小さなコップに想いを込めて~アルメニア・美術館長ヴァハグさん〜

【画像】Mr.GHUKASYAN Vahagn (ヴァハグ)
アルメニア国 マリアム・エラヌヒ・アスラマジアン姉妹ギャラリー 館長
(The Gallery of Mariam and Eranuhi Aslamazyan Sisters)
研修コース名:博物館とコミュニティ開発
研修期間:2015年9月28日から12月19日まで
主な研修協力機関:国立民族学博物館、滋賀県立琵琶湖博物館

日本への憧れ、JICA研修員としての来日

アルメニア位置(赤色部分)

研修風景:展示品梱包方法を学ぶ

グカシヤン ヴァハグさんは、アルメニア第2の都市ギュムリにあるマリアム・エラヌヒ・アスラマジアン姉妹美術館(The Gallery of Mariam and Eranuhi Aslamazyan Sisters)の館長を務め、同時に、多くの作品を産み出す画家でもあります。世界最古のキリスト教国であるアルメニアは、教会や古代宗教の神殿遺跡など数多くの文化遺産を有する国です。そのような国で芸術文化に親しみ育ったヴァハグさんにとって、自然と歴史が融合した豊かな文化を持つ日本への訪問は長年の夢であったと言います。
そんなヴァハグさんは、JICA が国立民族学博物館・滋賀県立琵琶湖博物館の協力を得て行う課題別研修「博物館とコミュニティ開発」の研修員として来日する機会に恵まれました。この研修は3か月の期間、博物館の運営や展示資料の管理、来館者向けプログラム、地域と連携した教育活動など、博物館のあらゆる活動を学ぶことを目的としています。博物館は国や地域に蓄積された文化・歴史の集約とも言える施設であり、国や民族、そこに住む人々の誇りやアイデンティティの確立、地域の活性化の源ともなり得る施設です。日本の多様な博物館活動を学ぶため、研修では日本各地の大小様々な博物館や美術館を訪問しました。ヴァハグさんは、研修を通じて日本の博物館の資料を丁寧に扱う姿勢や、地域と一体となり活発な活動を行う熱意に触れ、深い感銘を受けたと言います。「地域の歴史を継承すると同時に、そこに住む方々と共に未来を築く拠点。日本の博物館は地域の発展に、大きな役割を果たしていると感じました。」

アートプロジェクト「Cup of Joy(喜びのコップ)」

美しい紙コップ、ルミナリエを背景に

コップに絵を描くヴァハグさん

コップを目に、思わず笑顔が!

日本滞在中に受けた数々のインスピレーションや出会った人々への感謝の気持ちを何かの形で表現したいと考えたヴァハグさんは、他の研修員の協力も得ながら、1つのプロジェクトを立ち上げました。「Cup of Joy」と名付けたアートプロジェクト、その素材として選んだのは白く小さな紙コップでした。画家であるヴァハグさんの手により色鮮やかに彩られた総計60個もの紙コップは、研修終盤に国立民族学博物館で開催されたクリスマスパーティで披露され、パーティに華やかな色を添えました。
「小さな紙コップですが、『Cup of Joy(喜びのコップ) 』の名が指すように、コップを目にした方々に喜びをもたらすことが出来れば良いと思います。私達研修員の3か月間の滞在を支えていただいた日本への、感謝の気持ちが伝われば幸いです。」
ヴァハグさんは、プロジェクトに込める思いをこのように語ってくださいました。
また、このプロジェクトはコップの展示が全てではありません。ヴァハグさんは展示後の紙コップを希望者に持ち帰ってもらい、ご家庭やご近所、旅行先などの新たな拠点に置かれた様子を写真に収め、本人へ送信、その写真を自身の博物館ホームページなどで紹介したいと考えました。これは、研修中に訪問した滋賀県内の博物館で実際に行われている取組みから発想を得たものであり、コップを一つの媒体にした世界中へのネットワークの広まりをイメージしています。

博物館ネットワークを通じて、社会へインパクトを

研修修了パーティでの記念写真

研修最終日には、日本で学んだ成果を基にした帰国後の活動計画を発表する、ファイナルレポート発表会が行われました。ヴァハグさんの計画は、美術館の展示方法の改善、来館者向けプログラムの充実化、地域の学校と連携した教育活動の実施など、非常に内容に富んだものでした。また、自身の博物館内の活動に留まらず、博物館のあるギュムリ市が属するシラク地方における博物館ネットワークの立ち上げや、今回の研修に参加したペルー・フィジーなど研修員出身国各国と連携してのフォーラム開催など、博物館のネットワークを強化した活動を通じて、社会へより大きなインパクトを与えたいとも考えています。
「『ファイナル』レポートではありますが、私にとってこれは全ての『はじまり』です。」ヴァハグさんの発表は、このような出だしで始まりました。その言葉の通り、ヴァハグさんの活動は、研修が終了したこれからがスタートです。アジア・ヨーロッパと国境を接し、東西の文化が融合した豊かな文化を育むアルメニア。そのようなアルメニアの美術館で、JICA の研修経験が活かされ、アルメニアの文化へ新しい色が添えられることを楽しみにしています。

JICA関西 業務第二課 後藤田 蕗子

【画像】★★ヴァハグさんの「Cup of Art (喜びのコップ)」は、JICA関西ロビーにて2016年1月4日〜1月29日の間、展示を行っています!★★
JICA関西へお立ち寄りの際は、ぜひご覧ください。