「二国間援助機関による人道危機対応に関する比較研究」 第2回執筆者会合を開催:人道危機対応のコンティニュアムを議論

2016年5月20日

人道危機対応にかかわる関係者の間では、「救援だけでは不十分」という認識が共有されています。この考えは1991年の国連総会決議において「救援、復興、開発の連続的実施(コンティニュアム)」として明確に位置づけられ、今日でも国際援助の大きな課題の一つとなっています。

フィリピンの台風ヨランダの被災地で生活する人たち(写真:谷本美加/JICA)

JICA研究所は2015年1月から研究プロジェクト「二国間援助機関による人道危機対応に関する比較研究」を進めており、2016年4月25日に第2回執筆者会合をJICA市ヶ谷ビルで開催しました。この会合の目的は、自然災害と紛争に関する6つの事例研究の結果を共有し、議論することにあります。事例研究で取り上げた自然災害は、ホンジュラスのハリケーン・ミッチ、スマトラ沖大地震・インド洋津波、フィリピンの台風ヨランダで、紛争については、東ティモール、シリア危機、南スーダンです。

JICA研究所の萱島信子副所長は冒頭のあいさつで、「人道危機対応においてはシームレスな支援が求められています。本研究がこの目標を達成するために役立ち、実際の活動や学術研究に貢献することを期待しています」と述べました。

会合では、本プロジェクトのアドバイザーを務める立教大学の長有紀枝教授や日本赤十字看護大学の東浦洋教授が出席する中、6件の発表が行われました。

自然災害のセッションでは、スマトラ沖大地震・インド洋津波をJICAの石渡幹夫国際協力専門員、台風ヨランダを東北大学の地引泰人助教と小野裕一教授、ハリケーン・ミッチをJICA研究所のゴメズ・オスカル研究員が発表しました。

開会のあいさつをする萱島信子JICA研究所副所長

紛争のセッションでは、シリア危機を立山良司防衛大学名誉教授(日本エネルギー経済研究所客員研究員)、東ティモールをキヤノングローバル戦略研究所の本多倫彬研究員と早稲田大学の田中(坂部)有佳子助手、南スーダンをJICA研究所の川口智恵研究員が発表しました。

各発表では各事例でコンティニュアムが実現できたかどうかを考察し、自然災害と紛争事例の共通点と相違点、世界人道サミットで発するメッセージとの関連性、人道危機対応に関連した用語の多義性などについて議論しました。

JICA研究所のゴメズ研究員は、ホンジュラスに広範囲かつ壊滅的な被害をもたらしたハリケーン・ミッチの事例を取り上げました。防災と復興の相互作用を長期的な視点から考察し、国際社会やホンジュラス政府の楽観的な計画と、災害対策をめぐる意見の相違が、防災と復興の間にギャップを生んだ経緯を紹介しました。

ゴメズ研究員は「ホンジュラス政府が復興支援を求める一方で、国際社会は災害支援の本筋を離れ、国家的なトランスフォメーション政策を長期的なコンティニュアムを実現するための目標として提言した」と説明しました。ゴメズ研究員によると、このトランスフォメーション政策はおおむね開発や復興につながりましたが、災害支援は手薄になり、国内のニーズを満たせませんでした。米国は大規模な援助を実施したものの、期間が短かったために、援助の質や継続性が損なわれ、EUは現地に代表者不在のままプロジェクトを進めたために現地のアクターをまとめることができませんでした。日本はインフラの復興を重視し、予防策を慎重に取り入れた計画を立てたものの、その実施には時間を要し、取り組みはほとんど記録に残っていないことを指摘しました。

ゴメズ研究員は「緊急時の避難方法を教えることは間違いなく重要だが、地滑り予防も含めて総合的に対処する方がより賢明だ」とし、早い段階から予防的視点を取り入れ、バランスの取れた災害対策を進めるべきだと主張しました。

JICA研究所のゴメズ研究員(右)と川口研究員(左)

JICA研究所の川口研究員は、南スーダンの事例を取り上げました。米国・EU・日本という3つのドナーに的を絞り、戦略・調整・資金供給という3つの観点から、それぞれの取り組みにおける相違点を考察し、コンティニュアムの実現を促進・阻害する要因について論じています。

川口研究員は、1990年代初頭から現在に至るまで、救援と開発の連動が重要な課題であることが関係者に認識されており、ドナーは開発、復興、早期回復、レジリエンスといったさまざまな取り組みにおいてコンティニュアムを実現するために努力を重ねてきたと指摘。しかし、ドナーと被援助者の不安定な関係が、コンティニュアムを実現しようとする取り組みに影響を与えてきたと分析しました。

こうした発表を通じ、執筆者とアドバイザーは、コンティニュアムを実現するための地元政府の関与や、ドナーと政府の関係、レジリエンス等の用語の多義性、コンテクストへの依存が大きい点など、6つの事例の共通点と相違点を詳しく確認しました。議論の結果、「アクターは人道危機対応のプロセスは段階的に移行するものではない(non-linear)という認識を持ちながら連携し、マンデートや認識の違いを超えてコンティニュアムを全面的に実現しなければならない」という点で意見が一致しました。加えて、「長期的な視点を持ち、被災地・被災者を人道危機対応の中心に据え、危機前より強じんな社会を実現しなければならない」という点も確認しました。

JICA研究所の北野尚宏所長は、閉会にあたって、「今日は、研究結果をまとめた書籍の出版に向けて、有意義な議論を交わすことができた。世界人道サミットなどの場で我々のメッセージをしっかり発信していきたい」と述べました。

会合では、第1・第2フェーズの成果をもとに、世界人道サミットで発信するメッセージとして、以下の5点も確認しました。
1. 人道危機対応はノン・リニア(non-linear)である
2. 支援者間のマンデートやマインドセットの違いを乗り越える
3. 被災地を中心に据える
4. 危機発生時から予防のための活動を開始する
5. グローバルレベルな協力体制を危機の種類に応じて作り直す

なお、本プロジェクトの最終成果は、学術書としてとりまとめられる予定です。