日本で一番の大きさを誇る湖『琵琶湖』は、市民の手によって守られてきたことを皆さんはご存じでしょうか? その最前線で活躍してこられた一人の女性 藤井絢子さんの元に環境政策・環境マネージメントシステムコースの研修生10名が訪れました。訪れた場所は滋賀県東近江市にある菜の花館。人口5700人の愛東町から始まった小さな町の小さなプロジェクト。これが今は全国、そして世界に広がっています!!
富栄養化によって赤潮が発生し琵琶湖の水質汚染が問題視されはじめたのが30年前。大切な琵琶湖を守りたいということから、市民の手による“琵琶湖再生運動”が始まりました。
水質汚染の原因の1つが日常使用する洗剤に含まれるリンでした。そこで市民が知恵を出し、生まれたのが、天ぷら油などの廃油を原料にして作られた粉せっけんでした。今まで土に埋めたり、垂れ流していた廃油が琵琶湖を汚さない“せっけん”に生まれ変わるのです。まず、県内に数カ所の回収ポイントを作って、原料となる廃油を県民から回収するところから始まりました。最初はなかなか理解が得られず、スムーズに事が運んだ訳ではありませんでした。しかし、最終的には県民の約7割が粉せっけんに変えたといいます。滋賀県内の洗剤のシェアが従来の洗剤から粉せっけんにとってかわっていったということで、大手洗剤メーカーとは裁判で争うことまで考えたそうです。藤井さんは環境改善活動を行っていくのには、住民主体で動かなければならない。そして、その住民の声や運動に賛同してくれる政治家や知事を選ぶことも非常に重要であると言います。何かを成し遂げる時には市民の力が自治体や知事まで動かすまでになるのだということを痛切に感じました。トップダウンではなく、ボトムアップのまさしく市民による活動が展開されていったのです。
今回訪問した菜の花館
廃油で走るバイオディーゼル車
近年、富栄養化に加えてもう一つ大きな問題が出てきました。それは地球温暖化による気温の上昇です。今までは雪が溶けた水が琵琶湖に流れ込み、湖の水は循環していました。しかし、最近では、積雪量がぐんと下がり、雪解け水の琵琶湖への流入が減ったのです。そうすると、湖の呼吸(循環)がとまり、溶存酸素が減少し、湖の汚染がひどくなりました。17年前、CO2排出量が少ない廃油を用いたバイオディーゼル燃料を作ろうというプロジェクトを旧愛東町からスタートさせました。今では家庭からでる廃食油と、学校給食センターからでる廃食油を加えた2万8000リットルの廃食油をバイオ・ディーゼル燃料に精製し、地域内で活用しています。また、休耕田を利用して、食用油を作るため、菜の花栽培もスタートさせています。市内の循環バスや廃油の収集車などはバイオディーゼル燃料で走っています。今では、モンゴル、ウクライナ、中国、韓国にも菜の花プロジェクト「資源循環・リサイクル」が広がっています。
廃油から燃料精製
粉石けんを作成中
籾殻を炭化するプラントです。1日約1トンの籾殻を炭化します。炭化の工程で出る排熱は、暖房や搾油等に利用しています。
訪れたのは、環境政策・環境マネージメントシステムコースのアフリカや中東、アジアからの研修員。“研修員”と聞くと皆さんはどのような人たちを思い浮かべるでしょうか…。実は、途上国からの研修員の多くが、国や自治体の中核を担っている行政官たちなのです。今回もそれぞれの国の環境関連分野の要として働いている人たちです。
当日は、市民参加の意義やその活動について藤井さんからお話を聞き、館内においては、廃油で走る『バイオディーゼル車』や、菜の花から取れる菜種からバイオ炭や食用油を作る装置、愛知で行われた“愛・地球博”に出展され、“世界の100の技術”のうちの1つに選ばれた廃食油燃料製造装置『エルフA3型』を見てまわりました。
藤井さんは「海外から視察に訪れてくれることに意味があり、日本と世界とを繋げることができる」とおっしゃいます。来られた方々のそれぞれの国と日本とを近く感じてもらいたいと考え、どこかで関連づけて話すように心がけてくださいます。
セネガルからの研修員(所属:環境自然保護省環境局)ニアング・イディさんは「お金などコストのかからないシンプルな方法で地球温暖化に取り組める事が知れてよかった」ベトナム(所属:気象水文学環境研修所)からのファ・ハイ・バンさんは「市民の教育、意識を高めている」と今回の研修内容の感想を語ってくれました。また、ケニア(所属:環境管理庁)からのギルファス・キア・オポンドさんは「個人レベルでやっている人たちがいるが、それをコミュニティベースにのせていくことを考えていきたい」と自国に戻ってからのことを語ってくれました。
彼らは7月上旬にそれぞれの国に戻りました。環境問題は一つの国だけでは解決しない問題です。国家レベルで取り組まなければならない事もあると思いますが、地域レベルで取り組まなければならない事も多々あります。その取り組み国や自治体だけでなく、市民の手によって行われ、それが子ども達の代まで続いていくこと。その重要性も彼らはこの研修で実感したことでしょう。ぜひこの研修内容を自国の環境改善に役立ててもらいたいと願わずにはいられません。
そして、彼らがきっかけとなって世界各地にこの資源循環・リサイクルの考え方が広がればもっとよい未来が待っているのではないでしょうか。
バイオ炭。籾殻や油カスを入れて有機肥料にします。
手動で発電
発電機に興味津々の研修員
この研修受入れ事業の受入機関は、(財)地球環境センター(GEC)です。