琵琶湖の身近な環境が世界の環境保全に貢献—開発途上国での環境教育に携わる人材を育成—(財団法人国際湖沼環境委員会)

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紙を燃やした際に発生するガスをビニール袋に集める研修員

現在開発途上国の河川や湖沼では、生活排水や産業排水による水質悪化が大きな問題となっています。そして、環境問題について人々の理解を深めてもらうため、環境教育の重要性が高まっています。そのためJICA大阪では、財団法人国際湖沼環境委員会を受託機関、滋賀大学を協力機関として、高校や大学など高等教育において環境教育に携わる人材の育成を目的に、2000年から「水環境を主題とする環境教育」コースを実施しています。このコースには、2009年まで延べ34カ国75人の研修員が参加しました。2010年は、アルジェリア、中国、コソボ、ヨルダン、モロッコ、ベネズエラの6カ国から計7人の研修員が参加し、8月16日から10月16日まで実施されました。

このコースは、琵琶湖を主なフィールドとして環境教育の手法を学ぶコースです。琵琶湖は日本を代表する湖ですが、過去に富栄養化による赤潮などの環境問題を行政や市民の取り組みによって乗り越えた経験があります。教育は人の生き方の根幹を形成するものですが、環境教育は環境に配慮した行動を人々に啓発するための教育です。そのため研修員には、琵琶湖の自然環境や環境保全に向けた取り組みの実践例について、講義だけでなく実習で実際に体験することで、日本の経験を参考に、自国に合わせた実践的な環境教育プログラムの作成が求められます。

研修の様子(1)酸性雨と環境教育に関する講義や実験

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水に試薬を加えた際の色の変化からpHを調べる

滋賀大学の川嶋宗継教授によって行われた酸性雨と環境教育に関する講義や実験は、身近な環境問題をどうすれば印象深く伝えることができるか学習することを目的としています。川嶋教授が大学周辺で採取した雨水のpH(水素イオン指数)を、簡単に作ることができる試薬を用いた色の変化で示してくれた後、研修員も紙を燃やした際に発生するガスや自動車の排気ガスを集めて、それらのガスを吸収させた水のpHを調べる実験を行いました。教育省で教育課程や教材作成を担当しているヨルダンからの研修員タハニ・モハマド・アリイブースさんは、「この実験を通して、身近にある材料を使って魅力的な実験ができることを学んだ」と語っていました。

研修の様子(2)近江八幡でのフィールドトリップ

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情緒あふれる八幡堀の風景

このフィールドトリップは、地域の自然環境や文化的資源を現地に出向いて学ぶ重要性を伝えるために行われています。近江八幡には八幡掘という水路があります。この水路は、琵琶湖から八幡山城下に船を往来させるため、戦国時代豊臣秀次の指示により整備されました。八幡堀の存在によって商業が活発化し、近江八幡の街は発展を遂げてきました。しかし、高度経済成長期の生活様式変化で船による物資輸送が衰退すると、八幡堀は市民にとって忘れられた存在となり水質も悪化し異臭など公害の発生源となってしまいました。しかし、町の発展に貢献してきた八幡掘を再生したいとの思いから市民運動が起こり、八幡掘の再生計画が実行されました。その結果、現在では近江八幡の重要な観光資源として毎年多くの観光客が訪れ、映画やドラマの舞台ともなっています。さらに、2006年には全国で初めて重要文化的景観に選定されました。研修員は、美しい風景を楽しむとともに、環境保全に向けた市民の主体的な取り組みが地域振興にもつながることについて理解を深めました。

各国における環境教育の発展に向けて

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八幡掘の歴史や再生に向けた取り組みについて説明を聞く研修員

酸性雨に関する実験、近江八幡でのフィールドトリップそれぞれに共通することは、地域の身近な環境をテーマとして扱っていることです。近江八幡でのフィールドトリップの引率をされた滋賀大学教育学部の秋山元秀教授は、「琵琶湖周辺の地域には、内湖があったり、その干拓地があったり、湖面とその周辺の多彩な環境が見られる。また灌漑用水の敷設、運河の掘削、河川改修など、多面的な水利用も見られる。海外から来た研修生には、これらの豊かな水環境の利用と保全状況を実地に学んでほしい」と語っていました。身近な自然環境や文化的資源に注目することは、その地域の良さや抱えている問題に気づくことにつながります。研修員が日本での貴重な体験を通して、それぞれの国で環境教育の発展に向けて活躍することが期待されます。

関連リンク

この研修事業の受入機関は以下の通りです。