2018年12月14日
第7回JICA-JISNAS(農学知的支援ネットワーク)(注)フォーラムが12月14日(金)東京・市ヶ谷のJICA研究所国際会議場で開催されました。
本フォーラムは農業・農村開発及び水産分野における特定テーマについて、JICA、JISNAS間で討論・意見交換を行い、双方の知見を深め、若手人材の積極的かつ主体的な参加を奨励して能力開発を図ることを目的として開催するフォーラムです。
今年度は、「産官学協働による農林水産分野途上国人材育成について-JICA開発大学院連携における農林水産分野の日本の開発経験とは-」をテーマに大学、民間企業、関係機関から約90名が参加し、講演、パネルディスカッション、意見交換が行われました。
今回のフォーラムの特徴はこれまでのようにJICA、JISNAS双方からの講演に加え、それらのテーマに基づきパネルディスカッションを取り入れたところにあります。また、パネラーの方も大学、JICA関係者のみならず民間企業、研究機関の代表の方にも登壇をいただき、二つのテーマについて議論がなされましたので報告します。
冒頭、加藤理事より挨拶を兼ね次の3点が述べられました。1)2015年度に策定された開発協力大綱では、それまでのODA大綱と異なり日本と途上国が共存共栄していくためにODAを使う、日本国全体が活性化するためにODAを使っていくという思想的変更が見られた。これによってJICAも日本の様々なアクターと一緒になり日本の国際化、海外人材の受け入れにより力を入れていくことに舵を切った。2)JICAは従来以上に触媒としての役割を重視していくことになった。具体的には自治体の海外交流、民間企業の海外展開等、提案型事業の支援が大きな一つの柱になりつつある。また、これまで大学とはSATREPS、民間とは民連事業、自治体とは草の根事業と言った形で、個別で事業を実施てきたが、最近ではこれら3つを組み合わせた事業を進めている。3)これらを推進していく上で、特に重視しているのが留学生事業であり、留学生は、民間企業が海外に展開しようとする際、あるいは人材を海外から受入れる際の懸け橋となることからも、もっと重視すべきと考えている。また、大学にとって重要な国の重要な機関から定期的に人材を受け入れ、そのような機関と堅固な関係を築くことは、日本にとって非常にプラスであると考えている。さらには、JICAは日本の近代化の経験を世界に伝えていきたいと考えているが、留学生は、母国において日本の経験を伝えることが可能、日本人にはできない役割を担ってもらえると期待している。
挨拶に引き続き、第一部として「産官学協働による途上国農業開発・人材育成への協力」をテーマに農村開発部宍戸部長より「JICA開発大学院連携・農林水産分野途上国人材育成計画案について」として、開発大学院連携構想の下での2020年から2030年までの10年間における6つの分野での人材育成計画を産官学でいかに進めていくか、SDGsの目標達成に向けた産官学の緩やかなプラットフォームの設立、につき説明がありました。
JISNAS側からは志和地東京農業大学専務理事より「国際農学人材育成の取り組み」として、JICAとの連携、国際協力を展開していく上での留学生受け入れ、同大学大学院生の青年海外協力隊への参加の事例について紹介がありました。
同テーマによるパネルディスカションでは、JICA山田上級審議役がモデレータを務め、発表者の2名に加え、篠崎前川総合研究所代表取締役社長、天野伊藤忠商事油脂・穀物製品部長、山内名古屋大学大学院生命農学研究科教授が登壇しました。
第一部のパネルディスカッションでは、日本企業が海外で事業を展開する上で必要な途上国人材とは、産官学が如何に連携し途上国人材を育成していくか、SDGsの達成に寄与する日本の知見・技術(農業生産、加工、物流、消費)とは等について議論が展開されました。
具体的には、企業が人材を受け入れるには、日本で留学生を採用し、母国に帰国して現地法人の社員とする、JICAの留学生プログラムのインターンとして受け入れる、といった多様な形態があること、人材面では、現場で起きている情報を正確に本社に伝えられること、例えば、農場を回って買い手の要請を生産者に伝えられることが重要であるとの紹介がありました。
また、大学側からは、日本独自の研究室制度を伝えること、論理的に思考を深める訓練を繰り返すこと、見栄えのいい研究は必要なく、出身国が直面する課題を自ら抽出して、その解決に繋がる研究をするよう指導していること、など大学側が留学生を受け入れるに当たって留意している点の紹介がありました。
フロアーからは、文部科学省の国費留学生プログラムとの違い、大学にとっては文科省の政策との整理も必要であるとのコメントに対して、JICAは機構法で定められた目的を達成するために留学生事業を行う、事業の効果を最大化するためのツールとして留学生プログラムも活用していくとの回答がなされました。また、東京農業大学の国際協力プログラムの予算、持続性、JICA以外の予算措置はあるのかと言う質問に対し、企業とも連携協力を結び企業とのマッチング、奨学金をお願している、という回答がありました。
第二部では、「農林水産分野における日本及びアジアの開発経験~途上国に伝えたい日本及びアジアの開発経験とは」をテーマにJICA農村開発部伊藤課長より「農林水産分野における日本の開発経験~共通講義モジュール・プログラムの形成に向けて」として、JICA農村開発部が途上国に伝えたい農林水産分野における日本の開発経験とは何か、また、その言語化、共通講義の教材開発ついて提案がありました。続いて廣政九州大学大学院農学研究院・准教授より「JICA開発大学院連携プログラム「農林水産分野における日本の開発経験」講義に関する九州大学の取組み」として、既に九州大学で開始されている開発大学院の講義に関する工夫、課題について発表頂きました。
第二部のパネルディスカションは、浅沼JICA国際協力専門員がモデレータを努め、パネリストとして、板垣東京農業大学第三高等学校・学校長、小山国際農林水産業研究センター(JIRCAS)・理事、廣政准教授、JICA伊藤課長が登壇しました。パネルディスカッションでは、農林水産分野における日本及びアジアの開発経験とは何か、途上国に参考となる経験は何かをテーマに、それら経験を効果的効率的に途上国留学生に伝えるための今後の取組み案について議論が展開されました。
具体的には、JICAが実施しているSHEPなどは、日本の経験が活かされる事業ではではないのか、売れるものを作ることは日本の食料基本法にも合致する。農作物が商品化にいたるためには農協、普及、地方行政の展開、そのプロセスこそが途上国に求められている日本の経験ではないのか、日本がどんな失敗をしてどう克服したのかが、現在、途上国が抱えている問題と似ていることからそれらこそが開発途上国にとって有益な日本の経験ではとの紹介がありました。一方で、日本の農業を知ってもらうことは重要であり、共通教材があってしかるべきではあるが、途上国のニーズも年々変化している、例えば中国では農協、普及、土地改良、卸売市場から、環境、所得格差、食糧安保、自由化に変化し、最近では食育、栄養、バリューチェーンと言った感じである。そのため何か特定なものを選び日本の経験とするのはあまり意味がないのではないか、求めているものはもっと網羅的なものではないかとの意見もありました。
フロアーからは、50年前の日本の経験と世界の現状は全く違い、途上国も多種多様にわたる、過去のことではなくSDGsへの取り組みを開発経験に読み替えて教えていくべきとのコメントがありました。一方で、途上国が抱えている問題は何かを分析し、それに日本の開発経験がどう役立つか、日本がどう取り組んできたのかを伝えていくこと、技術だけでなく途上国の社会性を確認した上で日本の開発経験を語ることは意義のあることであるとの意見もありました。なお、日本の開発経験に関する共通モジュールについては、まずは、リファレンスに類するものを作成し、その中で個々が関心あるものを選んでいけるようなものを作ることでよいのではないかとの一定の賛同を得ることができました。
最後に緒方九州大学・副学長/熱帯農学研究センター・センター長/JISNAS運営委員長から、「今回のフォーラムでは産官学、日本の開発経験の視点から活発な議論ができたものと考える。今後は学問、ビジネスがSDGsの下で一本化することが望まれる」、との閉会の挨拶をいただき3時間半にわたるフォーラム会議を終えました。
(注)JISNASは、農学知的支援ネットワークと称し、英名はJapan Intellectual Support Network in Agricultural Sciences(JISNAS)と呼びます。その目的は、農学分野における教育・研究・社会貢献等に係わる国際協力活動への参加の意図を有する大学間の連携及び大学と我が国の国際農業研究機関との連携を促進するために設置し、これら関係機関によるネットワーク体制の整備を行い、国際協力活動の推進に資することです。
加藤理事挨拶
宍戸部長による発表「JICA開発大学院連携・農林水産分野途上国人材育成計画案について」
第一部 パネルディスカッション
志和地東京農業大学専務理事よる発表「国際農学人材育成の取り組み」
伊藤課長による発表「農林水産分野における日本の開発経験-共通講義モジュール・プログラムの形成に向けて」
質疑応答