JICA研修員の帰国後レポート

【画像】研修コース名:2009年度 総合経営管理(旧JICA大阪)
研修期間:2010年 2月 3日から 2010年 3月 6日まで
研修員:イマード・ハイダル氏(ヤマーム・ファンシー毛織会社社長)

2011年3月以降、2年間にわたり内戦状態に陥っているシリア。第2の都市アレッポでは、政府軍と反体制派の戦闘が続いています。2013年1月、そのアレッポ在住の帰国研修員イマード・ハイダル氏から、日本の研修関係者に連絡が入りました。旧JICA大阪で2006年度から2010年度まで実施した「シリア総合経営管理」(注1)に参加した研修員たちが、日本で学んだ5Sやカイゼン(注2)などの生産性向上活動をシリアの復興に役立てようと、日本式経営の普及に努めているとの報告です。首都ダマスカスでは、内戦前から様々な活動がなされていました。2011年12月にアレッポ工業会議所でセミナーが開催され、2012年2月にはレバノンとの国際セミナーも開催。セミナー報告や日本式経営の要点が解説されたアレッポ工業会議所会報も、会員企業に配布されました。

注1:
同国別研修では、工業会議所関係者(企業経営者を含む。)から毎年10人を約1か月受入れ、日本式経営の理論と実践を現場視察や演習を交えて実施。研修委託先は、公益財団法人太平洋人材交流センター(PREX)
注2:
カイゼンとは、日本の製造業で生まれた工場の作業者が中心となって行う活動・戦略のこと。

シリアに広まる日本の経営管理

シリア総合経理管理の閉講式

内戦下のアレッポの治安や人々の緊張感は、私たちの想像を絶する厳しいものであるに違いありません。日本人が現地に入れないため、JICAの支援も極めて限定的なものとなっており、アレッポ工業会議所の活動は、シリアの人たちだけで行われています。そうした状況下でも、日本が第2次世界大戦後の焼け野原から経済大国へ発展したことに、自分たちの希望を重ね合わせ、「シリアの復興には、日本式経営を導入し、従業員の働く意欲を高め、経済を活性化させることが重要。」と、厳しい環境下でもセミナーを開催し続ける帰国研修員の意欲と努力に、感動を覚えます。

帰国前に、「5Sやカイゼンが実践されている事例を目の当たりにし、日本式経営の有効性を実感した。」、「自国の経済発展に有益だから、帰国後実践や普及を進めていく。」と熱く語っていたものの、実践を続けることは、並大抵のことではなかったでしょう。

このような大きな成果を生む研修となった背景には、現地に派遣されていたJICAのシニア海外ボランティア(SV)と連携した人選や研修内容の調整だけではなく、本邦研修が研修員に与えることができた「日本人と日本への信頼感」も大きいと思います。

研修員曰く、「シリアにいた時、SVには、親切な日本人が来てくれていると思っていた。何を相談しても親身に答えてくれるから。日本に来てみて、日本人皆が同じように親切なのだとわかった。何でも惜しみなく教えてくれる。日本はすばらしい!」

リーマンショックの厳しい経営環境下で視察を受入れてくださった中小企業など、様々な関係者の協力で実施した本邦研修。関わった多くの日本人から、また、日本の歴史・文化・社会から、経済発展に必要な地道な改善の力を確信し、実践を続ける研修員。彼らが自国の発展のために、存分に力を発揮できるよう、シリアに平和と安定が一刻も早く訪れることを願ってやみません。

アレッポ工業会議所会報要旨

カイゼンを説明した図

アレッポ工業会議所の機関紙は昨今の国内紛争の影響で刊行が遅れていましたが、このたび第6号が2012年第1四半期に、第7号が第2四半期に発刊され、市内の企業に配布されました。以下はその要旨です。

第6号では、ハイダル氏が、アレッポ工業会議所とシリアのJICA研修員同窓会の共催で、2011年12月28日に開催されたセミナーについて報告している。
同氏は「ビジネスマネジメントの日本的アプローチ」というタイトルの講演で、無駄の低減による利益率の向上と、労働環境の改善による事故の解消、即ち労働者に優しい職場構築の重要性について語った。これは、崩壊したシリアの産業を再構築し、正常化するために、今まさに必要とされている知識である。また、同氏は、日本では産業界と人々が一体となって戦後復興を遂げ、世界をリードする国になったことにも触れた。
工業会議所会頭のアルジョウニー氏(2010年度に研修参加)は、JICAの5年間にわたる協力の成果を広め、シリアの産業の発展に繋げていくことの重要性を述べた。JICA研修員同窓会会長のアル・アグバール氏は、帰国研修員がセミナー・講演会・展示会などを開催して、日本の心と文化に根差した知識や情報を広めてほしいと語った。また、JICA研修員経験者が1200人を超えたことから、シリア産業界の中心都市であるアレッポに、JICA同窓会の支部を設立する予定であることを発表した。

第7号には、ハイダル氏の「ビジネスマネジメントの日本的アプローチ」の論旨が掲載された。そこでは、日本の「カイゼン」活動には継続的で地道な努力の積み重ねが重要であり、人材開発と品質向上のための改善活動の積み重ねによって利益が増大すると述べている。後半部分では、日本企業を訪問した折に撮影した写真と共に、多くの事例も紹介している。