思いがけない出会い(マイヤンさん/南スーダン)

【画像】名前: Mr.ZIATH Mayen Muorwel Mayom (マイヤン)・南スーダン共和国
役職名: Helping Hands (NGO)プログラムディレクター
研修コース名: 紛争解決と共生社会づくりのための実践的参加型コミュニティ開発手法
研修期間: 2016年10月10日から 11月26日

日本は戦後の荒廃から世界で最も発展した国のひとつに成長しました。JICA研修に参加し、その歴史は地域開発に必要な情熱を語っていることに気づきました。また研修の外では、これからの私の活動に刺激を与えてくれる、思いがけない出会いがありました。
私の活動と日本での素敵な交流についてお話しします。

南スーダン共和国 Helping Handsの活動

ダンス大会に参加の若者

1. 平和構築
Helping Hands(以下、HP)では平和構築に文化的教育手段を取り入れており、ダンスやレスリングで賞を競い合うことで、民族の垣根を越えて若者がひとつになるための手段として証明されています。この過程で、舞台やラジオ・テレビのトークショーを通して文化的教育や和解が促進されます。お互いを学ぶことが、和解の第一歩で、その機会を作るのが文化的活動です。多くの若者が暴力の拡散において重要な役割を担っています。これらの団結した文化的活動により若者が自分の民族の発展において自分自身の役割を共有し反映できる舞台が創りだされます。
HPは文部科学省やジュバ大学と共同で、国際的な文化交流を推進しています。新しい文化を学ぶ機会を得ることで若者のグローバルな見方を変え、平和を愛する地球市民になる動機づけになることを目的としています。先進国を訪れる機会を得た南スーダンの若者は、高い生活水準を体験することで刺激を受け、近代化の歴史を学び、その労働文化は刺激的な経験になります。 

研修に参加した地域リーダー

平和委員会を介した部族間紛争の緩和:
南スーダンの紛争は民族性に起因するため、紛争緩和を早めるためには、様々な民族で構成される平和委員会を設立することが重要です。平和委員会メンバーには、紛争マッピング、緩和、解決など、紛争や平和教育におけるキャパシティビルディングが実施されます。教育を受けた平和委員会メンバーは、自身の様々な地域社会で平和の仲介者として平和の大切さを説くことで、紛争防止の助けになります。

民族間の対話:
平和委員会メンバーは、民族のリーダーなど重要な地位にある人物と共に、影響を及ぼす問題や紛争からの教訓について議論し、平和的な共存に向けた計画を立てる民族間の対話において中心的な役割を担います。持続可能な平和というものは、暴力紛争を引き起こす原因やその結末となる問題に目を向け、暴力に頼らない紛争解決のために、国民、地域社会や組織が協力して取り組むことで構築されます。平和の構築では、開発の必要性に目を向け、地域間の信頼を築かなくてはなりません。民族間対話により、紛争の背景に考慮した開発プログラムを起動し計画することを促進できます。

2. 保護
武装グループへの子供の徴用や徴兵を防ぐことは、HPの中心となる方針で、家族のきずなを強くし、考え方を改め、地域社会で影響力のあるメンバーやリーダーと連携のとれた取組みにより強化しています。子供の徴兵に対する対応として、権利擁護、暫定的なケア、家族の追跡、地域内の再結合があります。HPの役員として子供の兵士や武装を目の当たりにした経験から、子供の徴用を防ぎ権利を擁護することは、最優先項目であると実感しました。子供の徴兵や徴用にピリオドが打つことを支援し、その結果を継続できるよう前向きな関係を築くために、HPでは地方自治体や地域住民と連携した取組みを行っています。

HPでは、子供やその家族に心理面でのサポートや立ち直る力をつけるための活動を通して、子供を暴力から守るため、対象地域で紛争に巻き込まれた市民とともに取組みを行っています。これには、地域に子供交流の場を作ったり、地域社会がうまく心理社会的苦痛に立ち向かい回復できるようにソーシャルワーカーの人たちの教育や支援、ポジティブな対処メカニズム構築を支援するため、危険にさらされる子供や家族を対象にした、立ち直る力をつけるための活動があります。

女性ネットワーク(食糧確保)

3. 食糧の確保と暮らし
HPでは、対象になる家庭の生産的資産や暮らしの回復を促進するために、家族や子供に支援しています。暮らしに必要な生産的資産(種、器具、家畜や漁業の道具)を提供し、危機的な状況下にある家庭の食糧や栄養不足を改善し、また暮らしの立て直しや回復に役立てるよう収入や食糧生産を増やすことを目的に、子供や女性、女子のための特別なニーズに応える研修を実施しています。地域市場を復興させ、収入や食糧生産高や生産性を改善するためには、市場を基盤とした解決策も必要な時に必要な所で活用します。HPではベストプラクティスや教訓を記録し、影響を受けやすい子供の暮らしプログラムに関わる他のパートナーと共有しています。 

女性リーダーへの継続的支援

HPは対象地区の被災した弱者家庭に対し、緊急食糧や暮らしに必要なものを提供しています。緊急時には、当面の食糧ニーズは緊急援助で対応し、その後の初期的回復や復旧段階において、動物のケアや農作業の改善、農業インフラの復興や現金主体のプログラムが持続可能なアプローチが続きます。注目すべきは、支援や地域への関わりを通して資産増加や持続可能な開発における地域のキャパシティを高めることです。HPは食糧確保や暮らしをよくすることにおいて、ジェンダーに配慮しており、暮らしの格差をなくすため、女性の自助グループと共に取り組みを行っています。

中村教授と学生との交流を通して学んだこと

学生との交流

甲南大学の中村耕二教授との交流プログラムは、教育的で感動的な学びの経験です。自身の国籍に愛着を持つことなくグローバルな課題を分析している多様な背景を持つ学生たちから学ぶ機会をいただきました。教育により育てられた地球市民はクラス内の学生構成やグローバルな課題の討論に大きく反映されていて、地球市民として世界平和に関わり促進できる学生を作り上げたのは中村教授だと思います。学生は想像上の国境の壁を取り去り、人間性や世界平和に価値を見出す地球市民として、国民国家の利己主義を超えて立ち上がります。この交流を通して、HPでは、国際安全保障や地域レベルでの平和を促進するために私たちの権利擁護活動においても地球市民としての教育を含めていく計画をしています。若者にとって、国際的な文化交流は地球市民であることや教育の促進に重点的に取り組むことにつながります。

これまで長い間、人間らしさを脅かす原因や平和への目標に向けて、私は一人きりで、闘ってきましたが、中村教授や学生さんたちに出会え、取り組みや目標を同じくする「戦友」を得ることができました。交流のあと、学生の一人、さとこさんが、私の思いをうまくまとめました。
言葉にすることはとても重要です。地球上で最も平和な国に生まれ、武力紛争など経験をしたこともなく教育の機会に恵まれている学生が今、恵まれない環境や、暴力や紛争による罠に落ち教育の権利を奪われ将来が見えない人々に目を向け、問題のある社会に平和をもたらす手段として教育を提唱することが、人の考えを変える主張になるのです。ひとりの考え方を変えることで、南スーダン、シリア、イエメン、スーダン、ナイジェリアなどで紛争の落とし穴に落ちる子供たち、紛争で教育の機会が脅かされる人々の宿命に行政が目を向けることにつながる可能性があります。
始まりは私のストーリーの小さな分析であっても、地球規模のインパクトをもつことができるのです。学生は皆、洗練された「武器」−書く技術を有していて、世界を変えるために使用できる貴重な武器です。彼らは自分たちの声を世界中に広げる可能性を持っているのです。

中村教授からMayenさんへのメッセージ

来日直後のジェネラルオリエンテーション(日本紹介)講義の一コマ「日本の歴史・文化」を担当したことがきっかけで、Mayenさんは私の平和教育研究に大変興味を示し、研修が休みの11/5(土)の午後と帰国日前日の午後に甲南大学での私のクラス「グローバルトピックス」で発表と意見交換に参加しました。
南スーダンは64の民族からなる人口1230万人の世界で一番若い国です。20年以上の内戦のあと独立しましたが、今も新大統領派(35%の部族)と前副大統領(15%の部族)の対立が続いています。
Mayenさんは内戦で小学校教育の機会に恵まれなかった辛い経験を子供たちにさせないよう民族間の対立や憎しみを超えて国家として連帯を目指すという大きな夢へのシナリオを学生に語ってくれました。学生のひとり、Satokoさんは、南スーダンでの平和構築には教育の力が欠かせないこと、ダイバーシティや文化相対主義の大切さを学ぶことの重要性、南スーダンでの民族間の争いをなくし平和を構築するための第一歩はお互いを知ることであることを学んだとのレポートを書きました。Mayenさんのお蔭で学生は大変貴重な体験を積むことができました。 

私の任務

1980年代の後半、スーダン内戦が激しさを増す最中に誕生した私は幼少期に、他のどの子供にもどの人にも決して体験してほしくない恐ろしい状況を目の当たりにし経験してきました。私が子供時代は内戦により何度も強制移動を強いられとどまることはありませんでした。私は希望が持てない生活で育ち、そんな生活を送ることがどんなに辛いかを理解しています。
それでも私は見ず知らずの人からの援助で希望を抱き、Combini’s fathersが運営する、南スーダンのMapuorditにあるカトリックスクールで初等教育を受けました。ケニアのUNHCRキャンプで難民として過ごす間に、中等教育を受けました。見ず知らずの人からの援助は私に人間性の価値を教えてくれました。何も希望がなく生きている人々に、少しでも希望を与えることが私の任務です。
私のような経験をしなくてすむように可能な限りあらゆる方法で、すべての子どもを援助したいです。私の経験は私が前に進む力ですが、資金難の問題があり、希望のない人々に希望を与えるという幻想の中にいるのかもしれませんが、それが実現できる自分自身を驚かせたいと決意を強くしています。この思いで、兵士として徴用された子供が学校に戻り教育を受けられるよう支援しています。

編集後記

来日直後の研修員に日本の概要を紹介するために実施されるジェネラルオリエンテーションプログラム。その講義で、平和教育にも携わる中村先生の講義に参加できたことを運命的な出会いだと感じたMayenさん。講義のあとすぐに先生と連絡を取りたいと言ってきたことをよく覚えています。Mayenさんの思いや夢が日本の若者に伝えられ、そして将来日本からそのメッセージを世界に広めていく役目に携わっていただけることはMayenさんの夢を後押しすることになります。その縁結びに関われたことを本当にうれしく思います。

JICA関西 研修監理課 西大條 希