消失の危機に瀕するオルミエ湖の現状と日本の取り組み(1)

2014年6月10日

オルミエ湖は、イラン北西部に位置する水域面積5,000〜6,000平方キロメートルの中東で最大の湖(世界で6番目の塩湖)です。ラムサール条約登録湿地、および、ユネスコのエコパーク(地域の自然と文化を守りながら地域社会の発展をめざす保護区)にも指定されています。この湖の水は近年減少し続け、2013年には、水域の面積が、乾季の終わりで通常時の約20%(雨季の終わりで約30%)まで縮小してしまいました。

オルミエ湖流域の面積は、日本最大を誇る利根川流域の約3倍に相当し、流域内に640万もの人々が暮らしています。地域の主要産業は農業で、小麦・トウモロコシ等の穀物や、リンゴ・アプリコット・ブドウ等の果樹、サトウダイコン等の野菜が湖周辺で広く栽培されています。

湖の水が大幅に減少した現在、観光・水運・水産業は衰退、水質は悪化し、貴重な湖の景観と野生生物の生息場が消失しています。干上がった湖底から舞い上がる結晶化した塩や微細な土埃(塩風害)により、湖の周辺では農作物や住民の健康への被害が発生、さらに、一部の井戸水は塩水化し、住民が放棄した村もあるとイラン環境庁から報告を受けています。

このような問題が生じたそもそもの原因は、1)上流域での表流水利用の拡大、2)地下水の過度の汲み上げ、3)降水量の減少や温暖化といった気候変動の影響、だと言われています。とりわけ、流域内での農地拡大、人口増加、ダム建設、数万にものぼる不法井戸による農業用水の汲み上げは、主要な人為的原因とされています。特に、取水される水の90%以上が農業用水として利用されていることが指摘されています。

すなわち、オルミエ湖を再生するには、表流水・地下水の取水量を削減し湖へ流入する水量を確保する必要があり、そのためには、流域内の降雨・地下水・蒸発散・水利用を考慮した水収支の解明、流域全体を視点とした統合水資源管理の推進、農業用水の過剰取水を大幅に削減するための節水型農業の開発と普及、土地利用計画の見直し等が課題と考えられます。

これらの課題に取り組むため、イラン環境庁は、国連開発計画(UNDP)の支援を受け、オルミエ流域の総合管理計画を2010年に策定し、節水型農業の普及やダム建設計画の見直し等を行ってきました。また、イラン国政府は、第5次5か年計画(2011−2016年)において、オルミエ湖の保全に言及し、環境庁が、エネルギー省や農業省等の機関と協力してルール作りをするよう定めています。

その後、ローハニ政権の成立を受けて、オルミエ湖救済へ向けた動きは加速しました。大統領就任直後の2013年8月、対策を急ぐため、オルミエ湖救済プログラムの作業グループが立ち上げられました。これは後にオルミエ救済プログラム国会委員会へと改編され、その下に、技術委員会やタスクフォースが設置されました。現在、技術委員会の下、専門的見地からオルミエ湖救済のための検討がなされています。技術委員会のメンバーは、エネルギー省(水資源管理を所掌)、農業省、環境庁、大統領府、大学、流域内の州政府等からの有識者で構成されています。

このような動きの中、2013年9月にローハニ政権側から日本に対しオルミエ湖問題への協力の打診がなされ、その後、日・イ首脳会談等を経て、JICAはオルミエ湖に対する支援の検討を開始しました。

JICAでは、これまで、セフィードルード川流域総合水資源管理調査(2007‐2010年)、ゴレスタン州住民参加型農業開発促進プロジェクト(2009‐2014年)、アンザリ湿原生態系保全総合管理計画調査(2003‐2005年)、アンザリ湿原環境管理プロジェクトフェーズ1(2007‐2012年)およびフェーズ2(2014年から実施中)等の技術協力プロジェクトを実施してきました。これにより、流域全体を視点とした水の需給管理、参加型による農業用水管理(節水型農業)の普及、湿原保全委員会の設立とその能力強化の分野でJICAは経験とノウハウを蓄積してきました。オルミエ湖救済支援に向けた大きな強みとなることが期待されています。

JICAによる支援の第一弾として2013年12月9日、農家が協力し合い節水する参加型水管理手法を推進してきたJICAプロジェクト(ゴレスタン州住民参加型農業開発促進プロジェクト)の専門家が、西アゼルバイジャン州農業局職員および関係者を対象としてオルミエでセミナーを行いました。セミナーでは、農民から信頼を得る行政の重要性や農民に対して節水に対する気付きや意思決定を引き出す対話型ファシリテーション手法等について専門家から紹介されました。
枯渇が危険視されるウルミエ湖地区にて、参加型水管理モデル研修を実施

2014年5月、日本政府はオルミエ湖再生のため、UNDPを通じた支援を決定し、UNDPのオルミエ湖支援プロジェクトに対して100万ドルを拠出することを正式に決定しています。JICAも、技術委員会や関係機関から情報を入手して、本格的な支援を検討した結果、これまで、1)オルミエ湖流域を対象とした統合水資源管理プロジェクトの実施、ならびに、2)長期専門家派遣によるオルミエ湖流域水資源管理を含めた水政策分野への助言、を決定しています。今後想定される更なる支援として、3)オルミエ湖流域水循環モデルの構築、4)節水型農業の開発・普及、5)オルミエ湖回復に関連する種々のワークショップやセミナーの提供、等を検討中です。

JICAは、今後もイラン側関係者との協議および情報収集を続け、オルミエ湖の回復と流域の保全に有効な支援を実施して行く方針です。

【画像】

オルミエ湖はイランの北西部に位置します。

【画像】

青色で囲まれた領域がオルミエ湖流域です。流域は、利根川流域の約3倍の広さに相当し、約640万の人々が暮らしています。

【画像】

湖の縮小を示す写真。2013年には、湖水の面積が最大時の約2割まで縮小しました。(写真提供:西アゼルバイジャン州環境庁)

【画像】

完全に干上がった湖底上で環境庁職員から説明を受けています。(5月)

【画像】

オルミエ湖国立公園レンジャー事務所の船着き場。水が無くなったため今は使われていません。(5月)

【画像】

湖の水は枯渇する一方で(写真上方が湖)、湖の周辺一帯では農地が広がり、灌漑が行なわれています。(西アゼルバイジャン州。写真上部がオルミエ湖)(5月)

【画像】

オルミエ湖沿岸の広大な農地で栽培されている小麦。(5月)

【画像】

市場価格が高いためオルミエ湖周辺で広く栽培されているサトウダイコン。サトウダイコンは、水を多く消費するとされている(5月)

【画像】

ウルミエ湖沿岸で多く見られる地下水を利用したスプリンクラー灌漑。この農場の農民によれば、地下水の使用許可を取得するのに約5年かかるそうです。(5月) ディーゼルポンプで地下水を揚水し、スプリンクラー灌漑を行なっています。

【画像】

ディーゼルポンプで地下水を揚水し、スプリンクラー灌漑を行なっています。

【画像】

オルミエ中心部にあるコーズウェイから見た湖の北側水域。結晶化した塩で一面白色になり、独特の景観に変貌しています。(5月)

【画像】

干上がった湖底から舞い上がる結晶化した塩が湖周辺の農作物や住民に被害を及ぼし始めています。(3月)

【画像】

オルミエ湖周辺の湿地に飛来するシュバシコウ(コウノトリ科)。撮影:奥村真紀子JICA職員(2月)

【画像】

ペルシャダマシカ(絶滅危惧種)。湖が干上がったため、湖にある島から湖岸まで歩いてきたところをレンジャーが保護し、柵の中で飼育しています。(5月)

【画像】

オルミエ湖救済プログラム国家委員会組織図略図(2014年2月)

【画像】

節水型農業を促進させるため西アゼルバイジャン州農業局が普及させているドリップ灌漑(先進農家が所有するモモ農園)。地下水を利用しています。(12月)

【画像】

オルミエ湖の塩が店で販売されています。美容に使われる塩と食用の塩の2種類があります。(12月)