【インタビュー】モンゴル日本センター前業務調整員 阿部直美さん−顧客目線のサービス構築へ

2015年12月4日

インタビューに答えるモンゴル日本センター阿部前業務調査員

人口当たりの日本への留学生数が世界一を誇り、日本との良好な関係を保つモンゴル。以前、カザフスタン日本センターでもビジネスコースの運営を手掛けた阿部直美さんは、モンゴル日本センターでスタッフ育成と、各種サービスの質向上に取り組みました。

—以前、カザフスタン日本センターでも働いていた経験を踏まえ、モンゴル日本センターの特徴と、現地での活動について教えてください

モンゴル日本センターでは現地職員も全員が日本語に堪能なのが大きな強みです。その一方で、大学などでビジネスを学んだ職員がおらず、ビジネスコースでアシスタントを務める時も、「私はあくまで通訳」と割り切っており、むしろ「日本語の専門家」ということにプライドをもっているようでした。でも、それでは常にアシスタント的な業務で終わってしまい、やりがいがだんだん感じられなくなるのではないかと思い、「自分もコンサルタントとして活動できる能力を身に付ける」という目標を持とうと呼びかけ、将来に向けたキャリアプランを描けるようにしました。

また、これまでの活動を基にしたマニュアルが整えられているために、職員たちがその枠内で満足してしまう、という問題もありました。たとえば、研修中のお菓子はこれがいい、とマニュアルに書かれていると、アンケートで「甘いものばかり出さないで欲しい」と言われても同じお菓子を出し続けるのです。こうした顧客目線や目的意識の欠如を何とかしなければ、と考えました。

—現地職員への意識付けやスキル育成はどのように進めたのですか

モンゴル留学フェアの様子

前述のような目標設定を行ったほか、講師として派遣された専門家に付き添わせたり、研修に派遣するなどして、スキルを身に付けてもらいました。

モンゴル人は努力すれば成長でき、そのための努力を厭わない人々です。現在では、職員の何人かは講師として企業に赴いたり、簡単な研修を受け持ったりできるようになりました。また、留学フェアの実施に当たっても、顧客に当たるモンゴル側の参加者と日本の大学、それぞれをどう満足させればいいかをスタッフ自身が積極的に考えてくれるようになりました。

—センターの職員の雰囲気は

留学フェアの準備風景

モンゴル日本センターは立地が良いため、イベント会場として貸し出すこともよくありました。イベントの設営は肉体労働が多く、他のセンターでは嫌がられることが多かったのですが、モンゴルの場合、文句を言う職員はいませんでした。むしろ、設営のすばやさと正確さは、日本人職員が驚くほどでした。ゲル(伝統的なテント状の家屋)の設営を思い出させる、こうした作業が純粋に楽しいのかもしれません。

職員の内訳は、ビジネスコース担当では男女が半々くらい、それ以外は運転手などを除くと全て女性です。実は、モンゴルでは大学進学率は女性のほうが高いのです。母親は子どもの教育に責任があるから、あるいは女性は学がなければ仕事に就けないからだとも言われています。

ただ、高い出生率に表されているとおり、産休に入る職員が多いです。モンゴル日本センターの職員は、カウンターパートであるモンゴル国立大学の職員という立場でもあるので、2年間の産休が保障されています。その穴埋めをする職員は非常勤となるので、そのような状況を考慮しつつ、職員の育成プランを作っていく必要があります。

しかし、子育てと並行して職務に打ち込むスタッフは少なくありません。また、最近は、退職者はほとんどいません。離職する人たちのほとんどは、留学か産休が理由なので、将来的には戻ってくる前提です。給与は低いのですが、職場環境や新たなものを学び、成長できる仕事であることが魅力に映っているようです。

—モンゴルでビジネスをする際の注意事項は

モンゴル人は日本人と比べてせっかちというか、諦めが早いというべきか、なにかと迅速な判断を求めがちです。日本企業は意思決定に時間が掛かるので、そうしたペースだとモンゴル人は嫌気がさしてしまう可能性があります。逆に、日本でもオーナー社長がすばやく決断をする中小企業などにとっては、ペースを合わせやすいでしょう。

また、駄目もとで無茶なお願いをしてくることもあるので、そこは割り切る必要があります。日本と比べて平均寿命も短いですから、「自分が生きているうちに成し遂げたい」という意識があるのかもしれません。

モンゴルでは基本的に起業熱が高く、中間管理職に甘んじるよりは自ら会社を興そうという意識が見られます。モンゴル日本センターのビジネスコースでは、設立から一定期間を経て存続している企業のみを受け入れていますが、参加者は共通の悩みを持っていることが多く、コース終了時には受講者同士が打ち解けているのも多く見かけます。昨年卒業した13期生は自分たちの会を立ち上げ、将来的には信用組合のような役割を果たすことを目指して、他の企業経営者や起業を目指す人たちを巻き込んだ活動を展開しています。

起業家は全体的に男性が多いと思いますが、女性も少なくはありません。モンゴルの女性たちは家畜の世話などを担ってきた歴史もあります。大企業の社長などは非常にしっかりした男性が多いですが、中小企業だと女性のほうがしっかりして見えることもあります。どちらにも共通しているのは、一度何かをしようと決めたら誰にも負けたくないと言うほどプライドがあり、一生懸命ということです。

モンゴル日本人材開発センターの皆さん

モンゴル人には日本に対する憧れがあります。モンゴルに来てビジネスをやろうとする日本人も、モンゴルを好きな場合が多いです。今、モンゴルに足りないものは、お金と知識、経験です。一方、日本には知見を引き継ぐ後継者がいないため、多くの経験を蓄えた年配の世代が何かを教えたくても相手がいません。ですから、日本の経験者がモンゴルの若い人たちに知識を伝えていくというのは、お互いのニーズに合致しているのではないでしょうか。

一方、モンゴルには、日本語を学べる場所は、日本センター以外にもあります。だからこそ、日本センターが提供する情報や研修の質がどこよりも高くなければなりません。あるいは、大使館など日本側関係者とのつながりといったネットワーク面など、日本センターならではのサービスの差別化をしていく必要があるでしょう。