科学と開発をつなぐブリッジ・ワークショップ-SATREPS研究成果の発表と社会実装への取組みに向けて-

2019年7月26日

概要

会議名:2019年度科学と開発をつなぐブリッジ・ワークショップ「会って・驚いて・役立てる」
開催日:2019年7月26日
共催:国際協力機構(JICA)、科学技術振興機構(JST)、日本医療研究開発機構(AMED)
後援:国際連合工業開発機関(UNIDO)東京事務所、国際協力NGOセンター(JANIC)、一般財団法人新エネルギー財団、一般財団法人バイオインダストリー協会、SDGs Holistic Innovation Platform(Japan Innovation Network・国連開発計画(UNDP)共同運営)
場所:JICA市ヶ谷ビル国際会議場

主な参加者

発表研究者:

京都大学大学院工学研究科 小池克明教授
九州大学水素エネルギー国際研究センター/大学院工学研究院 白鳥祐介准教授
秋田大学大学院国際資源学研究科 石山大三教授
東京大学生産技術研究所都市基盤安全工学国際研究センター 目黒公郎教授/センター長
名古屋大学大学院環境学研究科 熊谷博之教授
鳥取大学農学部 山田智教授
農業・食品産業技術総合研究機構生物機能利用研究部門 菊地和弘主席研究員
東京大学大学院医学系研究科 野崎智義教授

研究者以外の発表者:

株式会社国際電気通信基礎技術研究所 鈴木博之代表取締役専務
株式会社ゼロワンブースター 桑田靖章氏
リアルテックファンド 熊本大樹アソシエイト
一般社団法人Japan Innovation Network 小原愛シニアマネージャー
JST産学連携展開部 岸田絵里子主査

聴講者:

企業・開発コンサルタント・NGO・財団法人・社団法人・国際機関・大学・研究機関などから98名

背景・目的

JICAとJST(2015年度よりJSTが担っていた感染症分野がAMEDへ移管)は、2008年、日本の科学技術とODA(政府開発援助)を連携させるプログラムとして「地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS:サトレップス)」を共同で開始しました。この事業は、日本と開発途上国との国際共同研究を振興するとともに、研究成果の社会生活へ活用(社会実装)を目指すものであり、環境、低炭素社会、防災、生物資源、感染症の5領域を研究対象として、現在までに51ヶ国で145案件が実施されています。

この度、科学技術の成果を開発協力やビジネスなどでの社会実装につなげることを目的に、今年度に最終年を迎えたSATREPS案件の研究代表者が、開発協力従事者や企業関係者に向けてその研究成果を紹介し、双方が意見交換するワークショップを開催しました。開発協力従事者や企業関係者が、開発途上国の課題解決に挑む研究者に会って、新しい技術や知識に驚いて、開発協力やビジネスの中で役立てることを目的とし、他方、研究者へは、開発協力従事者や企業関係者との交流を通じ、研究成果の更なる社会実装への着想を広げる場を提供しました。特に、今回は最近注目を集めるスタートアップ・アクセラレーターと呼ばれる団体から活動を紹介していただき、SATREPS研究成果の市場性についても議論しました。2017年度に初めてのブリッジ・ワークショップが開催され、今年は3回目の実施となりました。

内容

【画像】

ブリッジ・ワークショップ会場

ワークショップでは、現在実施中のSATREPSプロジェクトの中で、最終年である5年目を迎える案件から開発途上国での共同研究の成果を発表していただきました。SATREPSのテーマ別には、低炭素社会領域2件、環境領域1件、防災領域2件、生物資源領域2件、感染症領域1案件、合計8案件の発表となりました(詳細は添付「2019年度科学と開発をつなぐブリッジ・ワークショップ・プログラム」を参照のこと)。

加えて、研究成果の社会実装を促進する方策として、スタートアップ・アクセラレーターであるゼロワンブースターとリアルテックファンドから自社の活動を発表していただきました。また、JSTのプログラムである「けいはんなリサーチコンプレックス事業」(国際電気通信基礎技術研究所)及びSATREPS案件を対象としたビジネス化支援プログラム(Japan Innovation Network)、さらにJST起業前支援の「大学発新産業創出プログラム(START)」並びに「社会還元加速プログラム(SCORE)」を紹介しました。

発表者と聴講者との意見交換では、研究者、企業・開発協力従事者、投資家の3者の連携必要性や研究成果を社会実装するまでの課題が活発に議論されました。事後アンケートの結果を加えて、指摘されたいくつかの意見を以下に記します。

  • 研究成果の社会実装に重点を置いた議論は継続的に行う必要がある。
  • 研究成果を社会実装までつなげるためには、研究者や企業経営者の情熱が不可欠。
  • 投資対象とする場合でも10年単位で新技術を実用化させることを計画する場合もある。社会実装には時間が必要であることを予め認識すべき。
  • 様々な分野の研究成果を横断的に理解できる機会は貴重。
  • 研究成果のビジネス化を目的として投資会社の事業を紹介することは、企業だけでなく研究者にとっても有意義。
  • 企業にとって大学教授と連携するのはハードルが高い。今回のような出会いの場を増やしてほしい。
  • 開発途上国での技術提供が日本へフィードバックされる実例を知ることができ、途上国での共同研究の意義を再確認した。
  • 技術が生み出す格差についても議論すべき。
  • 大学生や高校生を対象に研究成果を紹介する場を提供してもらいたい。

今回のワークショップでは、SATREPSの実例とともにスタートアップ・アクセラレーターの活動を紹介したことで、研究成果の社会実装への具体的な方策を参加者に理解してもらうことにつながり、また、スタートアップ・イベントが日本や世界の各地で様々な団体によって行われている現状を知ることもできました。一方、スタートアップ・アクセラレーターの方々からも新技術の実用化への困難さや市場に出るまでに時間が必要なことが指摘され、研究成果の社会実装が必ずしも容易でないことを改めて認識させられました。研究者と投資家の間に、現地のニーズを的確に把握している開発協力従事者や企業関係者の関与が必要であることが議論されたこともあり、研究成果のビジネス化へ開発協力従事者や企業関係者が積極的に貢献することが期待されました。また、研究サイドからの継続的な働きかけも不可欠であり、今回のワークショップのような研究成果の発表機会の充実が必要との結論に至りました。

資料