【コロナ関連インタビュー】ルイ・サライヴァ研究員に聞く

2020年9月30日

新型コロナウイルス感染症は、世界中で社会のあらゆる側面に影響を与えています。支援の中断や制限によって、一部の紛争地域では武力衝突が再燃し、すでに被害に遭っていた人々がさらなる被害を受けています。従来のやり方が通用しないこのコロナの時代に平和構築のアプローチはどうあるべきか、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)のルイ・サライヴァ研究員に聞きました。

新たな脅威に対応するために「状況適応型」の戦略を

—新型コロナウイルス感染症の影響について、平和構築分野の研究者の視点からどのように考えていますか?

他のどのセクターでもそうですが、今回の世界的なパンデミックの影響は、武力衝突の悪循環を断ち切ろうとしている平和構築アクターと現地コミュニティーの両方に及んでいます。実際に、和平プロセスが中断され、武力衝突が再燃した地域もあります。また、新型コロナウイルスによる経済的な打撃により、緊張をより激化させる恐れもあります。こうした現状から、紛争被害地域の人々の多くが、ますます弱い立場に置かれてしまっています。現在、気候変動の脅威、自然災害、感染症、あるいは武力紛争など、原因が何であれ非常に多くの課題が生じており、このような新たな脅威や複雑な背景に対応するためには、平和構築アクターが状況に適応した総合的な戦略を考えなければなりません。それは研究者も例外ではありません。平和構築分野の研究者が平和構築支援の現場で実施されるプログラムの有用性にどのように貢献できるかは、どう「状況適応型」の戦略をつくるかによっても左右されるからです。

現在JICA緒方研究所で実施している研究プロジェクト「持続的な平和に向けた国際協力の再検討:状況適応型の平和構築とは何か」は、2022年3月に終了する予定です。新型コロナウイルス感染症による危機が始まった際、私たちは当初の研究計画や目的を再検討し、フィールドワークをリモートで実施する方法を考え、研究の進捗の新たな評価方法を模索しました。そして保健分野の専門家の意見を聞いた上で、1918年のスペイン風邪のパンデミックをモデルとし、これと同様に新型コロナウイルス感染症の流行も18~24ヵ月間継続するだろうと想定しました。アントニオ・グテーレス国連事務総長も、最近のインタビューで「物事が最善の形で進んだとしても、世界が元通りになるには今後2、3年はかかるだろう」と述べています。したがって、本研究プロジェクトでケーススタディーに基づいてデータや根拠を収集するには、リモートでのフィールドワークを実施するのは避けられないと考えました。ここで次に生じた疑問は、「調査分析対象としている紛争影響地域のコミュニティーに入り込めないのに、どうすればフィールドワークを継続できるのか」、また、「現状の制約に対応するためには、デジタル化によるどんな新たなチャンスやリモートの手法があるのか」でした。しかし、平和構築分野の研究者にとって、実はリモートでのフィールドワークは新しいものではないことに私たちは気づきました。紛争影響地域では、安全保障上の問題から現地での調査研究が不可能であることが多いため、リモートでデータ収集できる技術はすでに使われていたからです。

—紛争影響地域での新型コロナウイルスによる影響を調査する場合、どんな困難や課題がありますか?

必然的に、多くの研究機関は渡航規制という形で今回のパンデミックに対応したため、その結果、人と人が直接対面する形で研究を継続することは不可能になりました。この状況に対応するため、社会科学の研究者たちは、例えばビデオ通話や電話によるインタビュー、オンラインアンケート調査といった形でリモート研究を実施しています。私たちの研究プロジェクトでも、インタビューの対象は平和構築のアクターとそのパートナーであるため、リモートでのフィールドワークは可能です。平和構築のアクターとそのパートナーとは、つまり、国際機関、中央政府、地方自治体、市民団体、NGO、信仰に基づく奉仕活動団体などを指します。したがって、私たちのチームの研究者は紛争影響地域に住んではいないですが、研究プロジェクトを予定通りに進めることができるでしょう。しかし、不安定で武力紛争の影響がある環境でフィールドワークを実施することは慎重に検討しなければならず、新型コロナウイルス感染症の流行による影響を加味し、一層慎重を期す必要があります。このような状況でのフィールドワークは、紛争の被害に遭っている人々だけでなく、外部の研究者や現地の研究者いずれに対してもリスクを及ぼすことがあるからです。一般的に、平和構築分野の研究者は、危険な出来事が起きる可能性に備えておく必要があります。そして、客観的なデータに基づく検証を伴った科学的厳密性だけでなく、現地の状況への適応力を兼ね備えることが求められます。また、フィールドワークにあたって研究者が対話する相手がさらされる可能性のあるさまざまなリスクについても認識しなければなりません。実のところ、平和構築分野の研究者は、しばしば対立し二分極化された相容れない状況の中で仕事をしますが、新型コロナウイルスによる危機によって、こうした環境にさらに新たな困難が上乗せされています。したがって、「紛争地の人々に対して害を及ぼさない(do no harm)」という原則や研究倫理は、不安定な環境で暮らす人々にとって私たちの仕事がさらなる重荷にならないためにも重要です。また、この分野の研究では、先進国と途上国双方の研究者の連携が重要です。現地の文化や複雑な背景に根付いた専門的知見は、現地の専門家がいて初めて得られるものであり、彼らのフィードバックはエビデンスに基づいた研究の基盤として不可欠だからです。


これまで以上にパートナーシップが重要に

—新型コロナウイルス感染症の影響を受けている紛争地域でのフィールドワークから得られた知見を教えてください。

渡航制限が継続し、世界が私たちの知っている姿から変わり続けていく中、各研究機関は現在進行中のプロジェクトを中断することなく実施・完結するのを可能にするための暫定的な戦略を策定しています。これは、フィールドワークの手法という面では、研究者たちは何が「新しい日常」になるのかをまだ把握できずにいるものの、現状をふまえて知識の創造とは何なのかを見直し、再検討しなくてはならないという意味です。したがって、連携による取り組みやパートナーシップは、これまでにないほど重要になっています。政策策定者が当然のように自国内の問題とパンデミックがもたらした課題に関心を移した中にあっても、社会科学の研究者はリモートによる研究手法を使って、おおむね国境や制約に縛られることなく研究を続けています。この現状は、平和構築の実務者が喫緊の課題解決に集中する一方で、研究者はこれまでと同じような課題に取り組むべきであるものの、より広く長期的な視野を持つ必要性を示唆しています。今、研究者が世界と関わることができる唯一の方法は、パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器を活用したフィールドワークの手法を用いることです。

例として、私のモザンビークでのリモートフィールドワークでは、オンラインインタビューを実施し、インタビューアーがあらかじめ決められた質問をして回答者に一問一答で答えてもらう音声を録音しています。また、メールによるインタビューも併用しています。メールであれば各人がそれぞれ都合の良いインタビュー実施時間を選択することができます。モザンビークの首都マプトと東京の時差は7時間ですので、メールを用いればインタビューアーも回答者も、質問と回答について検討する時間が十分に確保でき、インタビューの文字起こしも不要になります。さらに、回答者のほとんどがスマートフォンアプリを使ってインタビューアーと連絡をとることができるため、アプリやソーシャルメディアを用いた手法も非常に有用です。オンラインアンケート調査も利用すれば、基礎的な人口統計学的な情報を収集し、自由回答形式の質問をすることもできます。最後に、オンラインまたはビデオ通話ができるツールさえ確保できれば、パンデミックの最中であってもフォーカス・グループ・ディスカッションも実施可能であることに気づきました。こうしたデジタル機器を活用したリモートの調査研究手法を使って、私は自分の研究を進めています。ただし、繰り返しにはなりますが、研究者は連携しながらパンデミック収束後の世界における持続可能な新しい研究手法を生み出すために、さらに検討していく必要があります。


コロナ危機の中での平和構築に効果的な戦略を求めて

—携わっている研究プロジェクトの現状と今後の展望について教えてください。

現在、私たちの研究プロジェクトでは、「調停」と「平和構築」という2つのテーマで研究成果のとりまとめにあたっています。互いに関連し合うこの2つのテーマについて、複雑で長期化し、繰り返し発生する現代の武力紛争という文脈から考察しています。私は、「調停」の面からは2019年にモザンビークで新たな平和合意への署名を可能にした主な要素と戦略を抽出しながら、2013~2019年にかけて実施された調停プロセスの適応性を検証しています。調停の背景にある複雑性に対処するためには、調停プロセスにおける適応的な要素が必須だと見い出すことができました。調停プロセスの最終段階が実効性のあるものとなったのは、対立する両者の仲介や相互理解、直接対話を重視する調停プロセスチームの慎重かつ適応力のある戦略の結果であったからです。実を言うと、現在の世界的なパンデミックは、国際的な調停の取り組みに影響を及ぼしています。調停者は国をまたぐ移動も国内での移動も禁止され、空港が閉鎖されるといった事態に直面していますし、国際機関や現地の機関も外交や調停に向けた活動の中断や先延ばしを行っているからです。適応型の調停(adaptive mediation)に関する私たちのこの研究が、グローバルな公衆衛生上の危機にあっても、平和構築アクターに有効な調停戦略のあり方を示唆できることを願っています。

一方、「平和構築」の面では、私は2019年のモザンビークの和平合意の実施に関する分析に重点を置いています。新たな武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)プロセスの実施やカーボデルガード州での過激派武装勢力への対応といった鍵となる課題について、実はまだ現地の平和構築アクターも国際的なアクターも対応できていません。モザンビークでの平和構築の状況は2013年から突如変化し、それまでよりも複雑な性質を持つようになりました。平和構築は長期的なプロジェクトであり、単なる紛争の後処理ではありません。私はフィールドワークを通して、活動を現地の実情に適応させることのできる国際NGOは、特に弱い立場の人々に重点を置きながら活動が困難な地域でも活動できており、人間中心的な平和への道のりを維持するために効果的で重要な役割を果たしていると分かりました。

平和構築がこれまでになく複雑になっていることに伴い、今後は、気候変動や現在のパンデミックのようなグローバルな公衆衛生上の問題と、武力紛争や暴力的な過激思想、政情不安との関係を考察する研究テーマに注力したいと思っています。こうしたテーマは、国内避難民や難民の数が世界的に増えていることとも関係してきます。JICAのような開発協力機関は、パートナー組織と連携しながら、さまざまで複雑な危機を緩和し、防止し、そして効果的に対応するために重要な役割を果たせると私は固く信じています。ポルトガル人として、またEU市民として、JICA緒方研究所で研究することは、日本、アジア、そして世界中の平和構築の研究者や実務者とともに学び続ける機会となりました。また、適応力があり、現地の実情に沿った人間中心のアプローチ、すなわち現地のより弱い立場に置かれている人々や取り残されている人々に恩恵をもたらす革新的な平和構築と開発のアプローチにたどり着くことができました。こうした経験には計り知れない価値があり、今後の研究にもしっかり反映したいと思っています。

■ルイ・サライヴァ研究員プロフィール
大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了(国際公共政策)。エドゥアルド・モンドラーネ大学アフリカ研究センター(モザンビーク)客員研究員、ミーニョ大学国際関係・行政学部(ポルトガル)客員教授、ルジアダ大学人文社会学部(ポルトガル)助教授、JICA研究所(現JICA緒方貞子平和開発研究所)平和と開発領域研究員、法政大学グローバル教養学部非常勤講師、名古屋大学大学院国際開発研究科招へい教員などを経て、2019年1月より現職。