2018年12月12日
液状化による大規模な地滑りが発生したパル市のBalaroa地区
2018年9月にインドネシアの中部スラウェシ州で発生した地震は、同州のパル市を中心に液状化による大規模な地滑りや津波を引き起こし、死者行方不明者合わせて3,000名を超える大災害となりました。日本はインドネシア政府の要請に基づき、これまで発災直後の緊急援助と復旧復興に係る支援を実施しています。本記事では、日本の防災知見に基づいた同災害に対する復興基本計画の策定支援に係るこれまでの動向について紹介します。
2018年9月28日の18時2分(現地時間)に中部スラウェシ州の州都パル市の北約80kmの地点を震源とするM7.5の地震が発生しました。同地震は、世界でも極めて稀な液状化による大規模な内陸部の地滑り及び沿岸部の津波を引き起し、死者2,101名、被害者4,438名、行方不明者1,373名、住宅損壊約7万戸という甚大な被害をもたらしました。(2018年11月20日時点)
同震災の発生を受け、JICAは国家開発計画庁(BAPPENAS)から内々に復興基本計画の策定に係る支援要請を受けました。そして、10月14日の世銀IMF総会に伴って実施されたBAPPENASのバンバン大臣と北岡理事長の面談において、正式に復興計画の策定に係る支援要請が表明されました。
この要請を受け、被害状況及び支援ニーズ確認のため、10月15日~10月23日の日程でJICA地域部を中心とした関連部署、そして大学や国土交通省(港湾空港技術研究所)の有識者から構成される調査団が現地へ派遣されました。本調査では、まずジャカルタにてBAPPENASをはじめとした関係機関とのキックオフ協議を行った後、被災地において地方政府との協議や現地調査を実施し、最終日にジャカルタにてその結果を先方政府へ報告しました。この報告において、調査団から今回の震災では地震によって内陸部及び沿岸部の両方で発生した液状化に由来する地滑りの発生が、大きな被害をもたらしたのではないかという見解を発表しました。現地調査結果やデータ、専門的な知見に基づいた本見解は、インドネシア関係者から高く評価され、その後の復興基本計画策定に係る各会議でも多く引用されました。
復興基本計画は、BAPPENASが実際の事業を行う関係機関に対して復旧復興に係る大枠の基本方針を示す、いわば青写真です。公共事業省などの関係省庁や地方政府は、この基本計画に基づいて各自の実施計画を策定し、実行していくことになります。そのため、この復興基本計画において、「二度と同じ被害を繰り返さない」という信念のもと、「より良い復興(Build Back Better)」のコンセプトに基づいた方針が立てられることが非常に重要でした。
さらに、この復興基本計画でポイントとなったのは、世界でも極めて稀な液状化に起因する災害リスクをどのように評価し、実際の対策につなげるかという点でした。特に、土地利用規制のように一度決まってしまったら変えることが難しい根本的な方針が、この復興基本計画の中で正しく明記されることは必要不可欠でした。
津波で被災した大規模なPantloan港の現地視察にてDonggala県知事から説明を受ける調査団
そこで、現地で活動するJICA専門家と既存調査のコンサルタントが中心となり、先方政府と密に協議しながら復興基本計画策定の支援を行っていきました。特にポイントであった災害リスク評価については、JICAが被災地や移転候補地域における地盤調査を実施し、その結果を災害脆弱地域分類(ZRB:災害に脆弱な地域をレベル別に4段階に分類した図)の案として取りまとめ、先方政府へ繰り返し打ち込み続けました。そして、12月頭にはZRB案を含む「復興基本計画に対する提言」を取りまとめ、BAPPENASへ提出し、12月12日に副大統領に承認されました。
今後、JICAの復興支援として、2019年1月から開発調査型技術協力「中部スラウェシ州復興計画策定及び実施支援プロジェクト」が開始予定です。本プロジェクトでは、災害リスク評価とハザードマップ作成、空間計画の策定支援、インフラ強靭化の促進、生計回復支援を実施する予定です。また、有償・無償資金協力によるインフラ復興支援の準備も進んでいます。