「原単位によるコストダウン」講師、平田康浩先生に聞く~原単位を知れば改善につながる~

2018年5月25日

平田康浩JICA専門家

 ベトナム日本人材開発インスティチュート(以後VJCC)では、ビジネスコースの講義で、企業の経営者や中間管理職の方々に対して企業経営のノウハウを教えています。
 
 今回は「原単位によるコストダウン」で講師を担当していただいている日本人講師平田康浩JICA専門家にインタビューを行いました。先生が講義で考えておられることや、今後のベトナムについて語っていただきました。

-先生は「原単位」について講義をされていますが、なぜ企業の経営では原単位が大事になるのでしょうか。

平田専門家)利益を出すには、コストダウンが必要です。そしてコストダウンのためには目標値と原価実績(=製造に要した費用の実績)がいります。原価実績を明確に把握するには、それを構成しているそれぞれの原価(材料費や経費、労務費など製造に要した各費用)を明確にしなければなりません。さらに原価を計算するためには、基礎となる原単位(一定量の製品を生産するのに必要なものや時間のこと)を数値で把握することが必要なのです。

-ベトナムの企業における原単位の重要性とはなんでしょうか。

平田先生の講義の様子

平田専門家)原価は原単位にレート(時間当たりの賃率)をかけて求めます。例えば、労務費を出そうとすると標準工数(製品1個あたりの加工時間)×マンレート(人に関する時間当たりの賃率)で得ることができます。しかし、ベトナム企業はその標準工数を明確にしているところが少ないのです。つまり、原単位が不明確なのです。そこで、まず原単位を明確にする必要があるという意識をもってもらうためにビジネスコースで教えています。

 ベトナム企業の方は「改善」について教えて欲しいとよく言います。でも「どのように効果があるのか」、それが分からないと改善したころで意味がない。原価がはっきりしていないときっちりとした計画は立てられません。計画がなければ改善も出来ません。企業の経営ではPDCA(Plan、Do、Check、Action)のサイクルを回していきますが、ベトナムの企業はP(Plan)の部分が弱く、質問をしても抽象的な返答が多く見られます。現在はそれでも良いかもしれませんが、今後の厳しい競争になると企業はいつか耐えられなくなってしまうでしょう。問題の発見がなければ改善はできない、そういった概念が根付いていないので、私はその啓蒙をしています。

-今回の受講生は製造ラインのリーダーや製造現場のコストダウン担当者などを対象としていますが、受講生に期待していることはありますか。

平田専門家)ヒントを元に改善を実施してもらうことです。私がしているのはセミナーで、それぞれの現場を訪れることができませんから、受講生に気づきを与えることが大事だと思っています。聞いたことを実行するのはなかなか難しいものです。だから、セミナーを通じ、実行するのが難しいことなのだと現場で初めて気づいてもらえばいい。そして勉強してもらえばいいのです。知識が深まれば改善が出来るようになるし、チャレンジの意欲も湧くでしょう。その好循環によって改善は推進されていきます。こつこつと改善していくことが大事なのです。結果は後からついてくる、それが改善の面白いところと言えるかも知れません。

-最後にコメントがあればお願いします。

集合写真の様子

平田専門家)会社経営と原価管理がうまく結びついているか。ベトナム企業の社長や製造ラインのリーダーたちがそのことを分かり、経営のことをより理解すれば、もっと利益が出てくると思います。管理にはコントロールとマネジメントがあります。マネジメントは改善のこと、コントロールは決められたことを確実に実行できることです。ベトナムの企業はコントロールがうまく出来ていないと思います。それは生産計画の立て方が論理的でないものが多いことにも現れています。マネジメントとコントロールはトレードオフの関係です。未来に立ったマネジメントと今日の仕事をするためのコントロール、それをうまく調節することが大事です。
 改善を成功させるためには、成功するまで諦めず、一生懸命にやることです。苦しんででも取り組んでいるといつか成功するという道筋が見えてくる。そこには学力などは関係ありません。大事なのは気力、やる気です。ベトナムの企業にはまだたくさんの課題があります。だからこそ、受講生の皆さんには現場力をもって仕事に取り組んで欲しい。社長や経営者からのトップダウンと現場からのボトムアップが融合し、成功の道を開いていって欲しい。そういったことを企業に広めていきたいですね。

【画像】【平田康浩JICA専門家】

1974年に松下電器産業㈱(現:パナソニック㈱)に入社し、電化(ホームアプライアンス)事業に従事。生産技術の専門家として、生産システム、ITシステム、工法開発等数々の成果を上げた。1998年からは、人材開発カンパニーの「ものづくり研修センター」に所属し、IEや生産革新の研修をはじめとする人材育成研修の再構築に尽力した。同時に、パナソニックグループの海外生産拠点で現場の実践指導にあたった。同社モノづくり成果発表会で2つの金メダル獲得。