継続は力なり!

【画像】研修コース名: 食品の安全性確保コース
研修期間:2011年8月28日から12月2日まで
マケドニア 食品・食肉庁 食肉公衆衛生部食品安全ユニット 職員
Mr.Vojislav Dimitrovski(ヴォイスラヴ ディミトロフスキー)

2011年に食品の安全性確保コースに参加した研修員の活動が、母国マケドニアの「食品の安全性確保」に貢献しています。ヴォイスラヴさんから帰国後の活動報告が届きましたので、ご紹介します。

ヴォイスラヴさんは、同コースに参加し、3か月にわたり、農場から食卓まで(From Farm to Table)の一貫した食料の安全性を確保するための食品安全検査・生産現場の衛生指導、及び監督のための知識・技術を学びました。彼が滞在中に気づいたことは、日本の食品製造者と消費者の食の安全に対する高い意識です。日本では、食品製造者にはセミナーや現場での指導が行われ、消費者には、ホームページやパンフレットなどを通じ、様々な情報提供が行われているからです。また、同じコースの他の国からの参加者からも多くを学んだそうです。

元JICA研修員ヴォイスラヴさんの活動報告

2013年3月 セミナー講師をつとめる筆者

食の安全キャンペーンのパンフレット

2013年3月 学生対象のセミナー

2013年3月 記者会見 右端が筆者

食品の安全性を確保することは、現在の世界において最も大きな課題の1つである。各国は、この問題について独自の方法を用いている。しかし、同時に、安全かつ品質の高い食品が生産・消費できるよう、他国の成功例を取入れるよう心掛けている。そのため、世界のどこでも安全な食品が提供されるよう、国際的な協調によって多くのセミナー・ワークショップ・研修が実施されており、各国の参加者が討議し、共に学んでいる。
このような研修の1つが、JICAによって兵庫県神戸市で実施された。3大陸からの参加者を対象とする3か月間研修が運営され、日本の食品衛生制度を含む様々な項目が詳細にわたって紹介された。日本の食品安全管理制度を知ることができたうえ、他の国からの参加者(アルゼンチン・ペルー・ベトナム・中国)を通じて各国の取組みも知ることもでき、私の食品衛生に関する見識は広まったといえる。各国の経験を共有することで、自分たちの国の食品安全に関する制度や取組みを改善するための有益な教訓を得ることができた。

この研修中に、指導者や専門家の支援を得て、私はマケドニアにおけるHACCP制度*の実施に至る過程を改善するためのアクションプラン(行動計画)を作成した。帰国後に、自らの業務をこなしつつ、この研修で得た知識・経験を活用するため、アクションプラン実施に向けて職場の関係者と意見交換を行った。その結果、マケドニア食品・食肉庁は、私が提案したとおり、以下の4つのセミナーを実施した。
 1.食品検査官の検査実施に係るチェック点などの見解の統一のための研修
 2.食肉業者対象の食品衛生基準順守のためのセミナー
 3.乳製品メーカーの食品衛生基準順守のためのセミナー
 4.レストランなどのケータリング業者の食品衛生基準順守のためのセミナー

食品業界や企業内の食品安全管理担当者は、これらの研修に多大な関心を示した。食品・食肉庁は、アクションプランの実施による業界の前向きな反応を受け、JICAバルカン事務所に対し、次のステップとして食の安全への消費者の意識を高めるためのプロジェクトを提案した。食品メーカーに対する啓蒙が大きな成果を上げたので、次に行うべきはその食品を実際に口にする消費者の意識向上である。この提案は、マケドニア社会全体に対して大きな効果をもたらすと認められ、JICAの支援により実施することが決定された。JICAがプロジェクト実施のための費用を援助し、実際の運営はマケドニア側が担当した。

この提案は、日本滞在中に学んだ東京都の健康安全部が実施する消費者対象の食の安全キャンペーンがモデルになっている。東京都の健康安全部を訪問した当時、マケドニアで同様のキャンペーンはまだ実施されていなかったが、これを行うことは重要であり、私も提案の中でこの点を強調した。

食の安全に対する消費者の意識を高めるというこのプロジェクトは、2013年の2・3月にマケドニアの5つの都市で実施した。マケドニア人口の20%はアルバニア語を話すため、マケドニア語とアルバニア語の両言語を用いてパンフレットも準備した。マケドニアの全人口200万人の様々な年代を対象とするため、4つの年齢群別グループ(子供・若者・労働者・年金生活者)に分けてキャンペーンを行った。これは、各グループによってニーズや理解が異なるため、それぞれ別のアプローチが必要であると判断されたためである。

キャンペーンではフォーラムを開催し、幼稚園・学校・大学・公共機関・年金生活者協会を訪問し、現場で説明を行い、いずれも大きな成功をおさめた。約31万の人々に対し食の安全について啓蒙し、キャンペーンについては全地域の人々に周知することもできた。全国及び各地方の報道機関も多大な関心を示し、ほとんどのフォーラムに参加してくれたことも成功の理由の1つといえる。
フォーラムで最もよく質問された内容とその回答は、食品・食肉庁のホームページ上にも掲載された。現在、このプロジェクトはマケドニア国内の公共機関による成功プロジェクトコンペにも推薦されている。まだまだ、始まったばかりである。Keizoku wa chikara nari!(継続は力なり!)

*HACCP制度:HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は1960年代に米国で宇宙食の安全性を確保するために開発された食品の衛生管理の手法で、国連の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機構(WHO)の合同機関である食品規格(CODEX)委員会から発表され,各国にその採用を推奨している国際的に認められたものです。原料の入荷から製造・出荷までのすべての工程において、あらかじめ危害を予測し、その危害を防止(予防・消滅・許容レベルまでの減少)するための重要管理点(CCP)を特定して、そのポイントを継続的に監視・記録(モニタリング)し、異常が認められたらすぐに対策を取り解決するため、不良製品の出荷を未然に防ぐことができる制度です。