インタビュー:「キルギスをバーチャルなシルクロードの港に」アジズ・アバキロフ氏

2017年12月19日

 キルギスのIT産業を牽引する実業家、アジズ・アバキロフさん(Unique Technologies社社長/ITソフトフェア開発協会会長)にキルギスと日本のビジネス交流の可能性、課題などについてお話を伺いました。

【画像】

—早速ですが、アジズさんの現在のビジネスについてお聞かせ下さい。

 現在はUniqueTechnologies社の業務のほか、IT・ソフトウェア開発協会(*1)での活動など、さまざまな仕事を行っています。2003年に同社を設立後、2007年に日本のビジネスフォーラムに参加したことをきっかけに、キルギス共和国のITビジネスに関する構想を立て、2008年にIT・ソフトウェア開発協会を設立しました。協会ではその後、政府とも連携しさまざまなプロジェクトを行っています。また、この国のIT産業の戦略の中の一つとして、ハイテクパーク(*2)の構想を立てました。これは世界各国からITアウトソーシングを受注することで、キルギスを「シルクロードのバーチャルな港」にする、というものです。これについては2008年から政府に働きかけを行い、2011年にハイテクパーク法が国会で承認されました。これはキルギス国内のIT企業に対し優遇税制を認める、というものです。2013年から少しずつ会社が加盟し、2016年ではその数は2倍に増えています。目標は、2030年までにキルギス国内のIT産業に従事する労働人口を、5万人までに引き上げることです。
 私たちは、中国が一帯一路政策を行うように、キルギスに「バーチャルなシルクロード」を作りたいと思っています。日本からキルギスを拠点として、ユーラシアのマーケットやヨーロッパのマーケットにアクセスできるようになる、そのようなアイデアです。
 これまでの日本企業は、コールセンターなどの事業を、東南アジアにアウトソーシングする傾向があるように思います。その目をぜひキルギスに向けてほしい。既にハイテクパークには日本企業が一社入っており、彼らのターゲットは英語圏やロシア語圏、またアフリカも含むフランス語圏のマーケットです。私は以前、彼らに「なぜアウトソーシングを東南アジアで行わなかったのか?」と尋ねたことがあります。彼らの回答は、「東南アジアは英語のみだが、キルギスは英語、ロシア語、フランス語の話者がおり、さらには親日的で、日本語の堪能な人も多いから」というものでした。

—キルギスの国家プロジェクトTazakoomに関して、何かアジズさんのお仕事と関わりはあるのでしょうか。

 そうですね、IT協会として、Tazakoom(*3)のコンサルティングを行っています。このデジタル化のプロジェクトは現在カザフスタンやロシアでも同様のものが行われていると思いますが、我々にとってこの構想は、かなり前からありました。このプロジェクトは、現政府はかなり力を入れていますが、現政府のみではなく、今後も行って実現するべきだと思います。
 例えば、エストニアという国がありますね。デジタル化の成功例ともいうべきです。元は彼らも、同じ旧ソ連圏でした。なぜエストニアにできて、我々にできないんでしょうか。できるはずです。

—アジズさんと日本センター(KRJC)との関わりについて教えてください。

 KRJCは、学生のころから日本語のコースなどに参加していました。私がキルギス国立総合大学(KNU)の東洋学部にいたころは、まだ日本大使館もJICAもなく、日本センターしかありませんでしたね。また、私は大学でビジネスを専門的に学んでいなかったため、日本センターのセミナーと、実際に自身でビジネスを行う中でそのやりかたを学びました。なので日本センターの影響はとても大きいですし、ほかのキルギス人にとってもそうだと思っています。いまビシュケクでビジネスを行っている人々の半分くらい、特に成功しているビジネスマンたちは、日本センターで勉強した人か、ミニMBAのコースの卒業生ではないでしょうか。

—なるほど、興味深いです。先ほどお話の中で、KNU 東洋学部で日本語を勉強されていたと伺ったのですが、日本留学のご経験などはありますか?アジズさんと日本との関わりについて教えて下さい。

 はい、国際交流基金の関西国際センターに2004年から一年ほど留学していました。大阪は私の二番目の故郷ですね。大阪のビジネスマンと会うときは、いつも話が盛り上がります。

—UniqueTechnology社では、キルギスはちみつの日本輸出に初めて成功されたと伺っていますが、どのようなきっかけで始められたんでしょうか?

 はちみつの輸出は、ITソフトウェア開発をやり始めたばかりのときに、当時の日本のパートナーさんが「キルギスで何か良い特産品などはないか」とおっしゃっていたのがきっかけでした。もちろんキルギスには質のいいフェルトの衣類や帽子などはありますが、それは日本人は普段あまり身に着けたりしないですよね。そこで浮かんだのがはちみつでした。最初は単なるプレゼントとして日本に持って行っていました。2006年からある日本人の誘いもあり、本格的に輸出し始めました。そのときは最終的に天皇陛下に献上する機会があったりと、様々な反応をいただけました。今はまた、違うパートナーさんとこの業務を行っていますが、最近はキルギスのはちみつを取り扱う企業も増えてきましたので、何か違うものを輸出できないかと考えています。
 キルギスの良いものを日本に紹介する、ということを通じて、キルギスと日本がお互い知り合えるような機会を作りたいと思っています。

—何か日本のもので、キルギスに持ち込みたいと思うものはありますか?

 やはり日本のIT技術ですね。特に近年、日本のビジネスフォーラムに参加していると、ITのスタートアップがすごく増えてきたと感じています。特に日本の若い世代によるものが増えていますね。彼らの作ったものを、ユーラシアのマーケットに広めることができたらいいなと思っています。

—日本の企業とビジネスをする中で、大変だったことはありましたか?

 もちろん、文化の違いによる困難さはあったと思います。日本企業のパートナーを探しているキルギスの企業には、いつもこの話をします。けれど私たちの国は旧ソ連の一部でしたから、そもそもビジネスをするという文化がなかったんですね。なので私たちの世代がビジネスを一から勉強しなければなりませんでした。ですので文化の違いというよりは、そもそもの土台の違いがあるのと、あとは日本人とビジネスをするときに日本の文化を知らなければ、ビジネスをすることが難しいと思います。
 また日本式の仕事マナーとして、報連相については必ずキルギス側に教えるようにしています。教えると、その人たちは会社を出たあとに皆強いリーダーシップを発揮していますね。どこでも働けるようになっています。

—今後、キルギスと日本のビジネス交流を促進するためには何が必要だと思いますか。

 キルギスでの人材育成です。キルギスは若者が多い国ですので、今後彼らにITプログラミングと日本語を教えるような人材育成を行いたいと思っています。既に去年、ITアカデミーを設立しました。ITアカデミーは今はまだプログラミングだけですが、将来的にプログラミングのできる日本人ボランティア等を呼ぶことで、日本語学習の機会も作りたいと思っています。キルギスの若者に日本へ行く機会を与えることで、そこで様々な仕事や経験を積み、国に持ち帰ってきてほしいと思っています。最終的に1000人が日本に行くことができれば、ポテンシャルのある人材が必ず一定数見つかるでしょう。
 また日本側には今後もっと日本の中小企業がキルギスに目を向けてくれたらいいな、と思います。日本の中小企業は魅力的です。

—キルギスはビジネスの行政手続き等の面で、周辺諸国よりスピードが速くスムーズだと聞いています。

 そうですね。他の中央アジアの国に比べてキルギスは外国人がビジネスをやりやすいと思います。全体として、日本のビジネスにとって、今後の中央アジアはとても面白いと思います。近年の中央アジア諸国の、日本人に対するビザ要件の緩和などもありますし今後はビシュケクに住んで中央アジア全域で働くようなことができるでしょう。これはまさに「キルギスに住み、全世界で働く」という私たちのスローガンですね。

—逆にキルギスの企業が日本でビジネスを行うとしたら、どんな問題が考えられますか?

 「モノ」の日本への輸出は簡単ではないと思います。もちろん既にやっているところはありますが、輸送のコスト等考えるとなかなか難しいですね。ただこれも近年環境がどんどん変わってきて、これからコストが下がっていくと思われるので、長い目で見たら可能性はあると思います。また、パートナー選びもとても重要ですね。

—最後にキルギスへのビジネス進出を検討している日本の企業に向けて、メッセージをお願いします。

 キルギスの「バーチャルシルクロード」を使えば、必ず、ユーラシアマーケットにチャンスを見つけられます。キルギスを通じて中央アジアに進出する、あるいは日本を通じて東南アジアに進出する、そんな時代になっていると思います。人材も、技術も、はちみつも(笑)、今後絶対面白くなると思います。今は東南アジアかもしれませんが、次のビジネスチャンスは中央アジアです。

—キルギスの企業に向けてもお願いします。

 日本のビジネスの仕方を真似することですね。(企業家精神として)日本のビジネスのやり方に加えて、キルギスの伝統的なおもてなしの心、そして欧米の自由主義に対する理解を加えれば、もっと良くなると思います。多くの人々は温かい心、そして強い向上心を持っています。依然として共産党の考え方は色濃く残っていますが、多くの若い世代はその記憶から解放されていると思います。「国が自分たちに何もかも与えなくてはならない」ではなくて、「自分たちが国や社会に何ができるか」という考え方が重要ですね。そこから成長が始まると思います。そのために私たちは頑張っています。

※注釈
1)IT・ソフトウェア開発協会(Kyrgyz Software & Service Developers Association):アジズ・アバキロフ氏によって、キルギス共和国のIT産業の発展を目的に2008年に設立された組織。首都ビシュケクでのプログラマー育成のため2016年9月にITアカデミー創設。(IT・ソフトウェア開発協会ホームページより和訳 https://kssda.kg/lang/en)

2)キルギス・ハイテクパーク(The IT Park of the Kyrgyz Republic: ITP):ハイテクパーク法により設置された、キルギス共和国のソフトウェア等開発支援機構。ITソフトウェア開発、コンテンツ開発、ゲームソフトBPO、コールセンター業務を行う企業等で構成される。
ITパークサイト http://it-park.kg/

3)Tazakoom:キルギス政府による国家ハイテク化プロジェクト。2017日6月11日の国際フォーラムにて、アタンバエフ前大統領によって、このプロジェクトを持続可能な開発目標のために推進することが表明された。(出典:Tazakoomプロジェクトサイトhttp://tazakoom.kg/ サイトより和訳)

インタビュー実施日:2017年12月11日
インタビュー場所:KRJC
(このインタビューは日本語で実施されました)