【JICA研修員】ベトナムの街に安全なビルを建てたい!

【画像】Tran Van Tuan(ベトナム)

AUN/SEED-Net研修員  土木工学(京都大学工学研究科)
Tran Van Tuan(ベトナム)

※2011年度までは、旧JICA大阪と旧JICA兵庫が、別々に業務を行っていました。以下の記事は、当時のものをそのまま掲載していますので、ご了承ください。

ASEAN地域の長期的かつ持続的発展に欠かせない産業界の活性化にむけ、工学分野の人材の育成を目的に形成されたアセアン工学系高等教育ネットワーク(ASEAN University Network/Southeast Asia Engineering Education Development Network 略称 AUN/SEED-Net)。 ASEANを代表する19大学と日本の11大学が連携し、ASEANの若手研究者の能力強化を目指しています。中でも活動の中核となる「奨学金プログラム」で修士や博士の学位を取得した学生は、2003年のプロジェクト発足から現在までに700人を超えており、アセアン地域と日本との間で強固な工学系人材のネットワークが構築されています。

今回紹介するベトナム出身のTuanさんは、「奨学金プログラム」で、タイのチュラロンコン大学博士課程に留学中の28歳です。留学期間中にAUN/SEED-Net連携大学に短期留学することが出来る「サンドイッチ博士課程留学プログラム」を利用し、昨年12月から今年7月までの8か月間、京都大学工学研究科の木村亮教授の下で学びました。在籍するタイの大学への帰国を前にTuanさんに聞きました。

Q. どんな研究をしているのですか?

母国ベトナムそして留学しているタイでも生活用水の汲み上げによる地盤沈下が問題となっています。建物を建てようと思っても、場所によっては地盤が軟弱なことから打った杭が傾いてしまい安全な建築物ができません。そこで、地盤の支持層に直接杭を打ち込まず地中に浮かせた状態で杭を打つ手法が注目されています。地中に浮かせた状態でどこまで建築物を支えられるのか、これが私の研究テーマです。

Q.なぜ日本に短期留学したのですか?

京都大学にある遠心力載荷試験装置が研究に不可欠だったからです。実際に地中に杭を打って負荷をかける形で実験を行うとなると、膨大な土地と時間が必要になります。しかし、この装置を使えば、例えば実際には3か月半かかる実験も、約1時間あれば結果を得ることが可能です。この最先端の装置は、日本をはじめ限られた場所にしかありません。この装置を使うことで、より安全で、環境への影響も少ない杭の打ち方の研究を短い時間で行うことができるため京都大学に留学しました。

Q.日本での研究生活はどうでしたか?

使う装置が最先端のものということで、当初は、使い方を覚えるだけでも大変苦労しましたが、研究室の日本人学生が常に一緒に居てサポートしてくれたことにまず感激しました。また、日本人学生の優しさ、質の高さと研究にかける情熱、そして、教授がまるで我が子に接する様にきめ細かに指導を行う様子などから、「日本人の精神」を学んだ様に思います。3月の東日本大震災では、現場で多くの電力会社の関係者や技術者などが昼夜を問わず命がけで作業をしていると聞いています。うまく表現できないのですが、そこにも「日本人の精神」があると思います。私が最先端の装置で実験し、快適な研究室の椅子に座って論文を書く生活ができたのは、一生懸命に働いた日本人の皆さんが納めた税金のおかげです。より良い明日を世界中にもたらそうとする、「日本人の精神」に感謝しています。

Q.将来の目標を教えて下さい。

タイの大学で博士課程を修了した後は、母国の大学で研究を続けます。私の研究を母国で理解してもらうには、あと数十年かかるかもしれません。しかし、指導者となり若い研究者を育て、ベトナムの街にたくさんの安全な高層ビルを建てたいです。知識と共に日本で学んだ、他者の明日を思う日本人の精神も、若い学生に伝えていきたいと思います。

Tuanさんが日本で学んだ知識や経験は、AUN/SEED-Netの目的であるASEAN地域の継続した発展に活かされると確信しています。

【画像】

ベトナムの地盤を再現した装置  日本人の専門家と協議しながら自ら製作

【画像】

研究室の日本人学生のサポートを受けながら慎重に実験の準備

【画像】

遠心力載荷試験装置を使っての実験

【画像】

研究室での最終報告会  8ヶ月の成果を発表

【画像】

京都大学木村教授研究室メンバーと

【画像】

閉講式にて JICA大阪酒井所長と