「キレイ」の底力 〜キレイな工場、パラグアイへ〜 (大阪:枚岡合金工具(株))

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円陣を組んで

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朝のお掃除

午前9時前、摂氏0度まで下がった1月の朝。工場内に声が響き渡ります。作業服姿の十数名が左隣の同僚の肩に手をあてて輪になり、右手の人差し指で輪の中央を指差しながら、その日に気を付ける事項を確認しています。

続いては毎朝の床掃除タイム。使うのはモップや掃除機でなく、雑巾。「自分の心を自分の手では磨けません。しかしモノを磨くことを通じて、心を磨くことが出来ます」と社長(古芝保治・代表取締役)が解説してくれます。

訪問先は?

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事務所外観

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製品

訪れたのは枚岡合金工具株式会社の工場。住・商・工が混じり合い戦前の面影を残す大阪市生野区の住宅街にある、長屋スタイルの貸し工場の一角です。

ここでは作っているのは金型。ネジなどを作るための型で、この金型に材料の金属をプレスすることで、ネジなどが出来上がります。中でも枚岡合金工具では、特に高い精度・強度・耐久性が求められる製品(常温の金属をプレスするもの)を製造されているとのこと。ここで製造された金型を用いて、A社製品のネジ(ネジの頭にロゴマークが入った精密なもの)や、なんとカールルイスのスパイクなども作られているそうです。

訪問者は?

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社長のプレゼンテーションに熱心に耳を傾ける研修員

工場を訪問したのは、中南米パラグアイからの一行。日本人にはあまり馴染みのない国で、フリーキックの上手いゴールキーパー・チラベルト選手が有名だったくらいでしょうか。
産業としては大豆の輸出額が世界第3位と、農業・畜産が中心で、これまで農産物の輸出に頼ってきました。農産物を加工し商品として輸出すると利益も大きくなり、変動の激しい市場価格の影響も受けにくくなります。食品加工をはじめとした中小企業の活性化に国を挙げて取り組んでおり、日本(JICA)もそれを支援しています。

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事務所の3S視察

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マーカーも定位置に

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書類保管場所も徹底しています。

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一目瞭然!

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社長のプレゼンテーション

彼らが抱えている課題は競争力の向上。南米では「メルコスール」と呼ばれる、自由経済圏(圏内では関税が掛からず、圏外に輸出するものの関税も統一)が1995年より発足しました。輸出製品が域内での競争に打ち勝てるように、品質・コストの向上が求められています。
パラグアイの商工省や中小企業支援組織に勤務する彼らは、日本の企業が取り組む品質・生産性の向上や、その分野における公的機関の支援のあり方を学んでいて、今回の訪問もその一環です。

枚岡合金工具訪問の目的は3S(整理・整頓・清掃)の取り組み視察。10年前から3Sを開始し業績を改善させた実績があり、当日は冒頭で紹介した朝礼や工場見学、社長によるプレゼンテーションで、取り組みについて知ることが出来ました。
モノや場所を整理することで、必要な情報を社内で共有し、品質向上や業務の改善につなげるのがミソ。研修員がパッと見て分かるほど、工場や事務所の3Sは徹底されています。社員が共用する工具や文房具はその返却場所が分かるようにしてあったり、床を掃除できるようにかさの大きなものにキャスターをつけて移動可能になっていたり。一般的にイメージされるような「町工場」を覆す光景です。
結果だけでなく、プロセスも重視しています。例えば工場の断熱材は社員総出で設置。昼休みは近くの公園でみんなで弁当を食べ、作業が終了したら近くの銭湯で汗や油を流した後、社長が黒門市場から取り寄せたトラフグでてっちり。モノ・場所や情報を共有するだけでなく、社員がより会社の成長に関わってくれるよう意識しているとのことです。

「今は不況。苦しい状況。だが、同じように会社がピンチだった10年前とは違って、打つべき手をどんどん打っていくことができる」社員の手で整備された屋根裏の会議室で、小柄な身体をいっぱいに使い、目をキラキラ光らせて話す社長のプレゼンテーションには熱が入ります。

訪問の感想は?

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ありがとうございました!

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視察後の腹ごしらえ

日本とパラグアイで国民性が異なるように、「働き方」も異なります。中南米勤務経験者の話を聞くと、日本のようにチームワークを尊ぶというよりも、個人の能力や資質に重きが置かれているとのこと。枚岡合金工具のやり方がパラグアイで役立つのでしょうか。

訪問後、彼らに聞いてみました。きれいに整理された工場やオフィスはもちろん、彼らの最も印象に残ったのは、社員の姿勢。「社員自身がその会社をいかに改善できるかのよい例を示してくれている」「まるで皆が経営者のよう」そして、その姿勢の背景にある社員のモチベーションに注目していたようです。「すべて整頓されて清潔。その自負心が意欲を高める。最大限の質で働いている」

実際の取り組み手法は、パラグアイの事情(社会・経済・文化)や、彼らがコンサルティングする中小企業の事情にマッチした合ったものでなければなりません。枚岡合金工具のやり方をそのまま取り入れてもうまくとは限りませんが、社員の「モチベーション」というキーワードで応用できると彼らは感じたようです。

近い将来

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生き生きと話す社長

訪問の最後に社長が話してくれました。「今の経済状況の中では、今までやってきたものを一度捨てて、0からのスタートです」社長の挑戦は続きます。

一方、パラグアイ一行も2月上旬に研修を終えパラグアイへ戻りました。現在JICAがパラグアイ政府と共同で実施している「品質生産性センター強化プロジェクト」の成功の鍵を握るコアメンバーとして、パラグアイで作られる製品の質向上や競争力強化に活躍します。

近い将来、大阪の町工場のノウハウとパラグアイ人の努力が詰まったパラグアイ製品を行きつけのスーパーで手に取ることになるかも…。

関連リンク

この研修事業の受入機関は以下の通りです。