研修コース名:環境安全のための化学物質のリスク管理と残留分(旧JICA兵庫)
研修期間:2011年2月28日から8月13日まで
セルビア ベオグラード大学化学部助教
Mr. Vladimir P. Beskoski(ウラジミール・ベスコスキー)
JICAは、開発途上国の国造りの中核となる人材を育成する目的で、研修員を受入れています。日本に滞在中、技術や知識を習得し、また、日本の伝統・文化に対する理解を深めます。帰国後、母国の人々のために、習得した学びや問題解決のヒントをいかに活用していくかは、研修員個人のやる気とその所属する組織の責任によることが多いのが現状です。今回は、それらを活かし、活躍する元JICA研修員を紹介します。
ウラジミール・ベスコスキーさんは、2011年、当時のJICA兵庫(現在のJICA関西)が実施した「環境安全のための化学物質のリスク管理と残留分析」コースの研修員として、日本に約5か月間滞在しました。彼の住むセルビアのベオグラードでは、民族対立によるコソボ紛争の中で、空爆により多くの発電所や石油精製施設が破壊されました。その結果、ドナウ川には有害化学物質が流れ込み、工場廃水に含まれる有害物質と共に、未だに汚染が続いています。
研修に関わった専門家たちは、彼の存在によって、セルビアの問題を知り、彼の母国のために何か貢献したいという気持ちに目覚めたといっても過言ではありません。ウラジミールさんが、人間的魅力に溢れ、真摯に母国の汚染状況を憂い、その実態を解明し解決策を見つけたいと強く語ることで、周りの人を惹きつけたのです。
2012年2月同コースの成果品としてのアクションプランを提出する。
2012年3月JICA兵庫(当時)に同コースのアクションプラン進捗報告を提出する。
※2011年から2012年6月までに作成したアクションプラン「化学物質の生態毒性及び物理化学試験実施に係るセルビア研究施設の能力評価」を実施する。
2012年5月アクションプランに基づいて提案した「ベオグラード化学・技術・冶金研究所及び兵庫県環境研究センターによるセルビアの河川底泥に含まれるPOPs(残留性有機汚染物質)に関する共同研究強化」が、研修のフォローアップ事業として採択される。
2012年9月京都で開催された国際質量分析会議において、セルビア・日本の共同研究—技術論文を発表する。
2012年10月上述のフォローアップ事業が実施される。(日本から専門家を派遣し、共同研究についてベオグラード化学・技術・冶金研究所やベオグラード大学関係者と共に意見交換し、ベオグラード大学での日本側の研究紹介セミナー開催、工業地帯の現状視察、河川水のサンプリングなどを行った。)
2012年12月技術協力プロジェクト案をJICAへ提出する。
2013年1月ウラジミールさんのアクションプランを含めた上述提案関係者による研究論文が”Scientific journal Chemosphere (January 20139)に掲載される。
彼の挑戦はまだまだこれからであり、帰国後の活動は進行形です。
2012年10月ベオグラード大学での意見交換(右端が筆者)
(コース終了時に提出された研修報告書から抜粋)
2011年3月11日、あの地震と津波によって東北地方が大きな被害を受けました。私も研修地である神戸にいて、揺れを感じました。テレビなどで現地の被害の様子を見て、打ちひしがれ、言葉もなくすほどでした。しかしながら、侍の子孫である日本人は、この地球上に起こった前代未聞の自然災害時においても、人としていかに振舞うべきか、いかにあるべきかの手本を示しました。あのような混乱の事態においても、その冷静さは失われなかったといえます。
この驚くべき日本という国にやってきた私たちに託されたことは、この国のすべてを見聞きし、学び、呼吸し、吸収することでした。国際人としての精神を培うヨーロッパ大陸で成長し、Carpe diem, quam minimum credula postero (「今この瞬間を楽しめ」、「今という時を大切に使え」)の言葉に従って生きてきた私に、より深い感動を与えてくれ言葉があります。それは、JICA兵庫(当時)の和室の壁に掛かる「一期一会」です。今の私の座右の銘となりました。
(最近のメールから抜粋)
ここ数日間、セルビアの環境省と科学省で開催された会議の出席が続きましたが、自然科学に親しんでいる私にとって、官僚主義に対応するのはなかなか厄介です。一連の会議が終わると本当にクタクタですが、自分の目標に向かって忍耐強くやっていくつもりです。大学での新しい教官としての仕事は、とてもやりがいがあり、学生たちからも学ぶことの多い毎日です。私たちが考えているプロジェクトは、1か月にわたり、ドナウ川から試料を採取し、選択した汚染物質について分析を行うことです。セルビアと日本で分析を行いつつ、相互に連携を取りながら技術も高めていくことです。また、同時に一般の人々に科学的な視野を持てるように普及活動を行い、環境保護に関する教育にも貢献したいと考えています。