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調査・研究

国際協力研究 通算25号事例研究2(1997年4)

医薬品回転資金システムのマネージメント
-ラオスにおける事例研究-

(2)ビエンチャン市とカムアン県のRDFの運営のしくみと現状
(図-2)

1.ビエンチャン市RDF

1)背景と地理的要因

ビエンチャン市は9の郡に分割され、それがさらに35の地域、478村に分割される。郡のレベルには郡病院が置かれ、地域レベルには地域診療所が置かれている。1993年より、当初Save the Children Fund/ UKより資金を受けて4つの診療所にてRDFが開始され、1994年から95年には日本財団から初期資本薬剤供与があり、現在35の地域診療所のうち22カ所(市全体に分布)ならびに9郡すべての郡病院で実施されている。対象人口は約53万人である。RDF導入に先立ち、人々の地域診療所の利用率が低い理由につき調査が行われた。結果として、受診時に薬が底をついていることが最も住民に多く指摘され、これを踏まえてRDF構築に乗り出した。

ビエンチャン市の中心部は都市、周辺部は農村である。首都圏であるため、人口密度は96.28人/km2 と全国最高、都市化も他地域と比べて著しく、私設薬局の数も1993年に全国で登録された1480軒のうち22%にあたる331軒を有し、登録されない不法薬局を入れれば数はさらに多くなる。

2)薬供給のしくみ

(1)薬の製造元:ビエンチャンの2つの半国営製薬工場(第2、第3工場)である。1992年段階で328品目の医薬品を生産している。

(2)薬の買付け: 毎月末、診療所レベルの薬の買付けは郡レベルに統括され、市公衆衛生局の薬事課の職員の同行のもと郡職員が工場に出向き購入する。つまり薬剤、金銭は市レベルでは保管されない。それぞれの薬の購入量は郡病院ならびに診療所レベルで任意に決められる。在庫割れの場合、月末まで待たない追加買付けも認められている。追加買付けの場合、各実施主体が工場に直接行く。

(3)薬の輸送方法:工場が同じビエンチャン市内にあるため、輸送費は病院持ちだが、輸送は比較的容易。製薬工場から各郡病院により買い付けられた薬は、診療所に分配される。輸送は、診療所職員が車やバイクで郡病院から薬を持ち返る。

(4)アウトレットの形態と位置:郡病院、診療所内の薬局において、外来、入院患者に対してRDFの薬が有料処方される。

(5)在庫管理方式:在庫管理は郡病院、診療所でおのおの行われている。有効期限切れの近い薬から先に処方する。期限切れの薬は、市レベルで回収し、新しい薬と取り替えるので、市レベルでの損失になる。

(6)薬の種類と処方形態:レベルにより異なる。診療所の薬剤を表-1に示す。経口薬のみならず、注射薬、点滴も含む。郡レベルでは医師、診療所では準医師か助産婦により処方され、処方のガイドラインは、RDF独自のものは存在せず、マラリア、下痢、急性上気道炎等についてはWHOのガイドラインを参考にする。訪れたドン・バン診療所で最もよく処方される薬は抗生剤(特にアンピシリンとペニシリン)、次いでパラセタモール(非ステロイド系鎮痛解熱剤)であった。

3)コスト回収のしくみ

(1)初期資本の形成:初期はSave the Children Fund/ UKから寄付された現金で開始、その後日本財団から寄付された薬剤で拡大された。

(2)価格設定: 小売価格は、工場からの卸値の5%増しが市公衆衛生局より推奨されているが、実際は各実施主体で決定している。訪れたドン・バン診療所では20%のマージンを設定していた。

(3)支払い免除(薬・人)の方針:抗マラリア薬、ビタミンA、抗結核薬は無料。購入者の支払い免除は、特に規定を設けておらず、請求の際支払い不可といわれたら大抵は免除となってしまう。

(4)利益の使途:利益は地域診療所では月3000キープ(3.3米ドル)を上限としてRDFに限らず診療所運営費に充てられる。超過分は、基金が1万キープ(10.9米ドル)以上あれば、郡病院へ上納する。郡病院では自己のRDFの収益と上納された収益が同様に病院運営費に充てられる注11)。RDFの運営費としては、輸送や移動に伴うガソリン代が最も大きい。

4)財政

市レベルの財政管理は、薬事課の職員により行われているが、市全体の収支ならびに資産変動については、十分把握されていない状況であった。シサッタナック郡ハットドンケオ診療所の1996年1月から10月までの収支につき、表-2に示す。2月から8月までの7カ月間に、利益と薬剤在庫変動を合わせたRDF収支は月により大きく変動しているものの、全体としては6万1356キープ(約7300円)の黒字を計上している。

2.カムアン県RDF

1)背景と地域的要因

ラオス中部に位置するカムアン県は9郡、939村よりなる。1992年10月より、JICAの「ラオス公衆衛生プロジェクト」が開始された。県下の3郡からなるパイロット地区において、県保健局をカウンターパートとして、RDFをエントリー・ポイントとしたPHCシステム構築を行っている。パイロット地域は、3郡の計74村であり、人口約10万(県全体の人口の約38%)をカバーする。このうちRDFを実施している村は1995年4月の段階で50村、さらに8つの地域診療所と4つの郡病院で実施されている。 このプロジェクトでは、村レベルで国の保健行政上は存在しなかったVillage Health Worker(VHW)を養成し、彼らを拠点に初めから村レベルを中心にシステムを広げた。プロジェクトの開始に先立ち、県内898村において村(実質的には村長)を調査単位とし、村の保健ニーズに関する調査を行ったところ、最も多かったのは安全な水の供給と必須医薬品の供給で、このうちPHCのエントリー・ポイントとして最も適切であるとの判断より、RDFが取り上げられた。

県庁所在地タケクから舗装道路でアクセスできるのは9郡のうち2郡の中心地のみで、3郡は雨期には車で到達できなくなる。雨期には県内の診療所のうち70%以上がアクセスできなくなる。村落はへき地に小規模に分散している注12)。プロジェクトの調査により13%の村に私設薬局があることがわかっているが、徐々に増えている。

2) 薬供給のしくみ

(1)薬の製造元:ビエンチャンの半国営製薬工場(第2工場)である。

(2)薬の買付け:薬の買付けは県レベルで一括して行われる。月ごとの消費量が、村から診療所、さらに郡、さらに県へと報告されてくると、県では総数に薬の損失を見込んだ30%を上乗せして毎月発注する。すなわち買付け量は、前月の消費量から自動的に決定され、疾病の季節変動や大流行などによる販売量の変化も、1カ月遅れで買付け量に反映される。報告された消費量と回収されたコストを確認のうえ、県、郡レベルで消費分と同量の医薬品の引き渡しがなされる。

(3)薬の輸送方法:第2製薬工場は、タケク市に取扱店を持ち、製薬工場からここまでの輸送は、今のところ工場持ちとなっている。県と郡に薬の倉庫を有す。県から郡レベルへは、料金制のオート三輪(tuktuk)でバス停留所まで運び、さらにバスで各郡へ運ぶ。郡から診療所まではtuktuk、バス、あるいはボートで運ぶ。県から郡および郡から診療所までは上位レベルが行い、経費も負担する。診療所まで村からVHWが徒歩で取りに来て持ち帰る。

(4)アウトレットの形態と位置:村では、VHWの自宅に木製の薬箱を置き、これをアウトレットとしている。訪問したヒンブン郡シソムスン村では、VHWの自宅が雑貨屋を営み、その一角に薬箱が置かれていた。診療所、郡病院では特に区別されたアウトレットを設けず、外来(郡病院では入院も含む)患者への処方業務の中に、RDFが組み込まれている。

(5)在庫管理方式:在庫の大きさはあらかじめ県レベルで決定されている。期限切れに近い薬から先に処方する。期限切れや破損が起こった場合には県レベルで30%上乗せ買付けした薬から補充するため、これは県レベルの損失となる。

(6)薬の種類と処方形態: 村レベルには現在38種類の薬が配布されている(表-1)。経口薬、外用薬のみで、注射薬と輸液製剤は含まれない。診療所、郡病院レベルには、注射薬、輸液製剤も配布される。村レベルでは、VHWによる処方が行われるが、これは17の症候(頭痛、腰痛、歯痛、下痢、発熱、ふらつき、発疹、疲労感、肩痛、外傷、虫さされ、腹痛、嘔吐、咳嗽、眼痛、貧血、帯下)に対するWHOのマニュアルを簡略化した処方基準に基づいて行われる。診療所、郡病院では、個々の処方者の医学的判断に基づく。訪れたヒンブン郡シソムスン村では、最も消費量が多い薬はクロロキン(抗マラリア薬)であり、ついでパラセタモールであった。

3)コスト回収のしくみ

(1)初期資本の形成:必須医薬品チケットを住民に販売し、住民自身が初期資本を形成する。このチケットは50キープと10キープのRDF専用の金券であり、1000キープ分の綴りを1020キープで販売している。初期資本の形成が十分に進んだ段階で、県レベルの判断で、薬と薬箱が配布され、RDFが開始される。基金設立への住民のコミットメントがこの「前払い」を可能にしている。

(2)価格設定:卸値に25%のマージンをつけて小売価格としている。各レベルで独自の価格をつけることはできない。

(3)支払い免除(薬・人)の方針:結核などの国家プログラムの無料配布薬は、RDFの中では取り扱っていない。利用者の支払い免除は、村の中の世帯グループ間で、チケットを借りるかわりに労働や物品で支払うなどの相互扶助を促すようにしている。村によっては村長が村の積み立てから肩代わりし、その証明を医療施設に提示することがある。費用負担の例外をできるだけつくらない方針である。

(4)利益の使途:村レベルでは、収益の70%がVHW個人の収入となり、8%が村長の収入となる。診療所レベルでは、村レベルの取り分を除いたうちの2%が運営費として配分される。郡レベル、県レベルでも同様に各10%が配分される。これら運営費の内訳で最も多いのは輸送費(tuktuk 料金やバス料金)である。

4)財政

当初RDFを開始した46の村に関しては、初期投資が252万8080キープ(3466米ドル)、プロジェクト開始から20カ月で560万8880キープ(7683米ドル)の売上げがあった。差額308万800キープ(4217米ドル)のうち未使用のチケット分を差し引いた額(未確認)が収益となる注12)。薬に関しては在庫の大きさが固定されているので、破損、期限切れなどの損失のみが変動の原因となるが、この数量は得られなかった。上記の差額の大きさを考えると、この期間に基金全体は拡大したと推定される。

図-2 ビエンチャン市とカムアン県のRDFのフロー図

注)実線は金銭の流れ,点線は薬の流れを示す.

表-1 ビエンチャン市の診療所とカムアン県の村落レベルにおけるRDF薬剤リスト
ビエンチャン市診療所 カムアン県村落
アンピシリン サルブタモール クロロキン ネオバン
ペニシリン コデイン クロロキンシロップ 包帯(小)
テトラサイクリン テルピン パラセタモール 消毒綿
エリスロマイシン ユーカリプチン パラセタモールシロップ ハルファンキー
ゲンタマイシン アルドメット アンピシリン モスバー
バクトリム アダラート アンピシリンシロップ
パラセタモール キニン 経口補水塩
アナルジン クロロキン エレクシルT
アスピリン ファンシダール ベルベリン
アトロピン ラシックス メベンダゾール
ビセラルジン ナイスタチン メベンダゾールシロップ
ブスコパン グリセオファルビン アトロカルピン
フェネルガン ニドサミド アンチパット
クロルフェニラミン メベンダゾール フェネガン
経口補水塩 デカリス ディコフェン
チャルボン アトロカルピン クロルフェナミン
ベルボン ピペラジン コトリモキサゾール
パレゴリック バリウム バクトリム
イモジアム ガルデナル アルミニウム
アンタシッド カルシウム タン・アシッド
ゲルシル ビタミン B1,B6,B12 タン・アシッドシロップ
ガストロピン 硫化鉄 キュラシッド
ソダミン ビタミン C バノ
オシボルジン ビタミン A 硫化鉄/葉酸
フォスファルセッド デキストロース5% ビタミン B1
ベビドン リンゲル液 ヴィック
ヘプタミル 生理食塩水 サリチル酸軟膏
ソルカンファー メトロニダゾール テラマイシン
コラミン プロカイン クロラムフェニコール点眼薬
コルジアミン リドカイン メチレンブルー
ニケタミド アドレナリン マーキュロクローム
プラジカンテル 消毒用アルコール
アミノフィリン ダキン液

表-2 シサッタナック郡ハットドンケオ診療所RDFの1996年1月から8月の収支
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月


21,715 24,635 13,800 17,330 24,290 26,180 23,420 30,610


25,000 0 21,200 28,055 0 31,150 28,000 0


費*
11,000 2,500 0 0 3,700 3,000 1,700 0


**
-14,285 22,135 -7,400 -10,725 20,590 -7,970 -6,280 30,610



95,199 72,080 81,556 109,864 85,574 96,680 113,117 115,595



-23,119 9,476 28,308 -24,290 11,106 16,437 2,478
R
D
F


***
(累積)
-984
(-984)
2,076
(1,092)
17,583
(18,675)
-3,700
(14,975)
3,136
(18,111)
10,157
(28,268)
33,088
(61,356)
単位:キープ(1米ドル=928キープ,1円=8.4キープ)
注) * 運営費の内訳は薬運搬のための交通費である.
** 利益は月ごとに売上げから買付けと運営費を引いたものである.
*** RDF収支は利益と在庫変動を加えたものである.


注11)
ビエンチャン市公衆衛生局:地域診療所におけるRDFの利益の使用に関して(通達)、ビエンチャン市公衆衛生局、ビエンチャン、1995

注12)
Health Sector Financing and Management 研究会:薬剤回転資金マニュアル、Health Sector Financing and Management 研究会、p26-40、p107-113、1995