ワークショップの成果についてコメントする本荘さん
JICA:
本荘さんは、2007年から2012年まで6年間JICA関西で実施した研修コース「自然災害の事前復興計画」でコースリーダーを務められました。また、2014年度から開始されるJICA研修コース「災害に強いまちづくり戦略」でも、コースリーダーとして関わっておられます。これらの研修コースプログラムの内容について教えてください。
本荘:
災害後の対応は、発生直後の初動対応、そして、復旧、復興へと進んでいきます。まず、「自然災害からの事前復興計画」研修では、災害が起こってから復興計画を策定するのではなく、起こる前から計画を立てておくことが大切であるという視点をもって、阪神・淡路大震災からの復興過程で学んだ経験を伝える研修コースのプログラムを作りました。ただし、その経験・教訓を、一方的に伝えるのではなく、復興において、国によって制度や考え方が違うということを念頭に置いています。
例えば、「住宅再建」の主な対象層は、日本では、住宅の自力再建が難しい方であるのに対して、トルコでは、持ち家層になっています。
阪神・淡路大震災からの復興過程の教訓は、「自律と連帯」です。行政で対応できることには限界があることから、個人でできることはまず個人で、また、個人でできることは限られるので、互いに助け合うということが大切というのが基本的な考え方です。この教訓は、各国に共通するものと考えています。この共通の考え方を各国の研修員に伝えようとしました。具体的には、住民が復興の主体であり、また、コミュニティを重視するという考え方です。復興の課題ごとに例示しますと、災害の起こりやすい地域(被害が多いところ)は、住宅が密集して道が狭くなっています。そのため、災害に強いコミュニティを作るためにはオープンスペースを作ることが大切です。その手順として、地域の住民からの提案を聞き、一緒にコミュニティベースで復興まちづくり計画を作っていくようにします。また、地域の人々の健康状態について、保健師さんだけで常時見ていくことはできません。隣近所の方による地域での見守り活動を進める必要があります。このような「自律と連帯」による復興期の街づくりのノウハウを提供し、研修員にも自身の国の復興計画づくりに役立ててもらうようにしました。
2014年度に新しく立ち上がった「災害に強いまちづくり戦略」研修コースの特徴は、災害マネジメントの4つのフェーズをとりあげ、フェーズごとにプログラムを組んでいることです。4つのフェーズとは、次のとおりです。
まず、災害が起こってからの2つのフェーズ。
1.(災害応急対応)→ Relief & Response
2.(復旧・復興)→ Recovery
そして、災害が起こる前の2つのフェーズ。
3.(予防・減災)→ Mitigation
4.(事前準備)→ Preparedness
もう一つの特徴は、上記4つのフェーズについて、具体的な手法を伝えることを重視していることです。
2012年度研修コース研修員達と(前列右から2番目が本荘さん)
JICA:
研修員が研修に参加していろいろな学びがあったと聞いていますが、特に強く思い出に残っているものとは何でしょうか?
本荘:
研修後、何人かの帰国研修員が研修で学んだことをもとに、自国で、その具体化の取り組みを進めていることにやりがいを感じています。彼らが神戸に来て、ここで習得したことを自国の災害対応に役立てようとしていることを知り、本当に研修の実施を担当してよかったと思っています。
例えば、フィリピンでは、バランガイという行政組織を活かして、安全なまちづくりに取り組んでいる地方自治体防災担当者がおり、帰国後もメールでやりとりしています。1*
もう一つは、トルコの研修員です。神戸の復興事業から、防災公園の整備の必要性を強く感じ、自国での防災公園づくりの取り組みを進めています。2*
これらの研修員のように、研修での学びが自国の発展に役立ち、実践活動に活かされたことを本当にうれしく思います。
6年間の研修実施の間、66人の研修員が参加し、その中の多くの研修員と、帰国後もメールで連絡し合っており、ネットワークができています。研修を実施して、我々も学ぶことが多くあります。日本の災害だけでなく、海外の災害や災害対応の仕方について学ぶことで、日本の災害制度にもそれらの教訓を活かすことができると考えています。将来的には、このような研修で築かれた関係の中で、相互に経験や教訓を情報提供し合って、それぞれの国の災害制度が充実していけばと願っています。研修期間も50日弱という限られた日数の中、情報提供や交換の時間は限られているので、研修後に継続的に情報交換できることは素晴らしいことです。JICAにこのような機会を作っていただき、感謝しています。
JICA:
このような貴重な経験を、日本の国の政策に活かせそうでしょうか。
本荘:
たとえば、東日本大震災が発生した後、私が勤める神戸都市問題研究所として2011年と2013年の2回提言書を出しており、関係省庁、東北の自治体に発信しています。その中には、研修を通じて得られた内容が含まれており、それもひとつの災害防災の改善の一端になっているのではと思っています。災害自体は今活動期に入っており、世界的にもこれから発生する可能性があるため、災害が起こる前に被害を軽減することを目的に、これまでの経験・教訓から学ぶことが大事です。災害前に1ドルの事前対応をしておくと、災害後の対応の7ドルを節約できるというのが、アメリカでの経験から得られたことです。そういう意味でも、JICAの研修が今後ますます重要になってくるのではないかと思っています。
JICA :
本日は貴重なお話しをお聞かせいただき、大変有難うございました。本年度から始まる研修でも、
途上国から集まった沢山の研修員の方々と防災について話し合う中で世界的なネットワークがさらに広がっていくことを楽しみにしています。
1* フィリピン帰国研修員のジュンさんは、2015年1月18日(日)にポートピアホテルで開催される阪神・淡路大震災復興20年特別シンポジウム「災害の教訓とこれからの国際協力」に、帰国後の活動事例紹介発表者として参加します。
2* トルコ帰国研修員は、イスタンブールの消防士、ファティさん。ファティさんは、研修中に出会った様々な人々の復興への思いや取り組みに感銘を受け、自国に本当に役立つものをとの思いで、防災公園の整備を手掛けています。研修後自費で2回神戸に再来日し、研修講師の方々から自身の計画実施のためのアドバイスを受けています。1度目は、トルコ政府に提出する防災公園策定案に対して神戸市の担当者からアドバイスをもらい、2度目の2014 年12月の再来日時には、その提案が所属先で認められたので、計画内容について最終確認をもらうことを目的として来られました。