野生動物と人が共存できる森をめざして —野生生物と人間の共生を通じた熱帯雨林の生物多様性保全プロジェクト—(京都大学人類進化論研究室)

JICAは近年深刻さを増す地球規模の課題に対応するため、JST(科学技術振興機構)と連携して平成20年度より地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)を立ち上げました。この事業の1つとして、2009年よりガボン共和国で京都大学による「野生生物と人間の共生を通じた熱帯雨林の生物多様性保全」プロジェクトが始まりました。このプロジェクトの中でも重要な活動目的である地元研究者の育成のため、2010年9月2日から11月17日まで、ガボン共和国科学技術開発省熱帯生態研究所(IRET)から3名の研究員が来日し、京都を中心に研修が行われました。今回はこのプロジェクトの代表である京都大学大学院理学研究科の山極教授にその詳細を聞きました。

ガボンの抱える課題

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ゴリラの健康診断

ガボン共和国は中部アフリカに位置し、北にカメルーン、東にコンゴ共和国そして西は大西洋に囲まれた国。国土の80%以上が森林に囲まれており、これまではその森林資源を他国に輸出することで外貨を獲得してきました。現在、ガボン政府は従来までの資源開発型から資源保全型の政策に変更し、森林を保全するためのエコツーリズム産業の開発を急務としています。ガボンは国土の11%に及ぶ国立公園を持ち、ゴリラやチンパンジーなどの霊長類が生息する手付かずの自然がヨーロッパからの観光客の人気を呼ぶことが予想されます。

しかしながら、ガボンには生物多様性を維持しつつ観光化していく科学的な知識の蓄積ができておらず、ここで日本の高い知見と技術協力が必要とされています。

日本だからこそできる協力

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研修関係者と研修員

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井上助教とエティエンヌさん

地理的に遠くはなれ、歴史的なつながりもほとんどない日本がどうしてガボンという国の生物多様性の保護に貢献することができるのでしょうか。

近年、エコツーリズムが人気になっていくとともに、人と野生動物との間に致死的な人獣共通感染症が広がることが大きな問題となりはじめました。ガボンのケースではその対象がゴリラやチンパンジーにあたります。ツアーの人気のポイントでもある野生動物との接触が適切に行われなければ、動物にストレスを与えるばかりではなく絶滅に追いやってしまう危険さえもあります。

しかし、それを回避するための知見と技術が日本にはすでにあったのです。山極教授はその理由を「日本には昔からニホンザルがいて、何十年も前から猿害の対策や、共存のための研究が行われている。ヨーロッパやアメリカにはサルは存在しない。彼らの研究はあくまでも途上国にいる類人猿に対する研究であるが、日本は共存のための研究をしてきた。だから日本の技術がガボンで役に立つんだ」と話されていました。

1993年屋久島が世界遺産に登録されるにあたり、京都大学の研究成果が重要な役割を果たしたという歴史があります。これらの蓄積されたノウハウが現在ガボン政府が管理する13の国立公園の生態系の維持と、ゴリラとの接触を目玉としたエコツーリズムの両立に役立つと考えられます。

また、アフリカの熱帯雨林は、中・大型哺乳類の多様性が高く、ゾウと霊長類のバイオマス(生物体量)が大きいという特徴を持っています。京都大学の研究チームは、アフリカの類人猿を中心とした霊長類の研究で先進的な成果を上げてきました。京都大学が発展させてきた研究手法を導入することにより、科学的に生物多様性の評価を行なうことが可能となります。

研修の内容

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実験中のエティエンヌさん

科学的管理の元に、エコツーリズムを維持することをプロジェクトの目標にしているため、今回来日したIRETからの3人の研修員は、分子生態学、微生物学、生理学、ウィルス学を研修することを目的とし選出されています。研修員たちは京都市動物園、京都大学、京都府立大学での合同研修後、それぞれの専門分野研究のため京都大学、京都府立大学、山口大学に分かれ研究実践を学びました。その後、再び合流し世界遺産としてのエコツーリズムが成功している屋久島へ向かい、事例研究を行いました。

この研修がどのようにガボンに役立つか

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成果発表会の様子

これらの研修を終えた研修員は、帰国後ガボンの研究所で各分野のリーダーとなり、その技術や知識を広めていくキーパーソンとなることが期待されています。京都大学で分子生態学を学んでいるエティエンヌさんは、その技術を習得し、プロジェクトの対象であるムカラバ・ドゥドゥ国立公園の生態系、中大型哺乳類の分布および遺伝的多様性の把握を行いたいと話していました。同大学院のラボで実践を繰り返す中、機器の使用方法だけでなく、ラボの運営方法や機器の管理なども学びました。今後は京都大学の井上助教とともに、ガボンでのラボの立ち上げにも関わる予定です。

COP10開催を機に生物多様性が叫ばれるなか、長い霊長類の研究実績のある京都大学にしかできないプロジェクトの一環として、この研修が注目を浴びています。

関連リンク

この研修事業の受入機関は以下の通りです。