「留学プログラム発足記念シンポジウム-アジアの水道の未来と日本の貢献-」を開催しました

2018年11月5日

東京大学大学院工学系研究科とJICAは、2018年11月5日に東京大学本郷キャンパス武田ホールにて、留学プログラム発足記念シンポジウムを開催しました。
自治体、民間企業、大学関係者など102名が参加しました(留学生、登壇者、事務局除く)。

明治維新から150年の節目となる今年、世界に誇るサービス水準を達成するに至った日本の水道の開発経験をアジアに伝え、知日派の水道幹部を育成するため、東京大学大学院工学系研究科とJICAは新たな留学生受入プログラム「水道分野中核人材育成コース」を開始しました。カンボジア、ミャンマー、ラオスの水道事業体及び水道所管官庁から、幹部候補となる合計4名の精鋭が、留学生として9月に来日しています。この新規事業の発足を記念して、産官学の有識者を招き、アジアの水道の未来と、日本が果たすべき役割、水ビジネスへの期待等について議論することを目的にシンポジウムが開催されました(概要については、フライヤーを参照)。

シンポジウムでは、大久保達也・東京大学大学院工学系研究科長・工学部長からの挨拶の後、加藤宏JICA理事及び留学生の受入先となる滝沢智東京大学工学系研究科教授から基調講演がありました。シンポジウムの後半は、留学生の所属先からの応援ビデオメッセージの上映、留学生による将来展望等の発表に続き、産官学の各分野から、安積良晃氏(厚生労働省水道課課長補佐)、小泉明氏(首都大学東京特任教授)、富井孝氏(横浜市水道局事業推進部長)、成相博行氏(クボタパイプシステム事業部パイプシステム海外部中東・アジアグループ長)の4人のパネラーをお招きして、パネルディスカッションが行われました。パネラーの方々からは留学生に学んでほしいこととして、日本の水道行政におけるガバナンスの重要性、水道事業体の運営ノウハウ等が挙げられ、質の高いインフラの重要性やライフサイクルコストを考える必要性等についても理解を深めてほしいといった点が議論されました。また、留学プログラムを通じての人的ネットワーク構築は重要であり、長期的な関係として発展させるべきであるという指摘もありました。最後にモデレータである滝沢教授が、知識だけであればインターネットからでも得られるが、本当の意味を理解するためには体験が必要であり、留学生が日本に滞在している間に様々な現場で人と話をし、観察することで、納得して「腑に落ちる」ことが重要であること、及び水道に関する課題は1人の力で解決できるものではなく、人的ネットワークが重要であることを述べ、参加者に対して長期的な協力を呼びかけて、シンポジウムは終了しました。

JICAの水道分野の協力は、資金協力によるインフラ整備と、技術協力による能力強化を通じた、安全な水の供給の実現を目指しています。そのために、多様な協力形態を活用していることが特徴です。留学生プログラムは、このような包括的な支援の集大成として開始するものであり、期待される成果は、課題解決能力の向上、理論的知識の体系的な習得、及び日本の水道事業関係者や留学生同士のネットワーク構築です。コンテンツとしては、第1に東京大学の既存の修士課程における履修や研究があります。第2に、JICAの委託により、日本の水道の開発経験や、水道行政、水道事業経営を含む講義や議論を行う新たな授業を設けます。第3に、水道事業体や企業の支援をいただいて、インターンや工場見学等の機会を提供する予定です。

本コースの特徴は、以下の3点が挙げられます。
1点目は、留学生を選考する過程にJICAが派遣している専門家が関与して、戦略的な人選を行い、帰国後もJICA事業を通じてフォローを継続するという点です。初年度の4人の留学生も専門家の協力を得て推薦されました。これによって、各国のリーダーとなる人材を長期的に育成します。大学での講義においても、非常勤講師としてJICA専門家経験者にも協力いただいており、JICAの本邦研修を利用した視察も予定しています。このように、他のJICA事業とも連携する形で、効果を高めていきます。

2点目は、日本の水道事業の開発経験を伝えるコンテンツを含んでいるという点です。JICAは2017年に「日本の水道事業の経験」という途上国向けの教材を作成しました。この教材の監修委員を務めていただいたのが、東京大学の滝沢教授です。この教材も活用して、日本の水道整備の歴史の中から得られた教訓を伝え、母国の将来の開発に役立てていただきます。

3点目が日本の自治体や民間企業の皆様との連携です。長期休暇などを利用して、自治体や企業でのインターンや現場視察を企画します。これによって、より実践的なプログラムにするとともに、国内の水道関係者とのネットワークの形成にも役立てていく予定です。

JICAは、JICA事業を支援していただいている産官学の幅広い関係者の協力を得ながら、様々な事業と有機的に連携させ、留学生プログラムを推進していきます。

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基調講演を行う加藤JICA理事

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シンポジウムを熱心に聞く4人の留学生

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所属先幹部から留学生に対して応援ビデオメッセージを上映。メッセージを述べているのはミャンマーヤンゴン市開発委員会のミオ・テイン水衛生副局長。

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パネルディスカッションの様子。留学生への期待、日本の貢献等について、活発な議論が行われた。手前が留学生の指導を担当いただく滝沢教授

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留学生、パネリスト、登壇者等による記念撮影。