すべき、関係者の包括的なインセンティブを踏まえた税制の設計が重要といった意見があった。

財政余地の拡大を通じたSDGsの達成

「財政余地」のセッションでは、IMFから、不確実性が高い途上国ではある程度の備えが必要になることから安全な債務レベルや財政余地は多面的に評価すべきであるとして、複数の評価アプローチが提案されるとともに、財政余地の拡大には国内資源動員、効率的支出、財政制度の3点が重要であると発表された。インドネシア大学の研究者(テグー・ダルタントJICA研究所招聘研究員)からは、JICAが支援した研究の成果に基づき、インドネシアのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)(注2)を事例とする歳入改革シミュレーションに基づいて、政策目標達成のためのコストとそれをカバーするための選択肢を示し、国内資源を基にしたSDGsの達成にはこのような分析が重要であると発表した。ロンドン経済政治大学院(LSE)の研究者からは、過去のメキシコの税制改革において意図に反し税制の抜け穴ができた事例などから、全体のインセンティブ構造を包括的に捉えた税制の設計が重要だと発表した。これらを受け、税制改革や予算改革により税収のGDP比を増加させるためにもまずは計画から執行まで一貫性を持った予算編成プロセスの確立が重要、税収拡大のためにも地方自治体も含めた能力向上が必要といった議論がなされた。

【画像】「ASEAN各国の成長の収束(convergence)(注3)とSDGs」のセッションにおいては、IMFから、ASEAN諸国は先進国への所得レベルのキャッチアップや域内格差の縮小も見えているものの、日中韓の同様の発展時期と比べると成長率が低いと指摘し、インフラ、人材、組織等の構造的要素の改善が必要であり、GDPのみならず環境、公平性、保健といった課題についても重視すべきと発表した。参加者からは、ASEANと日中韓の間の成長率の違いが生じている要因の解明は今後の課題、タイは中所得国の罠や高齢化の課題に直面するがロボット・医療観光等の優先投資分野を特定する等の政策を進めている、ベトナムは農業から製造業への移行の他に国営企業改革、インフラ、教育等が課題だが資金の確保が課題といった議論が交わされた。

国内資源動員の重要性、各国の状況に合わせたドナーの支援

【画像】「ラウンドテーブル」セッションでは、財政リスクの把握には正確なデータ把握が前提となることに加えて各国の特徴をまずは理解すべき、安定した財政のためには国内資源動員や産業育成が重要となる、譲許的資金へのアクセスがある時期に歳入改革に取組むべき、島嶼国は公共サービスのコストが高くなりがちでありインフラ投資が重要といった議論が交わされた。

最後に、IMFの鷲見アジア・太平洋地域事務所長から、力強い成長を続けるアジア地域においても下方リスクが認識される中で、各国の実際の現状を踏まえて交わされた議論は今後の当該地域にとり有益であったと総括。JICAの神崎理事は、財政管理に関連し、人材育成や防災などの幅広い課題の重要性が認識されたとし、国内資源動員や防災分野の協力に加え、SDGsの達成にはセクター横断的協力が重要であり、質の高いインフラやUHCなどの協力も進めていきたいと総括した。

会議後、IMFの参加者からは、マクロ経済の運営を支援しているIMFと、ミクロレベルまでを含めた実体経済の成長・発展を支援しているJICAが、このような対話の機会を持つことは非常に有意義とのコメントがありました。

JICAは、IMFなどの他機関と連携しつつ、このような実証的研究に基づく対話を含め、アジア諸国が持続可能な開発を実現していくための支援を続けていきます。

(注1)財政余地(fiscal space):財政余力の程度を表すもの。定義の一つとしては、当該国の債務上限(金利急騰等に直面して債務が際限なく増大し始めると見られる水準)と現在の公的債務水準との差。なお、財政余地が無いことはデフォルトになることを必ずしも意味せず、大胆な財政健全化を行う必要があることを意味する。

(注2)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC:Universal Health Coverage):全ての人が適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払可能な費用で受けられること。

(注3)収束(convergence):低所得国の方が高所得国よりも成長率が高い傾向にあることなどから、中長期的にこれらの国の所得が同程度の水準に近づくこと。