【阪神・淡路大震災20年 復興の経験を世界と共に】6 帰国研修員の活躍 〜チリと日本での経験を通じて〜 (ボリス・サエスさん/チリ)

日本から17,000キロメートル、地球のほぼ反対側に位置する国、チリ。日本と同じく地震・津波国であるチリは、過去に何度も大規模な地震を経験しており、その津波は太平洋を渡って日本にも到達しています。そんなチリで、災害に負けない強いまちづくりに向けて奮闘する帰国研修員に話を伺いました。

チリで唯一の市役所内「リスク管理課」

ボリス・サエスさん

JICA関西シンポジウムでの発表

ボリス・サエスさんは、チリ国内で唯一、地方自治体レベルでの災害管理部署「リスク管理課」を有するタルカワノ市役所に、課長として勤務しています。チリで行う災害管理は災害後の‘緊急対応’が主であり、日本のような災害前の’予防’対策は主流ではありません。そんな状況の中で’予防’活動を推進するボリスさんは、JICA研修で学んだ日本の防災ノウハウが日々の業務で大きな役に立っているといいます。2012年には「巨大地震災害軽減のための総合戦略」、2013年には「コミュニティ防災」と2本の研修に参加したボリスさん。日本の防災で特に注目したコンセプトは’住民の防災対応力の強化’でした。行政が対策を講じるだけではなく、災害が発生した際には現場で第一の対応にあたるコミュニティの災害対応力を強化することが災害の被害軽減に繋がり、災害に強いまちづくりに向けた一番の近道であると感じました。研修終了後は、自国で市民や児童向けの防災講座や大規模訓練を実施し、その中では研修で学んだNPO法人プラス・アーツ開発の防災教育イベント「イザ!カエルキャラバン!」・「レッドベアサバイバルキャンプ」を市役所独自に開催しました。チリでは初開催となるこのイベントへは、タルカワノ市だけでなく、州内の他市からも200名以上の児童が参加し、地域全体への大きなインパクトをもたらしました。ボリスさんは、JICA関西が2015年1月に神戸で開催した阪神・淡路大震災復興20年特別シンポジウムにて、その成果を帰国研修員代表として発表し、活動内容は神戸でも広く共有されることとなりました。

日本で学んだ’協働’の重要性

チリでのイベントの様子(1) 海軍がロープ結びを教えています。

チリでのイベントの様子(2) 子供たちの救急救命講習

ボリスさんが事業を進める中で常に心がけている事は’協働(Work Together)’であるといいます。’予防’の概念自体が新しいものであるチリにおいては、ボリスさん達リスク管理課が指揮を執る縦割り型ではなく、救援部隊や教育部門など、市役所内外の組織と横の連携を深め、’予防’の意識を広く関係機関へ浸透させることが最も重要であると考えています。
「JICA研修で日本の防災体制を学び、こうした’協働’の必要性・重要性を痛感しました。災害に強い体制を築くためには、様々なセクターが連携・協力して行う取り組みが必要不可欠です。2010年のチリ地震以降は、チリ全体が災害前の予防・リスク管理の必要性を感じていました。私達が行ったことは、皆が力を発揮できる場の提供だけですが、こうした事業を通じて相互のネットワークが強化され、関係者全体の能力向上に繋がればよいと考えています。」
事実、2014年12月に開催されたイベントでは、市役所内複数の部署や赤十字・市民保護局など外部組織から約100名が運営に参加。複数の組織による様々な防災体験プログラムが提供され、イベントへ参加した子供達は多くの防災知識を得ることができました。

活動のモチベーションは?

同じタルカワノ市役所職員でJICA研修員のカルメラさんと

ボリスさんは2013年にチリで初となる市役所内の防災課を立ち上げて以降、多くの関係機関を巻き込みながら事業を展開してきました。短い期間で目覚ましい活動を続ける、そのモチベーションはどこから来るのでしょうか。
「全ての活動をゼロから始めているので、チャレンジの連続です。特にコミュニティ防災の推進においては、行政の考えを住民に押し付けていないかと戸惑う事もありますが、失敗も含めて全てが自分たちの財産になっています。また、’チリで初めて’ということは、言い換えれば'比較材料がない'ということ。ここタルカワノ市からチリの新しい防災の形をどのように築くことができるか、これからも失敗を恐れず、挑戦を続けたいと思います。」
ボリスさんはご自身のお話を「I’m enjoying my new challenge!」と締め括ってくれました。日本での研修経験を活かし、帰国後も意欲的に前進し続けるボリスさん。遠い国チリで、日本の経験から生まれた防災の種が少しずつ根付き、大きな花を咲かせることを期待します。

JICA関西 業務第二課 後藤田 蕗子