【インタビュー】ラオス日本センター・前チーフアドバイザー 木下俊夫さん−交流の継続につながる土壌を−

2015年10月9日

インタビューに答える木下前チーフアドバイザー

タイやベトナムなどに隣接するラオスは、内陸国特有のアクセスの悪さなど、成長に向けたさまざまな課題を抱えています。ラオス日本センター(LJI)は、2001年よりラオス国立大学と連携しながら同国のビジネス人材の育成に尽力するとともに、日本とラオスの交流を深め、ビジネス以外の面も含めた両国の関係強化を目指しています。

2011年3月から2015年8月までLJIチーフアドバイザーを務めた木下俊夫さんに、在任中に注力した取り組みなどを聞きました。

−LJIの現在の状況は。

LJIは、過去5年ほど前より、事業収益を向上させるとともに、JICAからの支援を徐々に減らし、独立採算に近づけるよう努めてきました。その成果が実り、私の在任中に、運営予算の8割近くを大学側の予算及びLJIの収益から捻出できるようになりました。LJI立ち上げ当初の頃は9割、私が着任した2011年時点でも4割はJICAの支援に頼っていたことを考えると、大きな変化です。今後も、財政的な自立性を高めるために、収益につながるプロジェクトを続けていくことが大切です。組織体制においても、今後も事業を持続的に続けていく上での基盤強化が進んでいます。5年前から、LJIはラオス国立大学の中で、学部と同等の権限を持つ組織として位置付けられるようになりました。さらに、私の在任中、LJIのスタッフが昇格し、ラオス国立大学の正式な職員(国家公務員としての肩書きを持つ職員)が大幅に増えることで、ラオス国立大学内での立場はより強固になりました。たとえ50年先でもLJIが存続しているのではないかとさえ思います。

−具体的に取り組んだプロジェクトと課題は。

日本人講師によるビジネスプラン授業の様子

ビジネス面で力を入れたのは、2008年9月に開始した社会人向けMBAプログラムです。ラオス国立大学経営経済学部の教授陣に講師として入ってもらい教育の質を高めつつ、採算もしっかり見合うようなプログラムとして提供しています。このプログラムの特徴は、理論のみでなく実践を重んじた内容としている点です。特に、日本的経営の根本にある考え方(もの造り精神や倫理、人にやさしい労務管理など)を真に理解してもらうため、ラオス人による講義に加えて、実際の工場経営に経験豊富なJICA派遣専門家(コンサルタントベースによる日本人講師)による講義の組み合わせを行っている点です。MBA生向けに、事例に基づく実践的なグループ討論や工場視察なども活発に行っています。また、首都ビエンチャンを中心に着実に成長しつつある現地企業の発展を後押しするため、各種の実践ビジネスコース(短期2週間のコース)や各企業のニーズを反映したテーラーメイドのビジネス講座も行っています。こうした講座では、基本的に、LJIスタッフが講師を勤める形とし、たとえ日本人の専門家がいなくても彼ら自身の手で運営できるプログラムを目指しています。

ビジネスプランコンペ表彰

次に、日本語教育に関し、近年、LJI開設当初と比べて日本からの投資が増え、日本語のニーズも高まる一方、中国語、ベトナム語などの学習熱も高まり、また他の日本語教育機関なども出てきている結果、LJIの日本語コースに通う受講者は期待したようには増えていません。しかし、日系企業はラオス進出のために“日本語のできるラオス人”を切に求めています。それを踏まえて、受講生を増やし、質を高めていく取り組みがより一層重要になってきています。また、日本との交流の一環として、LJI主催で日本への留学フェアも毎年開催しています。これについても、日本から参加する大学数を増やしていく必要があると考えています。更に、交流事業として、ラオス日本文化祭りや就職フェアなども開催し始めました。

−今後、日本とラオスの関係はどのようになっていくと思いますか。

JICA北陸支部訪問時MBA生徒との交流会

日系企業のラオスに対する注目が近年、急速に高まっていると感じています。特に、隣国タイに進出した日系企業が、次の進出先を求めてタイ人スタッフとともにラオスに進出してくるケースが増えています。中でも、タイの国境に隣接した南部のサバナケット県には経済特区が設置され、日本企業も数多く進出しています。そうした中で、LJIのMBAコース卒業生たちは、日本とラオスの架け橋になってくれると期待しています。ラオスの人たちが日本に強い好感を持っている一方で、日本の人たちはラオスについてほとんど知りません。こうした状況下、日本的経営の手法について熟知しているMBAコース卒業生たちは、日本への本邦研修時や、日本からLJIを訪問してきた企業人たちとの関係構築を通して、日ラオスのビジネス交流の基盤を作りつつあると言えます。

その一方で、課題となるのが、ラオスの人たちは基本的に人が良く、穏やかで、競争意識が弱いことです。日系企業がビジネスで結果を求めれば求めるほど、一つ一つ丁寧に物事を片付けていくラオス人のやり方と摩擦が起きることが多々あります。

−ラオス日本センターが今後、果たしてゆく役割とは。

川崎商工会議所訪問時記念写真

両国の関係を強固なものにするために、ビジネスだけでなく、文化も含めた、より幅広い交流が大切です。そうした意味では、LJIが留学フェアなど、ビジネス以外の面で、より人の血の通った交流の場になっていく必要があります。

“タイ+1”の選択肢として、ラオスは日本企業・日系企業の進出先となりつつあります。昨今、これら企業とのCSRを通じたLJIと連携する事例などが増えており、今後の関係発展に向けた下地ができつつあります。将来的には、日本的経営のノウハウを持ちつつ、日本人がいなくても運営される「ラオス人の、ラオス人によるラオス人のための日系企業」の構築が理想だと思いますが、その実現に向けて、LJIにおいては、ビジネス教育、日本語教育、相互理解促進事業の三つの柱をバランスよく展開していくことが重要だと考えています。