サッカーボールから見えた支援のカタチ

【画像】名前:前西 靖啓
青年海外協力隊
職種:行政サービス 
配属先: ウドムサイ県投資計画局モニタリング・評価課
任地: ラオスのウドムサイ県サイ郡
派遣期間:2014年7月から2016年3月まで(現職参加)
出身:大阪府

サッカーボールが一つもない・・・

ボロボロのボールで練習する子供たち

ラオスでは、サッカーは最も人気のあるスポーツの一つで、2013年にプロサッカーリーグ「ラオス・プレミアリーグ」が誕生しました。私の任地でもサッカーの人気は高く、配属先では終業後有志が集まり週2回程度サッカーの試合をしています。また、市内の各所には、フットサルコートがたくさんあります。しかし、サッカーの指導や普及に対する国や地方行政機関による支援は十分ではありません。
同じ任地で活動する阿部貴弘隊員は、県教育スポーツ局に所属し、サッカーの指導・普及にあたっています。赴任当初、サッカーボールは一つもなく、その他スポーツ用具が全般的に不足しており、必要な予算も配分されていませんでした。サッカーボールの価格は、1個当たり約3千円から4千円程度ですので日本と価格は変わりません。現地の公務員の平均月収が2万円ほどなので非常に高価なモノです。
阿部隊員は、自らの人脈を生かして日本からボールを送ってもらっていましたが、活動に十分な数ではありません。そこで、私は阿部隊員の活動を支援するために、母校(清教学園)の恩師である増田義一氏や職場(茨木市役所)の先輩である大北規句雄氏の所属する団体にサッカーボールの寄贈を依頼しました。

一人から広がる支援のパス

ガンバ大阪が寄贈したサッカーボール

寄贈されたサッカーボールで遊ぶ子供たち

恩師である加藤文子氏(現JICA関西進路相談カウンセラー)と赴任前に20年ぶりに偶然再会。その縁を生かして加藤氏に母校にボールの寄贈を依頼できないか相談しました。「学校側が送料を負担するため難しいかもしれない。あなたの思いを直接当時の担任の先生に伝えてごらん」とのアドバイスをいただき、直接学校へ連絡したところ、高校2年時の担任であった増田氏につながりました。増田氏はボールの寄贈を快諾し、氏やサッカー部顧問の草尾氏の尽力により、母校のサッカー部で使用されなくなった中古ボールを寄贈いただくことになりました。昨年12月末、中古ボール6個と空気入れを赴任先に送っていただきました。その後、母校の後輩たちに定期的にラオスでの活動を「ラオス通信」という形で伝える活動をしており、恩師との交流も続いています。

また、昨年10月に職場の先輩である大北氏にボールの寄贈を相談し、知人である茨木市市会議員安孫子氏に協力を依頼しました。安孫子氏は、地元の慈善団体である茨木ハーモニーライオンズクラブの副会長を勤めていました。そこで、氏の尽力により、同クラブから新品ボール10個を寄贈いただきました。また、同団体を通じてガンバ大阪からもボールの寄贈いただくことになりました。
ガンバ大阪からの寄贈に際しては、茨木市観光協会、ガンバ大阪茨木後援会の松永氏のご協力、そして私の所属先である茨木市役所の長、木本保平市長の働きかけもありました。ガンバ大阪は、ホームスタジアムを万博記念競技場(吹田市)に置いています。茨木市は吹田市と接し、競技場へのアクセスもよいため、ガンバ大阪は茨木市をホームタウンと位置づけ、茨木市民を市民応援感謝デーに招待したり、茨木市主催の祭りに協力したり、地元のイベントに選手が参加したりと地域交流を積極的に行っています。今回、このようなガンバ大阪と茨木市との良好な関係もあり、ボールの寄贈が実現できました。
母校である清教学園からのボールは県教育スポーツ局へ、茨木ハーモニーライオンズクラブからのボールは今年の5月に県内の各郡の中・高等学校及び県教育スポーツ局へ寄贈しました。寄贈に合わせて各学校でサッカーの巡回指導をスポーツ隊員の協力を得て行いました。子供たちが寄贈したボールに触れて無邪気に喜ぶ姿を見たとき、寄贈できて良かったと思い、なんとも言えない気持ちになりました。

「モノ」から「ヒト」へ

今回の取り組みを通し、改めて「ヒト」への支援の重要性を感じました。
訪問先の学校では圧倒的にモノが不足しています。学校の建物、教材、筆記用具、スポーツ用具などだけでなく教師の数も不足しています。訪問した学校の生徒数は、千人から二千人ほどでしたが、サッカーボールは学校に1つか2つしかありません。そんなモノや施設が不十分な中でも熱心に指導する先生の姿がそこにありました。また、寄贈と合わせて各郡の教育局の職員や学校の先生と直接話す機会もありました。語学の壁もあり、内容をすべて理解できた訳ではありませんが、話し方や表情から職員や先生方の内なる思いを感じとれたように思います。「モノ」の支援も大切ですが、それ以上に「モノ」を有効に活用できる「ヒト」への支援の重要性を感じました。
私の活動は、日本の行政のやり方を現地の行政機関の職員に伝える「ヒト」への支援ですが、日々の活動では上手くいかないことが多く、正直投げ出したくなることもあります。しかし、十分な環境が与えられていない教育現場で熱心に取り組む先生方の姿を見て、私自身これまでの活動で反省すべき点も多くあることに気づきました。「ヒト」の支援は時間もコストもかかりますが、これからも活動に粘り強く取り組んでいくことがこの国の未来につながっていくと思いました。

1.寄贈元
 学校法人清教学園、茨木ハーモニーライオンズクラブ           
2.寄贈品
 サッカーボール26個、空気入れ1個
 内 学校法人清教学園 中古6個
   同上       空気入れ
 茨木ハーモニーライオンズクラブ 新品10個
 同上              中古10個
 ※中古10個については、ガンバ大阪から寄贈されたものです。
3.寄贈品受け取り日
 学校法人清教学園        平成26年12月23日
 茨木ハーモニーライオンズクラブ 平成27年3月11日
4.寄贈日・寄贈先
 平成26年12月24日 ウドムサイ県教育スポーツ局
 平成27年3月11日 ウドムサイ県教育スポーツ局
 5月13日 ナモー郡立中学校・高等学校
 5月14日 パックベン郡立中学校・高等学校
 5月15日 フン郡立中学校・高等学校、ベン郡立中学校・高等学校
 5月18日 ラー郡立中学校・高等学校
 5月20日 サイ郡ファイクム中学校・高等学校
 5月21日 ガー郡立中学校・高等学校