人間力が我社の資産 〜ものづくりを支える人材育成〜(株式会社 中農製作所)

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中農社長(左)、西島工場長(右)

日本のものづくりを支える東大阪。元気な経営者や卓越した技術など、個性豊かな中小企業が多く立ち並び、世界に通用する製品を世に送り出しています。その経営手法は、日本国内のみならず、今後経済成長を目指す世界中の開発途上国からも大きな注目を浴びています。

この東大阪中小企業の強さの源は何なのか?そこには、会社一丸となって社員を育てる企業の姿がありました。

  • 研修コース:アジア地域 中小企業振興 衛星打ち上げプロジェクトから見る経営手法
  • 受入期間:2010年1月12日〜2月6日

訪問先は?

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工場見学風景(中農製作所)

今回訪れた株式会社中農製作所は、自動車部品をはじめとする様々な金属部品を製造・販売する、東大阪を代表する企業のひとつです。特に金属部品の精密切削加工、水溶性切削液・研削液・洗浄液の腐敗抑制システムに高い技術を持っており、2007年には「明日の日本を支える元気なモノ作り中小企業300社」受賞、2008年には「なにわの名工」に社員1名が選出されるなど、その高い技術力・生産力は折紙付きです。

技術力・生産力は、ただそれだけを追い求めていれば向上するものではありません。人材、組織力、顧客とのネットワークなど、いわゆる「知的資産」の蓄積・活用が大きなカギとなります。近年、この「知的資産」活用の考え方は注目が高まってきており、いくつかの企業では「知的資産経営報告書」として、自社の強みを整理する動きが始まっています。まだ日本国内では約100社が作成を始めたばかりの先駆的な取り組みですが、中農製作所はこの視点に注目し、昨年、自社の「知的資産経営報告書」を作成しました。

全社一丸となって作り上げたというこの報告書の中で、代表取締役社長の中農康久さんは述べています。「ナカノは、社員一人ひとりがお互いの人格を尊重し、共に学び、共に育つという『企業理念』のもと、社員のチャレンジ精神や高いモチベーションを生み出し、真に価値のある『ほんもの』を創造していく」と。中農製作所の強さの秘訣は、この人材育成にあるようです。

訪問者は?

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議論に熱くなる研修員

東南アジア各国で中小企業振興に携わる14名の行政官です。1月中旬から約一ヶ月間日本に滞在し、東大阪の様々な中小企業を訪問しながら、日本独自の経営手法を学びました。研修員の中には、現在自国でJICAの事業に関わっている方、現地の日系企業で勤務経験のある方、さらには日本語を話せる方もおり、東南アジアと日本とのつながりを改めて実感させられました。

研修員の多くは、カイゼンなど基本的な知識を持っていましたが、「理論は分かるけれど実践が難しい。実際に企業を訪問して、日本の経営手法がどのように実践されているのか見てみたい」と話します。

今回訪れた中農製作所では、特に活動が見えにくい人材育成がテーマ。研修員からも積極的な姿勢が伺えました。

研修の様子

事務所に入った途端、早速、全社一丸となった様々な活動が目に入ります。各部屋には社員一人ひとりが5S担当に任命され、掲示板に張り出された社員からの提案の数々、ファイルをきれいに整理する工夫まで、一目見ただけで大変多くの発見と驚きがありました。これらも社員のやる気を高める方法のひとつなのでしょうか。

訪問では、最初に中農社長からご挨拶をいただいた後、西島工場長から「知的資産経営報告書」に沿って会社概要を説明いただきました。約1時間の講義のあとは、工場見学です。研修員全員でお揃いの帽子をかぶり、ひとつひとつ作業現場を見て回りました。西島工場長の丁寧なご説明を研修員たちは熱心に聞き入っていました。作業場の事務スペースでは、実践されている5S活動が分かりやすく紹介され、西島工場長は「これらは全て社員自らが考えたもの」と教えてくれました。女性が多いことに驚いている研修員や、効率的な作業風景に感心している研修員もいました。

人材育成の秘訣

その後、中農社長と西島工場長との質疑応答があり、世界経済の影響や、品質保証の取り組みなど様々な質問が投げられました。特に議論が盛り上がったのは、マレーシアの研修員から「優秀な人材を惹きつける理由は何か?」という質問が挙がったときでした。中農社長や西島工場長からは、社内での様々な取り組みを説明いただきました。中農製作所では、社員全員に毎年目標設定をしてもらい、年4回の個人面談を実施しています。会社、社員それぞれの将来の方向性と現在の目標を議論しながら、「なぜこの会社で働くのか?」をお互いに明確にしていきます。そして、目標が明確になったら、それに見合う責任を与えるのだそうです。中農社長は言います、「大企業はブランドと安定性が魅力だけど、中小企業は自分なりの納得感が魅力。一人ひとりがいかに自分のフィールドを持てるか、一緒に考え、責任を与えていけるから、社員も残ってくれるんだ」

研修員たちはこれに対して「どういう責任を与えるのか?」「人材育成部門はあるのか?」など、踏み込んでいきます。きっと研修員も中農社長の話を深く理解したかったのでしょう。そこで、中農社長は隣に座っている西島工場長の話をしてくれました。「私は彼に会社の目指す方向性や経営の仕方などをずっと教えてきた。彼は他の会社でもうまくやれるくらい優秀だけど、こうやって一緒に働いているのは、一緒に議論して議論して、お互い同じ企業理念や考えを共有してきたから。私は彼をとても信頼しているよ」

中農社長の力強い説明に、研修員たちは納得した様子でした。人材育成の仕組み自体は作れるかもしれない、しかしやはり一番重要なのは、経営者と社員、上司と部下など、社員一人ひとりの垣根を越えたコミュニケーションであると感じた訪問となりました。

関連リンク

この研修事業の受入機関は以下の通りです。