【インタビュー】カンボジア日本人材開発センター前シニアアドバイザー・渡部晃三さん−現地スタッフが輝く職場づくりの秘訣は?

2014年6月12日

CJCCのオフィスにて渡部さんと日本語教師のスタッフのお二人

「日系企業就職説明会」「日本留学フェア」「日本カンボジア絆フェスティバル」など、さまざまな研修やイベントに加えて多彩な事業に取り組むカンボジア日本人材開発センター(CJCC)。現在、その計画・運営の中心になっているのは、現地のカンボジア人スタッフたちです。2011年3月から14年3月までの約3年間、シニアアドバイザー/プログラム調整として活動した渡部晃三さんに、スタッフ育成の秘訣を聞きました。

−CJCCでは昨年、研修部門マネージャー代理のルゥン・チアセイレアックさんがシェムリアップ国際空港会社の幹部職員に対し、生産性向上に関する「5S-KAIZEN」研修を実施するなど、現地スタッフの活躍が際立っています。在任中、どのようにスタッフの育成に取り組まれたのでしょうか。

5Sの活動経験をスタッフが講師としてビジネス研修受講者に伝える

CJCCに着任する時、私が心に決めていたのは、「現地スタッフが主役のCJCCをつくろう」ということです。そのため、まず取り組んだのが「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」を通して職場環境の改善を行う「5S」活動の導入でした。

全員参加の5S活動の様子

5Sは、スタッフ全員が職場環境の改善を「自分の問題」と認識し、その大切さを肌身で理解してお互いに協力しなければうまく行きません。実際、着任後すぐに5Sを紹介する研修を行なったところ、スタッフたちはそのやり方や大切さを理解して取り組み始めましたが、少し経つと、活動は低調になってしまいました。

5S活動のリーダーの皆さん

その後、追加の研修をしたり励ましたりしながら、しばらく様子を見ていると、スタッフの中から「なぜ活動がうまくいかないのか」と考える人が現れました。これを後押しして、5S活動のリーダーグループを中心に、スタッフ全員でワークショップを行い5S活動の計画を作成。「5S取り組み強化期間」を設けて、数カ月かけて計画的にCJCCの施設内の全ての場所において5S活動をスタッフ全員で取り組んだことが、5Sのレベルアップとその後の定着に大きな効果を上げました。スタッフたちが、5S活動に皆で取り組むための仕組みづくりやリーダーシップのあり方について真剣に考えてくれたのが大きかったと思います。

今では、スタッフたちは自ら呼びかけあって5Sに取り組んでいます。また、来客の方々には5S活動の成果を高く評価していただく機会が増え、感無量です。

カンボジア空港会社シェムリアップ国際空港から受託してCJCCが実施した「管理職向け5S-カイゼン」カスタマイズ研修(2013年8月)

なお、シェムリアップ国際空港で実施した5Sの研修では、空港の職員から「『やりたくない』と言う人が出た場合、どう説得したらいいのか」といった、実践的な質問が多く出ました。それに対し、5S活動のリーダーで同研修の講師を務めたスタッフのレアックさんが的確に回答できたのも、困難な時期を乗り越えて全員が5Sに参加する体制を作ってきた経験の賜物だと思います。

研修などの終了後には次回に向けた改善点をスタッフと話し合う

また、センターの年度ごとの事業計画は、スタッフ全員でワークショップを何度も開いて練り上げています。そのほか、JETRO事務所やJICA事務所などを訪問する際には、できるだけCJCCスタッフを一緒に連れ出して、彼らが自らCJCCについて説明し、営業活動をするように促してきたところ、目の色を変えて事前準備をして取り組んでくれました。このような形で、スタッフたちに「CJCCはわれわれのセンターで、主役は私だ」と自覚してもらったことが、現在の彼らの活躍につながっていると思います。

−東南アジアでは、せっかく育てた現地人材が短期間で転職してしまう「ジョブホッピング」に多くの日本企業が悩まされています。CJCCでも、手塩にかけて育成した現地スタッフが辞めてしまうなど、苦い経験もされたのでは。

育てた人材が転職してしまうのは、カンボジアに進出した日系企業にとって非常に難しい問題です。CJCCにとってもそれは同じですが、ただ、CJCCの場合、スタッフの転職は必ずしも否定的な側面だけではありません。
カンボジアではこの6月、イオン株式会社がプノンペン市内にショッピングモールを開設することがビッグニュースとなっています。実は、イオン現地法人で開店に向けて採用されたスタッフの人材育成を担当している現地社員のうちの二人は、以前CJCCに勤めていたスタッフでした。彼女らは、CJCCで培った経験とノウハウを生かし、新たなビジネスの場所でカンボジアの発展に活躍しています。
CJCCの目的は、現地のビジネス人材の育成と、日本と現地のビジネスの関係強化です。イオンの事例に見られるように、CJCCスタッフとして成長した人材が日系企業などで活躍するのは、一つの理想的な形かもしれません。

−カンボジアでは、留学イベントを開催したり、ビジネス研修を行うなど、CJCCと同様のサービスを提供する民間企業が増えています。CJCCはどのように差別化を図っていくべきでしょうか。

「日本の食文化とマナー」イベント終了後のスタッフの皆さん

CJCCの最大の強みは、日本センターが活動の3本柱と掲げる「ビジネスコース」「日本語コース」「相互理解促進事業」の全てに力を入れてきたことだと思います。
この3本柱は、相乗効果を生む関係にあります。例えば、相互理解促進事業や日本語コースを通して日本に興味を持った人が、日系企業で働くことを志したり、あるいは日本のビジネス手法を学びにきた人が日本文化に触れ、日本のファンになってくれたりします。また、この3本柱を生かし、CJCCでは2年前から、5Sをはじめとする日本式の経営の基礎と、日本文化に裏打ちされたビジネスマナー、日本語ビジネス会話の基礎を組み合わせた、通称「3in1コース」という新コースを開講しました。その講師は主にスタッフが務めています。このように、CJCCにはこの3本柱が重なる部分で新しい事業を展開していくことで、さらに活動を活発化して欲しいと思います。
ただ、より良いサービスを提供するためには、多様なアイデアが必要です。そのためにはカンボジア人スタッフが自ら考え、アイデアを計画的に実現させなければなりません。スタッフ育成は、今後も重要な課題でしょう。

CJCCの英名“Cambodia-Japan Cooperation Center”の中にある“Cooperation”という言葉は、CJCC設立時に現地側の強い希望があって取り入れられたと聞きました。現地の関係者には、「日本と協力して、新しい価値を創造していきたい」という強い意向があります。CJCCは、「カンボジア人と日本人が協働する場所」であり続けることが大切だと思います。実は、日本とカンボジアのビジネスの接点としての機能を高めるため、CJCCはJICAと新しいプロジェクトを今年4月から開始しました。時代の要請に応じた協力関係がこれからも継続することを期待しています。