【研修レポート】ASEAN経済共同体(AEC)発足で、発展に弾みを−ラオス日本センターの研修生が川崎商工会議所を訪問

2015年8月25日

東南アジア諸国連合(ASEAN)では今年、域内の関税撤廃などを目指すASEAN経済共同体(AEC)発足が予定され、ラオスにとっても産業発展の好機となることが期待されています。

こうした中、ラオス日本センター(LJI)のMBAコース受講生や卒業生など合計9人が7月20〜31日に本邦研修で日本を訪れ、関西や関東の企業を視察しました。このうち、7月28日には、川崎商工会議所を訪問しました。

川崎商工会議所は2012年4月、ラオス商工会議所と協力協定を締結し、同年11月に53人が参加するミッションを派遣するなど、ラオスと積極的に交流してきました。さらに、同会議所の山田長満会頭は、ラオス国立大学と20年にわたる親交を持っており、現在は日本ラオス協会の役員を務めるほか、日本ラオス国交樹立60周年を記念した日本ラオス合作の映画の制作委員会にも関わっています。

あいさつをする山田会頭

暑い日差しが照りつけ始めた朝10時、商工会議所の関係者との意見交換が始まりました。冒頭、あいさつに立った山田会頭はAECに言及し、「ラオスは地理的にメコン5カ国の中心に位置し、メコンの国々の発展を牽引していく可能性がある」と指摘。今後のラオスの発展に大きな期待を寄せました。さらに、川崎商工会議所が今年の11月、日本ラオス国交樹立60周年を記念し、100人規模のミッションをラオスに派遣することを発表。ラオスとの関係をさらに強化する方針を打ち出しました。

LJIブンルアン・ドゥアングン副所長

続いて、JIのブンルアン・ドゥアングン副所長は、「2008年に設置されたMBAコースでは、実践と知識の両方にバランスを取れた人材を育てることを目指し、座学に加え、タイの企業訪問なども行っている」、「修了生はこれまで165人に上り、今年の8月には、さらに31人が修士号を取得する予定」だと、人材育成の成果を語りました。さらに、ミャンマー、タイ、ラオス、ベトナムをつなぐ東西経済回廊に触れ、「ラオス南部のサバナケットはこれら4カ国をつなぐ中継地点として、重要な役割を担う。こうした経済統合の動きに対応し、産業人材の育成のさらなる強化が必要」だと強調しました。

その後、川崎市経済労働局国際経済推進室の長瀬一郎担当課長が川崎市の特長を、また川崎商工会議所の小泉幸洋専務理事が同会議所におけるメコン地域関連の取り組みを紹介しました。小泉専務理事は、「川崎商工会議所はラオスに加え、タイ、ミャンマー、カンボジア、ベトナム各国の商工会議所と協力協定を締結している」、「川崎市内に立地する専修大学と連携し、メコン地域の市場調査にも力を入れてきた」と語りました。

また、質疑応答では、サバナケット州の私立学校に勤めるウィラパン・ラッポーンさんが、「ラオスの産業育成に関しては、今後どのような取り組みが必要か」と質問を投げ掛けました。それに対し、小泉専務理事は、「AEC発足に伴い、タイなどから工場がラオスにもどんどん移転してくるだろう。そのため、ものづくり人材の育成を一層充実してほしい」と語りました。

さらに、山田会頭は、「ラオスは近年、急速に発展している。しかし、今後、ラオスの企業が発展していくには、経営状態を管理するツールである会計のスキルを身に付けることが必要」だと指摘し、簿記検定を普及させることが重要だと強調しました。

それに対し、ラオス国立大学経済経営学部のセーンチャン・チャンターセン副学部長は、「ラオス国立大学経済経営学部では、ラオス証券取引所と協力し、会計分野の人材育成を進めている」とした上で、「しかし、われわれが実施している簿記試験では、不合格率が7割にも上る」という切実な状況を明かしました。そして、「人材育成に関しても、川崎商工会議所に協力してほしい」と訴えました。

活発に行われた意見交換

昼食の懇親会を挟んで、午後には、川崎市に拠点を置く企業4社との意見交換会が行われました。

ここではまず、耐火レンガやウッドデッキなどを製造する東洋ロザイの山村弘樹社長が、ラオスの製材会社「スーピーカンパニー」と昨年11月に業務提携し、今後、木材の調達などを現地で行うことを明かしました。同社は12年の川崎商工会議所のミッションに参加しラオスと縁ができたことをきっかけに、ラオスで本格的に事業を行うことになった川崎市の企業第一号です。山村社長はこれまで何度もラオスに足を運んだほか、ラオス製材業界の関係者を同社の工場視察に招へいしたり、ラオス政府の高官との人脈形成にも力を入れてきたことを明かし、「私は54年前に東洋ロザイを一から立ち上げたが、今後50年でラオスの事業を同様に発展させていきたい」と力強く語りました。

それに対し、ラオス国立大学のセーンチャンさんが「ラオスには十分な雇用先がなく、多くの人材がタイなどに流出している。ラオス国内に若者が働く場所をつくってくれることに感謝する」と述べるなど、ラオスの研修生から同社の取り組みを高く評価する声が相次ぎました。

その一方で、鹿島建設開発事業本部の野口浩プロジェクト開発部長は、「日本で開催されているラオス関係のビジネスセミナーに参加して感じるのは、多くの日本企業がラオスに期待しているのは、『低廉な労働力』に過ぎないということだ」と厳しい指摘をしました。その上で、「まず、ラオスではマネージャークラスを担える人材の育成が重要」だと指摘。さらに、「ラオスに訪問して感じるのは、人々のホスピタリティーの高さ。日本では現在、高齢者介護のニーズがますます高まっているが、ラオスはこうした特長を生かし、福祉分野に力を入れては」と提案しました。

また、東京JAPAN税理士法人の浦上哲平さんは、現在、前出のサバナケット州のウィラパンさんと会計に関する短期研修コースの企画を詰めていることを明かしました。そのほか、川崎信用金庫の小林さんは、日本の中小企業が海外に進出していくためのサービスを紹介しました。

積極的に名刺交換する研修生たち

休憩時間には、研修生たちが各企業の担当者たちと、積極的に名刺交換をする姿が見られました。ここで結ばれた絆が、今後のさらなる日本とラオスの関係強化につながっていくことが期待されます。