中南米地域障害者自立生活研修で出会った43名の研修員たちへ

2009年の閉講式。受入組織のメンバーと研修員達とは大家族のようになります。

尼崎から神戸ハーバーランドまで自分達だけで来ることができたことに大満悦の研修員達。

2013年11月、多くの涙と笑いを伴って6年間継続された中南米地域障害者自立コースの本邦研修が幕を閉じました。関係者総勢40名以上が参加する閉講式は、毎年多くの研修コースが実施されているJICA関西でもなかなか見られないほど、毎年大変盛り上がります。

この研修コースは、兵庫県西宮市の(特活)メインストリーム協会を実施受入団体として2008年から中米4か国を対象にスタートし、6年間の間に43名の研修員がこの研修に参加して帰国しました。
障害者のためのコースなら、就労支援のためのIT技術習得に違いないと思い込んで来日した研修員が、研修が始まってまず驚くことは、「障害者の自立の新しい概念」の講義。研修先で障害と共に生き活動している講師の方々から、「健常者主体の今の社会に、我々障害者が合わせなければならないのだろうか?!」 という問いかけを受け、まず目を見張ります。
そして研修スタート直後に行われる、研修員だけでの神戸散策のプログラム。スペイン語しかしゃべれない研修員と介助者達が、指示されたルートに沿って神戸市内を自分達だけで散策します。その過程で、街のバリアフリー状況、神戸の人達の障害者への対応ぶりを肌で感じます。 何よりの収穫は、インフラが整っていれば異国の街でも自分たちだけで、十分動き回れることを体験し、達成感・充実感を味わいつつ、障害者の自立の意味を真剣に考えるようになること。自由に出歩けないのは障害のせいじゃない、社会のインフラが未整備だからだと痛感するのです。

メインストリーム協会のメンバーとボランティア通訳達と一緒にお好み焼きも作りました。

研修中の講義では、「新しい自立」について学びます。研修員は、介助者を雇い1人暮らしをしている重度障害者の家でホームスティをし、一緒に暮らしながら、具体的な生活を体験し、このコースが目指す障害者の自立とは何かを心と身体で学びます。そうした日々の中で、受け入れ組織のメンバー達と家族のような深い絆が生まれます。
本国では家族の介助を受け自宅に閉じこもったままの状態にある重度障害者。それが、西宮では同程度の重度障害者であっても、親の家を出て1人でアパートに住み、居酒屋でもカラオケでも介助者を雇って出掛けて楽しんでいるという生活の様子を知って心底驚き、自分達の国でもそうした暮らしを、全ての障害者のために獲得したいと思うようになるのです。

ホームスティ先での語り合いは、深夜まで続くことが度々でした。

中南米では、国からの援助は殆どなく、障害者の介助はまだまだ家族が主体です。「障害は個人の責任ではない、国と社会の責任」という新しい認識を自分たちの生活する自国の社会に広め、地域社会での障害者の自立生活を獲得していくことは生半可なことではありません。まさに各研修員が帰国後ライフワークとして取り組まなければならない大事業となります。

健常者主体の今の社会を変え、障害者が地域社会の中でひとりでも当たり前に生きていける新しい社会を作るという大目標に向かって、帰国後半数以上の研修員達が各国で地道な周知活動を継続しています。特にコスタリカでは、研修が始まって3年目に障害者の自立生活センターが誕生するという快挙が成し遂げられました。その後、いろいろな逆風に遭いながらも「障害者の新しい自立」の芽は伸び、大きくなって来ています。日本での研修コースという形は今年度で終了しましたが、JICAの草の根技術協力支援を得て、西宮市のメインストリーム協会を通した支援は継続されています。中南米各国での自立生活運動の「志」の根は着実に広がりつつあり、日本の障害者の自立生活から大きな影響を受け、自身の生活の自立から社会的変革に向けて動き出した帰国研修員たちへ、大きなエールを送り続けたいと思います。

研修監理員 長谷川 和子