経営塾修了生が塾生仲間と新ビジネスを立ち上げ〜第6期ハノイ経営塾OB・VINA VALVES社 ビン社長に聞く〜

2017年8月25日

 経営塾とは、「ベトナム日本人材開発インスティチュート(以下、VJCCインスティチュート)」が実施する中小企業の経営者育成のための研修コースです。日本式経営のノウハウを10か月間で実践的に学びます。

第6期経営塾修了生VINAVALVES社・ビン社長

 企業に技術サービスを提供するA&TT社の社長であったグエン・ダオ・ビン(Nguyen Dao Vinh)氏は、2014年に第6期経営塾に参加。修了後ずっと、経営塾での学びをゼロからビジネスに活かしてみたいと考えていました。そして昨年遂に、6人の有志とバルブ製造の新会社をスタートさせました。ビン氏を含め、設立者7名のうち4名が経営塾の修了生であり、その4名との出会いは、VJCCインスティチュートが実施するPPD(Professional Production Directors)コースであったというのは、運命のめぐり合わせを感じずにはいられません。VJCCインスティチュートでの出会いが生んだ新しいビジネスと、そのビジネスに経営塾の学びがどのように役立っているか、VINA VALVES社のビン社長にお話を伺いました。

—経営塾に参加しようと思ったきっかけは何だったのですか?

「2014年に発生したベトナムの経済赤字がきっかけでした。当時、機械技術サービスを提供するA&TT社の社長として経営改善に取り組みました。しかし、自分独自の方法では改善が難しく、自社の将来に大きな不安を抱えていました。そこで、日本式経営のノウハウを実践的に学ぶことが、自社の経営改善につながるのではないかと考え、第6期経営塾に参加しました。」

—経営塾では何を学び、それを自社にどのように適用しましたか。

「自社の経営改善という目的をもって参加した経営塾では、日本式経営の知識だけでなく、将来への新たな気づきを得るきっかけになりました。特に、自分の感覚のみを頼りに経営を行っていたので、日本企業が掲げる明確なビジョンに強い感銘を受けました。“サービスを提供するA&TT社では、今後モノ(=製品)を作らなければ存続が難しいのではないか”と考え、A&TT社のシステムを大きく改善しました。しかし、“自身の経験や経営塾での学びを生かして、企業経営の根本からやり直したい”という気持ちが強くなり、新たなビジネスのスタートを決意しました。」

—VJCCインスティチュートでの学びと出会いが新しいビジネスのきっかけを作ったということは、VJCCインスティチュートとしても感無量です。昨年スタートした新しいビジネスについて教えて下さい。

VINA VALVES社が提供する
バルブ・フィッティング製品

「主にバルブ(液体が通る管を開閉する部品)やフィッティング(機械部品をつなぐ部品)などの製造・販売を行う、VINA VALVES社を立ち上げました。また、VINA VALVES社が製品を提供し、A&TT社が製品のメンテナンスのサポートを行う連携関係を築くことによって、A&TT社の存続を可能にする経営戦略を新たに立てました。」

—新しいビジネスにバルブの製造を選んだのはどうしてですか。

バルブ生産工場内の様子

「経営塾での知識を生かして、設立メンバーとともに市場研究・分析を行った結果、バルブを選びました。その背景には、ベトナムと国境を接する経済大国“中国”の存在があります。現在、ベトナムのバルブ市場の60%を中国製品が占め、ベトナム製品は20%にとどまっています。しかし、ベトナムでは、原材料の銅が安価で入手できるため、また、人件費や電気代も中国より安価なため、中国よりも低コストの生産が可能です。今後、ベトナム企業が団結し、ベトナム産バルブの国内シェアが拡大すれば、ベトナムや海外の市場から高い需要があるバルブの生産は大きなビジネスチャンスになりうると考えました。ベトナム人のもつ高いポテンシャルに、日本式経営の学びが合わされば、中国の安価で強い市場を超える可能性を十分に秘めていると考えています。」

—経営塾で学んだことは、新たなビジネスにどのように役立っていますか。

社内ミーティングの様子

「ジャストインタイム生産方式(必要なものを、必要な時に、必要な分だけ生産する)やムダ取り、経営戦略など、経営塾の研修で得た日本式経営の知識・経験を積極的に応用しています。特に、経営においては“長期計画や経営戦略を、定期的に確認すること”を心がけています。今までは、実際にビジネスを実施しながら、その場その場で修正を加えていました。しかし、経営塾で学んだ日本式経営では、しっかりと計画を立て、定期的に確認・振り返りを行い、着実に内容を実行している点において、非常に参考になっています。」

—新しいビジネスは順調ですか。

機械要素技術展(M-Tech)への出展

「スタートからまだ1年もたっていませんが、全ての商品を市場に出すことができました。それにより我々の技術力を示すことができたと思います。現在は、フェーズ1として、人材育成と機械の整備に努めており、大企業に自社製品を提供できるようになりました。また、今年6月には、日本最大の機械・加工技術の展示会「機械要素技術展(M-Tech)」に出展し、日本企業と新たな取引や連携を開始することができました。これも、経営塾で身につけた日本式経営の知識をアピールしたことによりまとまったもので、経営塾のおかげだと思っています。他にもベトナムに進出した日系企業との商談が進んでいます。」

—これからのビジョンを教えてください。

「VINA VALVE社の将来のビジョンとしては、日本レベルの高品質のバルブを安価で生産・提供することです。また、ADB(アジア開発銀行)や日本のODAプロジェクトに、VINA VALVES社のブランドをもつバルブを提供したいと思っています。12月には自社工場が新たに完成します。資金面での課題はありますが、2名の設立者は政府の政策にも精通する人間でもあるため、克服できると思っています。」

 第6期経営塾を巣立った後、日本式経営を取り入れた新たなビジネスを順調にスタートさせたVINAVALVE社のビン社長。今後も、ベトナムのさらなる経済発展、および2020年の工業国化に向けて、ビン社長をはじめとする経営塾修了生の活躍が期待されます。