公開セミナー「パレスチナ難民キャンプ改善プロジェクト-みんなの声でキャンプが変わる-」を開催

2020年1月21日

概要

JICAの「パレスチナ難民キャンプ改善プロジェクト」(PALCIP)が2019年12月に終了しました。パレスチナ解放機構(PLO)難民問題局長の来日の機会を捉え、PALCIPが導入した住民参加型のキャンプ改善プロセスが人々にもたらした変化を振り返り、官学民の有識者とともに今後のパレスチナについて考えるセミナーを開催しました。

開催日:2020年1月21日(火)15:00~17:00
会場:JICA市ヶ谷ビル2階 国際会議場
使用言語:日本語・アラビア語(同時通訳)
参加者:約100名(遠隔会議システムによる参加者を含む)

スピーカー(敬称略、登壇順)

  • アハマド・アブホリ PLO難民問題局長
  • 関口正也 PALCIP JICA専門家チーム総括(株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル)
  • 立山良司 防衛大学校名誉教授
  • 小松真実 ミュージックセキュリティーズ株式会社代表取締役
  • 小向絵理 JICA国際協力専門員(モデレーター)
  • 池田明史 東洋英和女学院大学学長
  • 安達一 JICA社会基盤・平和構築部長

内容

(1)基調講演(アブホリPLO難民問題局長)

広島の平和記念資料館を訪問し、日本が戦争の絶望から立ち直り、英知を結集して平和と復興を達成したことにパレスチナへの希望を感じたと話しました。日本の長年のパレスチナへの支援に感謝し、特にJICAが難民キャンプへの支援に踏み切った勇気を称え、今後も日本と共に平和に向けて進みたいとの決意を示しました。

(2)PALCIPビデオ上映・プロジェクト紹介(関口専門家)

ビデオと写真でパレスチナの難民キャンプの現状を紹介。PALCIPが「参加と包摂」をキーワードに住民の声を広くくみ上げる仕組みを作り、キャンプ改善計画にまとめ、計画を実現するというステップを3年間で3か所のキャンプに導入したと説明しました。

(3)難民キャンプ住民の声(パレスチナから中継)

PALCIPに参加した3つのキャンプの住民代表がJICAパレスチナ事務所に集合し、テレビ会議システムを通じて参加者に直接語りかけました。障害をもつフサムさんは、プロジェクトに参加することで自分も社会に貢献しているとの自信を持てたと話しました。若者代表のマナールさんは、若者の立場を年長者に知ってもらったり、若者同士でキャンプをどうしていきたいかを話し合って啓発活動をしたりと、対話を通じて互いに協力することを学び、実践していると話しました。キャンプの外から嫁いできたナディーハさんは、プロジェクトへの参加によって女性としてキャンプにどう貢献できるかがわかった、知らなかったことをもっと知るために勉強したい、学校を卒業する夢を実現したいと打ち明けました。

(4)パネルディスカッション

小向JICA国際協力専門員のモデレーションの下、4名の登壇者がプロジェクトの特性や今後の協力への課題について話し合いました。防衛大学校の立山名誉教授は、PALCIP開始前にJICAから相談を受け、機微な要素が多い難民キャンプへの協力は困難だろうと心配していたと明かしました。2018年に現場を訪れ、女性、年配者、若者の声が活かされて「みんなの声でキャンプが変わる」が現実になっていることを実感、この新しいやりかたを他のキャンプにも広げてもらいたい、住民の自発的な気持ちを引き出して改善につなげるのは日本独自の支援方法で、住民のローカルオーナーシップはレジリエンスの強化に不可欠、とJICAに期待を示しました。
アブホリ局長は、PALCIPはキャンプ運営にすべてのグループの人々が参加することで住民に希望のあかりを灯した、3つのキャンプの経験を次のレベルにつなげ、他のキャンプに広げる方法を考えていきたいと語りました。
ミュージックセキュリティーズの小松社長は、様々な人々が金融の力でインディペンデントになれるよう「共感」を通じた資金集めをサポートしており、UNRWAから相談を受けてパレスチナ難民への寄付プラットフォームを設立したと紹介し、日本の1800兆円の個人資産、10万人の投資家と、資金を必要とするクリエイターや組織とを繋げたいと話しました。そのうえで、今後のパレスチナ難民支援に関しては、ロールモデルの活躍を後押しするため、資金の出し手をアラビア語圏に広げ、資金集めと分配を拡大したい、特にミュージシャンの発掘に興味があると述べました。
PALCIPの関口専門家は、プロジェクトの成功の要因は住民や難民問題局との話し合いを重ねたことにあったと振り返り、今後の他キャンプへの展開について(1)限られた人員と時間のなかで丁寧に合意形成を図ること、(2)計画を作ることで一時的な達成感を得られるが、作っただけで終わってしまうと逆効果、資金調達に力を入れ一つ一つ実行に移していくこと、の2点の課題を挙げました。

(5)Q&A及びラップアップ

東洋英和女学院大学の池田学長が口火を切り、パレスチナ問題の解決に時間がかかることは明白で、パレスチナ社会がいかに強靭性を持つかがカギと指摘しました。JICAの取組みで当事者意識を持った住民は、自分たちの問題を自ら解決するようになっており、パレスチナ問題そのものの解決には国際社会の一層の努力と支援が必要と訴えました。
池田先生のコメントを受け、アブホリ局長は、パレスチナの人々が抵抗し続けてきた70年間を、広島の人々が戦後復興の歴史をたどった70年間と比較してしまう、と問題の難しさを吐露したうえで、会場の質問に答え、PLOとパレスチナ自治政府(PA)がPALCIPの継続の重要性について理解を共有していることを説明しました。
続いてパレスチナ事務所から、キャンプ住民のムーサ氏とPLO難民問題局のドゥカン氏が発言を求め、日本の人々とJICAに感謝しました。ドゥカン氏は、キャンプの「普通の人たち、偉くない人たち」がプロジェクトに参加しているのはなぜかと尋ねられるたび、「そういう人たちの声を届けることこそが私の仕事」と答えています、このプロジェクトが全ての難民に役立つことは私の誇りです、と話しました。

(6)閉会挨拶

安達JICA社会基盤・平和構築部長は、PALCIPは予想を上回る成果を達成し平和構築のモデルプロジェクトとなったと振り返り、数ある住民参加型のプロジェクトの中でも、参加者の構成に配慮したことが本件の特徴で、行政と住民の信頼醸成が大きな成功要因、とセミナーを締めくくりました。

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アブホリPLO難民問題局長による基調講演

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難民キャンプ住民がテレビ会議で参加

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それぞれの立場でパレスチナに関わる登壇者たち