JICAは、発足当初から国内で研修員受入事業を行っています。これは、国づくりの担い手となる開発途上国の人材を「研修員」として受入れ、技術や知識の習得、制度構築等をバックアップするものです。英語をはじめとする様々な言語で研修に参加する各国からの研修員と日本側関係者の間でコミュニケーションを円滑に行う、高い調整能力と語学力の要求される研修監理員(コーディネーター)は、研修現場に欠かせない存在です。
今回は、平成25年5月から7月まで、インフラ施設(河川・道路・港湾)の自然災害に対する抑止・軽減対策及び復旧対策コースを担当した秋山さんの集団研修コース初体験レポートです。
研修コース修了式の後で研修員と記念撮影(右から3番目が秋山さん)
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コーディネーターになって間もないある日のことです。視察現場で担当者から“Where are you from?”(お国は?)と話しかけられました。私は極めて日本的な顔立ちなので、しばらくはこの出来事が不思議でなりませんでした。しかしほどなくこの謎は解けることになります。
コーディネーターの仕事は、実に多岐に渡ります。通訳はもちろんのこと、研修員を引率するのも仕事です。しかし私の場合…。そもそも不勉強のために自分がどこを歩いているか分からない、駅で出口に迷う、研修員から「アキヤマサン、こっちだよ」と道案内される始末。これでは誰が見てもコーディネーターというよりは研修員にしか見えなかったでしょう。“Where are you from?”(お国はどちらですか?)と聞きたくもなるわけです。
コーディネーターのやるべきことは他にも山ほどあります。バスや列車、宿舎の情報把握、テキストの印刷状況確認や配布、医療機関への同行など、キリがありません。このように書くと研修監理の仕事は「与える仕事」(give)と感じる人もいるでしょう。しかし、コーディネーターはむしろ「与えられる仕事」(take)です。
海を見たことのない研修員が、初めて海を見たときのあの笑顔。名前も知らない国から来た人が歌っていた不思議なメロディー。降りしきる雨のなかをいつまでも手を振って送ってくれた視察現場の方たち。この仕事をしていなければ巡り会えなかった人々や風景に遭遇し、幾度も心揺さぶられる思いがしました。
また、この仕事を「国際的な仕事」と思う人も多いでしょう。しかし、私はこの仕事が「日本に出会う仕事」だということに気づきました。
視察の際、名もない道を通り、数知れない山を超えました。日本が山国だと知っていても、あの山の深さを本当に目にする人はそんなにいないに違いありません。また、視察現場の人々の弛まぬ努力を垣間見て、日本を技術立国たらしめる根本にある“attitude”(姿勢)を今更ながら学んだ気がしました。日本という国を日本にいながら他の国の人の視点で見直すという行為はなかなか出来るものではありません。
初めてのコースを終えて何よりも痛感していることは、研修員一人ひとりの自分にとっての存在の大きさです。あの、懐かしい顔を思い浮かべるだけで、その国はもはや見知らぬ国ではなく、特別な意味を持つ国になるのですから。