研修コース名: 2015年度 インフラ(河川、道路、港湾)における災害対策コース
研修期間:2015年5月12日から7月17日まで
役職名:フィリピン公共事業・高速道路省、環境・社会保全課、技師
名前:Ms. LOFAMIA Maria Victoria Orlina(ビッキー)
家族と共に
私は電気技師のグレゴリー ロファミアを夫に持つ、パオロ、パトリック、ジュリアの3人の子供たちの母親です。
私は常に周りの人にも自分自身にも明るい面を見ることを心がけようと言い聞かせている、楽観主義者です。何事にもそれが起こったのには訳があり、目的がある。それが何なのか今は分からなくても、たとえ不幸な出来事であったとしてもそれが転じて福をもたらすーそれに気づく時が来るーそう信じています。私たちは自身の経験に学ぶことが大事です。そこから学んだことを忘れず、将来問題が起こった時に経験を生かせば解決に結びつけることができます。人は単に国勢調査上の数値の一つとして生まれるわけではなく、その存在には理由があるはずです。私たち一人ひとりがこの地球上で生きることには特別の役割があるのです。ですから人生をより充実した意義深いものにしたいと思います。
私はフィリピン公共事業道路部環境社会保全企画サービス課所属の土木技術者です。私の職場はマニラ市の本部にあります。
私が土木技術者という仕事を選んだのは、橋梁、道路、建築物、高速道路のようなインフラプロジェクトに携わること、そしてそれを利用し恩恵を受ける人々にモニュメントとしての構造物を提供することに大いなる意味があると考えたからです。子供たちやその子孫にも、「大勢の人の役に立つものを創ることに携わったのよ」と伝えることができると思ったのです。
和太鼓演奏会にて
日本に始めて来た私は、興奮し、またとても緊張していました。というのも初めての海外旅行で、しかも一人ぼっちだったからです。マニラから関西空港までは4時間のフライトで、家族からこんなに長い間離れるのは初めての経験ですし、研修コースに参加している研修員の中でフィリピンからの参加者は私一人ですから、母国語を話す機会もなく時にとても静かになったりもしました。このコースに参加している2か月の間、エルサルバドル、ミャンマー、フィジー、東チモール、セルビア、タジキスタン、ハイチからの研修員と共に学びました。私にとっては、日本の様々なことに触れ、学ぶ人生の中で最も記念すべき経験でした。
最初に気づいたのは、街の中に響く鳥の鳴き声、多くの街路樹と六甲の山々であり、清潔な通りと人々の温かい笑顔です。研修員仲間と一緒に神戸の街を自転車で走りまわり、心地よい気候を楽しみました。日本にいる間、私はより積極的に、また家族と会えない寂しさを忘れようと、守口幼稚園の子供たちや関西学院大学の学生たちとの交流会や、大阪府立芥川高校和太鼓部のコンサート、また静寂さを楽しむ茶道など様々なイベントに参加しました。東京への研修旅行中も神戸にいる間も、研修員仲間と一緒に街の探索をしました。
日本での研修を通じて、日本が経験した自然災害からの復興への取り組みについて学びましたが、それぞれの災害で被災した街を元の姿に戻すための人々の意気込みに驚きました。人命第一に計画し建設された構造物による対策だけでなく、環境や経済を考慮し、避難訓練や防コミ(防災コミュニティ)、緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)など構造物に依らない対策による防災、とりわけこれらの活動に地域住民が参加することで犠牲者をゼロにするという努力がなされていることに深い感銘を受けました。
研修中、私たちはここ数年の間に日本が遭遇した災害の只中を訪れました。自然災害の記憶を展示している資料館や記念碑を訪ね、嵐の後に太陽が出ることを思い知ります。1995年の阪神淡路大震災から復興した様子を見、東北大震災および津波の被害から復興途上にある宮城県を訪れ、何千人という人命が失われ、財産が失われたその場所が驚異的な速さで組織的に救助活動と復興活動が行われてきたことに驚きを覚えました。日本では災害管理に非常に重きが置かれており、近い将来発生が懸念される南海トラフ地震では人命が失われることがないよう、高価な地下貯留池、排水溝、スーパー堤防、防波堤、避難所を始め様々な手段が講じられていることを学びました。人命の重さをこれらの構造物の建設に費やされた費用で測ることはできません。政府はハザードマップの作成や近くの避難場所の周知など地域を巻き込んだ方策に力を入れています。災害の発生は抑えられませんが、災害による最悪の事態は減らすことができます。また予防することもできます。
フィリピンでも多くの自然災害を経験しました。災害は人命、財産、経済活動および人々の希望を奪い去ります。日本で見た巨大な防災構造物が私の母国にも建設できればと思いますが、現時点ではそのようなプロジェクトはわが国では存在しえないでしょう。しかしフィリピン政府は災害がどこで発生しようとも人命、財産、経済活動への影響を最小限に抑えようと努力しています。自然災害の発生は抑えたり遅らせたりできないことを私たちは理解しています。ですから、災害が起こった時に準備ができており、何をするべきかを知っておくことが大事です。雨季や台風が発生するシーズンにはテレビ、ラジオ、新聞、掲示板などで自然災害、特に繰り返し起こる洪水への備えについて繰り返し伝えています。いざという時のサバイバルキットとして呼子笛と停電の時に照らすことのできる懐中電灯を身分証明書の紐に付けて生徒に配布しています。天気予報では市民に食べ物や水の備蓄をしておくよう伝えています。衛生省はメディアを使って汚染水による感染症を予防するため豪雨時は屋内に留まるよう伝えます。沿岸部や低地に住む住民には早めに避難所や高地に移動するようアドバイスし、救助隊の二次災害防止のため台風接近中の救助活動は可能な限り行わないようにしています。災害発生時には支援の発動のため、国家災害リスク軽減管理委員会は関係政府機関と共に24時間体制で被災地のモニタリングを行っています。
土嚢を使った堤防の補修
このような研修を通じての技術移転は日本の成功事例を学ぶ機会として、近隣諸国にとって欠かせないものです。災害によって被災したインフラの復旧と再生のための対策や技術は母国から派遣されてこの研修に参加している土木技術者にとって非常に助けになります。研修によって、私たちが学んだのはインフラ施設の建設のみならず、山を覆う自然林の再生や、クリーンで新鮮な空気を供給する役割もある浸食防止のための植物や樹木の利用などです。地域の人々が破壊された山の緑を再生させた話には勇気づけられました。避難訓練や防コミ、TEC-FORCE、ハザードマップ、災害時にいつどこに避難すればいいのかという情報を共有すること、迅速な物資の供給などソフトな対策に国が力を入れていることも印象に残った情報でした。CCTV(監視カメラ)および計測機器のモニタリングによって住民に土石流の警報を出すことの重要性も学びました。安価な土嚢による道路の維持管理はコースで学んだ様々な知恵の中で、フィリピンだけでなくこのコースに参加した7か国すべての研修員にとって有益な情報でした。災害のリスク軽減のためにこれらの対策を学ぶことは非常に大事なことです。これは現在のみならず、後の世代に於いても非常に有益な情報です。
それぞれの分野の専門家である講師の皆さんがお持ちの専門知識を寛大にも共有いただきましたことに感謝申し上げます。私はインフラの災害対策に関する十分すぎるほどの知識を母国に持ち帰ります。本コースが今後も継続され、この崇高な行為が他の国々の人命、財産および経済を救うことを念じております。自然災害は地球上のどこにいつ発生してもおかしくありません。地球は一つ、互いに助け合い私たちすべてにとってより良い処にしましょう。
フィリピンのビッキーさんは、来日が一日遅れたため他の研修員が一日目に終えたプログラムを講義の合間に挟みながら、朝から晩まで大忙しでこなしました。その後、グループに溶け込み、リーダシップを発揮して様々な活動にも積極的に参加した様子がよくわかります。台風で大きな被害を蒙ったフィリピンの復興に、また今後の災害対策にビッキーさんの学んだ日本の知恵と技術が生かされる日も遠くないでしょう。
JICA関西 研修監理課 有田 美幸