小さくても、オンリーワン企業を目指す

JICA関西では、さまざまな機関・企業の方のご協力のもと研修を実施しています。中小企業振興分野の研修で講義をして頂いた兵庫県の企業「オーヨン株式会社」の呉本社長をご紹介します。

イノベーションを起こす神戸の企業

デリットの技術に興味津々の研修員たち。「こんな薄い素材にも型押しできるなんてすごい!」

6月18日、「中小企業振興のための金融及び技術支援(A)」の研修員9名がオーヨン株式会社(神戸市)を訪問しました。
オーヨンは、金型を使わない型押し(*1)加工「デリット」という画期的な技術で躍進を続ける企業です。従業員は4名。呉本社長は、メーカーを定年後、オーヨンを起業しました。設立5年目をむかえる今、「デリット」の技術はさまざまな業界から注目され、積極的な営業活動を行っていないにもかかわらず海外からも問い合わせを受けるほどです。
「デリット」の特徴は、金型が不要なことと、さまざまな素材を型として使えること。従来の方法と異なり、短時間・低コストで簡単に型押しができることが革新的なポイントです。
起業後ビジネスを軌道に乗せるにあたって、呉本社長は神戸市の「ドリームキャッチプロジェクト(*2) 」や兵庫県からの融資など、公的機関からの中小企業支援を活用しました。社長自らデリット用の機械を製作するなど、試行錯誤の末デリットの技術が完成し、特許を取得するまでに至りました。

*1型押し加工:布や紙、皮などに凸凹の模様を表す加工方法。通常は金属に模様を彫った型(金型)などを作り型押しを行うが、「デリット」の技術を使うと、金型を使わずレースや葉などの素材を型に利用することができる。
*2ドリームキャッチプロジェクト:公益財団法人神戸市産業振興財団が実施する、新規創業、新事業立ち上げ、新分野進出などを考える個人・企業向けビジネスプラン認定制度。認定されるとさまざまなサポートを受けることができる。

途上国と日本の中小企業の違い

葉っぱを型押し素材として利用することもできます。

デリットの技術を使って繊細な模様が型押しされる様子を見て、「こんな簡単に型押しできるなんて信じられない」と研修員は興味津々。途上国では、技術力に悩む中小企業も多いため、日本の中小企業の技術力の高さに驚いていました。
また、研修員たちは途上国の公的機関や商工会議所などで中小企業を支援している立場なので、公的支援を活用して新ビジネスを成功させた企業の社長からのお話は非常に勉強になったようです。グルジアの経済産業開発省から来たラティさんは、「イノベーションを目指す中小企業を公的機関が支援している点が素晴らしい。グルジアでは起業家を支援する仕組みがまだ整備されていないので、日本の事例を参考にしたい」とコメントしていました。

オンリーワンを目指す

「呉本社長。お忙しいところありがとうございました。」

講義を聞くタジキスタンとブータンの研修員。

もうひとつ、研修員が驚いたのが社長の経営方針です。「ニーズが高いのであれば、販売を増やして会社をもっと大きくしてはどうですか?」との研修員からの質問に、呉本社長は「社員を大切にしたいので、無理に大きな会社にしようとは思わない。私が目指すのはデリットという技術の名を残すこと。小さくても、オンリーワンの技術を目指しています。」と答えました。当初は驚いていた研修員たちも、独自の技術を大切にし、ブランド力を高めていく経営戦略に納得していました。
モンゴル財務省の研修員デギさんが「デリットの技術について目を輝かせて熱心に説明してくださる社長を見て、とても幸せな気持ちになりました。社長のように経験と知識とガッツがある人こそが夢を実現できるのだと感じました。」と言ったとおり、呉本社長の経営方針と熱意がオーヨンの成功の秘訣なのかもしれません。

5週間の研修のなかでさまざまな中小企業や支援機関を訪問した研修員たちは、「日本企業が発展したのは公的支援が整っているからだけではなく、まじめで仕事熱心な日本人の国民性が大きく影響していると思う。」との感想を述べていました。

オーヨンのように元気な中小企業が関西でますます活躍されることを願っています。  
研修にご協力いただいた皆様、ありがとうございました。

JICA関西 業務第一課 小西 陽子

研修実施機関:公益財団法人太平洋人材交流センター
研修期間:2014年5月27日から6月27日まで

(記事中の写真はモンゴル商工会議所からの研修員バートさんが撮影しました。)