アフリカ水道一家! ルワンダに集合、”無収水”道場の初開催-ルワンダ・マラウイ・ケニアの都市水道関係者によるワークショップ開催(南南協力)-

2018年11月6日

概要

ルワンダ、マラウイ、ケニアの3カ国の水道事業体が学びあうアフリカ域内協力「第1回無収水対策ベンチマーキングワークショップ」が2018年11月6日にルワンダの首都キガリにて開催されました。

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参加者の集合写真の様子

域内協力にいたった背景は2点あります。

まず、ルワンダ上下水道公社(WASAC)とマラウイのリロングウェ水公社(LWB)は2017年7月に協定書を結んでおり、相互協力に合意していたものの、具体的な協力に至っていなかったのですが、彼らのイニシアティブを両国に配置されているJICA専門家がサポートしつつ、アフリカで初めての無収水対策(目的(2)で詳しく説明)をテーマとしたワークショップが実現しました。

また、ルワンダで実施している技術協力プロジェクト「キガリ市無収水対策強化プロジェクト」の一環で行った2018年5月の第三国研修で、WASACがケニアを訪問した際、ルワンダ・ケニア双方が互いに学びあう点が多いことも分かり、今回のワークショップにケニアからエンブ水資源管理会社も参加することになりました。

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ケニアでの第三国研修の様子

このような背景のもと、「安全で安定的且つ安価な水道をすべての人に届ける」という共通のビジョンを掲げる水道事業体同士で、好事例やお互いの活動を学びあう「第1回無収水対策ベンチマーキングワークショップ」がルワンダにて開催されることになりました。

なお、今回のワークショップ後に、それぞれの水道事業体でパフォーマンス改善計画の作成・実践を経て、今度はマラウイで、第2回ベンチマーキングワークショップを開催する予定です。

目的

(1)水道一家としてアフリカ域内で学びあう意義

日本では「水道一家」という言葉があり、水道事業体を超えて互いに助け合う文化がありますが、アフリカでも都市給水を管轄する水道事業体同士は似たような課題を抱えており、アフリカ域内の水道事業体で学びあうことで、解決できる課題が実は多かったりします。例えば、以下のような点が共通の課題として挙げられます。

  • 適当な水量及び水質の水源が近くになく、需要増に対応できない
  • 浄水施設や送・配水施設などの老朽化が著しく、更新に多額の資金が必要になる
  • 財政状況が悪く、いわゆる自転車操業になっている
  • 国レベルでの、水道法や給水条例といった制度や法整備が未整備のため、適正な水道料金の設定や補助制度が存在せず、財務的持続性が確保されていない等

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老朽化が進む配水地の様子(ルワンダ)

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水源の原水に藻類が多く処理が困難な様子(ルワンダ)

また、サブサハラ・アフリカ地域ならではの共通する以下のような課題も抱えています。

  • 低所得者が多い
  • 植民地時代からの古い施設が多い
  • 水資源が偏在する
  • 関連産業が発達していない等

このように共通する課題が多く、自国の中では課題解決が難しいことも、国を超えたアフリカ域内の成功事例や教訓の共有を通じて、解決に向けたヒントを得られることから、今回の3カ国合同ワークショップのような取り組みが有効なのです。

(2)無収水の削減とは

無収水とは、水道システムに投入された水のうち、水道料金請求の対象とならなかった水のことで、水道管からの漏水、盗水、水道メーターの不良、料金請求事務の不備などに起因します。日本の水道事業体では、無収水率は3%程度の水道事業体も存在しますが、多くの途上国では、無収水率は30%~40%と高く、生産した水に対して十分な料金収入が得られないために経営悪化、財政赤字にいたる原因となっており、無収水率の削減が水道事業体経営における重要なテーマとなっています。これは、りんごを100個出荷したにも関わらず、なぜか70個分の収入しかないような状況です。

無収水率を低く保つ技術に長けた日本の水道事業の知見を活かし、JICAはアフリカの国々を含めた多くの途上国で無収水削減にかかる技術協力を行っています。

具体的な取組みとしては、無収水対策を推進する組織の設立、計画策定、無収水量の計測、モニタリング体制の構築、漏水探知・修理、管路施工、水道メーター維持管理・交換、料金請求・検針等の技術の向上等の活動を行っています。今回のワークショップに参加する、ルワンダ、マラウイ、ケニアも例に漏れず、無収水削減が重要な課題であり、それぞれの国でJICAが技術協力を行っています。

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漏水探知の様子(ルワンダ)

ワークショップの内容

ワークショップの開会にあたり、主催機関であるWASACの都市給水局長メトーデ・ルタグンギラ氏及びJICAルワンダ事務所の永瀬次長が挨拶を行いました。

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開会挨拶を行うメトーデ都市水道局長(ルワンダ上下水道公社)

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冒頭挨拶を行う永瀬次長(JICAルワンダ事務所)

その後、ルワンダ、マラウイ、ケニアの順にそれぞれの水道事業体の概要を発表し、その後、肥後専門家(マラウイ水資源アドバイザー)より各国のベンチマーキングの比較結果が説明され、各水道事業体の強みや課題等の現状が共有されました。

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マラウイの状況を説明するリロングウェ水公社参加者

ベンチマーキングの比較とは、業績指標(Performance Indicators)を用いて、複数の水道事業体の業績の比較(メトリックベンチマーキング)を行うことで、擬似的な競争環境が生まれ(yardstick competition)、業績が数値で示され、比較されることによって、政治の支持も得やすくなる(改善に向けたリーダーシップ、予算配分等)ことや、指標値が改善すると達成感が得られ職員のモティベーションが高まるといった効果が期待されています。また、規制機関が事業者のモニタリングを行い、結果を公表するためにも用いられており、規制機関に対する水道事業体の説明責任を果たすことにも貢献します。

その後、「無収水削減にかかるPDCA(計画・実行・モニタリング)」、「物理的ロス(注)削減手法」、「料金徴収の管理体制」の3つのテーマにてグループディスカッション、全体討論が行われました。グループディスカッションでは、事例発表で共有された各国の取り組みを踏まえて、それぞれのグループにおいてより深い議論が行われました。

グループディスカッションに参加したケニアのクリストファー・カムルアナ氏からは、「料金徴収の管理体制」のセッションにおいて顧客請求システム分析結果に基づく大型顧客の検針率の向上と不良メーターの交換及び夜間最小流量測定とステップテストによる漏水調査結果が発表されました。マラウイやルワンダの参加者からも、使用水量が多く未回収料金も大きな大型顧客の無収水を優先的に対処すべきとの意見が述べられ、ケニアの取組みから多くの学びを得ている様子でした。

(注)物理的ロスとは、無収水のうち、地上漏水や地下漏水、盗水などの無収水を指します。

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活発な議論が行われている様子

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活発な議論が行われている様子

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活発な議論が行われている様子

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活発な議論が行われている様子

2日目には、ルワンダで実施中の「キガリ市無収水対策強化プロジェクト」のパイロットサイト(カドボゴ地区、リュエンジ地区)で活動状況を視察するとともに、キガリ市最大の浄水場であるンゾベ浄水場などの水道施設を視察し、キガリ市の給水状況を共有しました。

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配水地視察の様子

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ンゾベ浄水場 中央管理室視察の様子

今後の取組み

ルワンダでは、実施中の「キガリ市無収水対策強化プロジェクト」を通じて無収水削減5カ年計画を作成し、計画的な無収水削減活動を本格的に開始したところです。WASACは、今回のワークショップでの学びを活かし、より現実的な手法で、効率的に無収水削減が行えるよう更なる実施体制強化に努める予定です。

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コーヒーブレイク中にも議論を続けるルワンダとケニアの参加者

マラウイでは今回のワークショップの学びを活かし、来年度開始予定のLWBを対象とした「リロングウェ無収水対策能力強化プロジェクト」による相乗効果を図る予定です。

また、ケニアでは実施中の「無収水削減能力向上プロジェクト」を通じて、無収水削減基準の改訂、ケニア国内の水道会社の職員に対する無収水技術研修の実施、ケニア国内の水道会社の無収水削減活動に関する知見や情報の共有を図り、無収水削減活動を実施するための支援体制の確立を目指しています。

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専門家と今後の議論をするリロングウェ水公社参加者の様子

このように今回のベンチマーキングの結果を踏まえ、各水道事業体は他国の事例を参考にベンチマークの改善を目指し、マラウイにて開催予定の第2回ベンチマーキングワークショップでその成果を発表する予定です。なお、次回のワークショップ開催までの間も、各水道事業体でモニタリングを行い、進捗について情報交換していくことが合意されています。次回ワークショップは、単なる成果発表に終わるのではなく、モニタリングの過程で新たに見えた問題点などを更に具体的に議論し、問題解決につなげる場になることが期待されています。

このような活動が、今後の水道事業体の継続的な学びあいのための第一歩になり、サブサハラ・アフリカ地域の安全な水の安定的な供給に寄与することを期待するとともに、JICAとしてもこういった取り組みを引き続き支援していく予定です。